Netflixで11月24日から配信がスタートした『First Love 初恋』を観て、感動、なぜか発奮までしてしまったエッセイストの小林久乃によるコラム中編。前編はこちらから。
純然たるラブストーリーの本作。撮影ではヴィンテージライクなアナモフィックレンズが使われているという。この技法で撮影されているのは、現代ではなく、平成期が中心。忙しそうなふりをしているうちに、過ぎ去ってしまった平成30年間を旅しているようだ。これらの効果がすべて相まって、観ているとノスタルジックな空気に包み込まれる。そこに自分の青春を投影する。
要は「めちゃくちゃ泣ける」ので、ご注意を。
悲哀と歓喜。相反する感情、どちらも似合う満島ひかり
第四話から六話までの大まかすぎる、あらすじはこちらから。
東京の大学に進学した野口也英(のぐち・やえ/満島)は不慮の事故により、地元の北海道へ戻ることを余儀なくされる。そばにいるのは母親の幾波子(小泉今日子)だけ。交際をしていた並木晴道(なみき・はるみち/佐藤)とは疎遠になっていた。高校生の頃、ふたりで夢見ていた空での仕事を諦めることなく、自衛隊員となった晴道。ただ20年後、体を壊してしまい、現在は北海道のセキュリティー会社で働いている。同じく、北海道でタクシー運転手として働く也英。ふたりは偶然なのか、それとも晴道の心残りがそうさせたのか、再会を果たす。そしてまた晴道に惹かれていく也英。でも彼の側には、婚約者の恒美(夏帆)の姿があった
全九話の『First Love 初恋』。中盤では也英の運命が大きく動き出す。不慮の事故から、志を持って上京、進学をした東京から北海道へ帰郷。担当医であった、行人(向井理)との間に綴(荒木飛羽)を授かったことをきっかけに、結婚をする。はて? 確か第一話で幾波子は、晴道に向かって
「妊娠させたら殺す!」
と、ぶっ放していたのに。幾波子は娘の結婚、孫の誕生を心の底から喜んでいた。自分が苦労をして働いて娘を育てただけに、上流階級の家へ嫁いだことが何よりうれしかったのだろう。でもそんなうれしそうな母を観ながらふと思ってしまう。「あのとき、あんなことさえ起こらなければ」。物語の中はずっと”愛のたられば”が車のロータリーのように巡る。
あのとき、晴道が手を離さなければ也英の事故は起こらなかった。也英がマウント姑にいじめられることも、我が子と離れて暮らす苦渋も、恋した相手に婚約者がいて失恋を経験することも……ぜんぶなかったのに。いくら想起しても、過去は変えられない。それでもふたりが出会ったことは間違いではないと思わせる、広い愛がある。大きい、という比喩ではなくて広い。両手を横にふわっと広げて計測するような愛。
恋愛だけではない、ふたりを囲む壮大な愛と希望と
第四話から六話で、感じたことは“親の思い”だった。もちろん全編に込められている一つの愛のテーマではあるけれど、中盤では特に伝わるものがあった。
まずは我らがキョンキョンこと小泉今日子が、母親役から祖母役まで演じたことは見どころの一つだ。『学園天国』を歌ってブイブイ言わせていたあのキョンキョンがおばあちゃんとは……! 自分も年を取るはずである。演じた幾波子はシングルマザー。也英の父である昭比古(井浦新)と恋に落ちて、子どもがいることを知ると、好きな相手を自分のものにするために也英を妊娠した(というのは、也英の予想)。タバコをふかし、工場で働きながら、決して豊かとは言えない生活を送っていた。そんな母にキョンキョンは憑依していた。
第六話ではふたりで小樽に住む昭比古のもとに出かける。そこで昭比古は也英に万年筆をプレゼントする。
「これからの人生、試し書きは一貫して同じ文字を書くといいよ。そのほうがほら、そのペンの書き味が一目瞭然」
そういう父はいつも日本で一番美しい文字だと豪語する“也英”を試し書きしていた。ショートケーキのいちごも、肉や鰻の一番おいしいところを子どもに譲る。いつしか也英も同じように息子へ接していた。淀みのない愛はどこまでも同じ速度で流れていくのだと思った。恋愛と同じように、親子関係も順風満帆に進まない。そもそも人生なんざ、思い通りに進むはずがないのだ。それでも置かれた状況を一心に受け止める。このシーンはそんなことを教えてくれた。
他にも也英がおいしいと思ったナポリタンを、写真を添えて晴道に送るシーンがあまりにも“無防美”でかわいらしかったことも挙げたい。ちなみに無防備ではなく、私の頭に浮かんだのは“無防美”。満島ひかりのパブリックイメージそのままに、なんの屈託もない美しさがそこにあった。
それから、それから……とまだ書きたいけれど、続きは後編へ。
Netflixシリーズ「First Love 初恋」は 2022年11月24 日(木)より独占配信。