胃の内視鏡検査をしても異常が見当たらないのになぜか痛む、重苦しい、吐き気がするなど、胃の不調が続く「機能性ディスペプシア」という病気があります。読者からのお尋ねや、編集部内でも悩む人が増えています。そこでこの病気について、消化器病指導医・専門医で、著書に『胃は歳をとらない』(集英社新書)がある三輪洋人医師に連載で聞いています。
機能性ディスペプシアがどういう病気なのかは「第1回 胃もたれがつらいのに異常なしって何の病気? 機能性ディスペプシアって?」で、原因については「第2回」で、治療法については「第3回」で、食事によるセルフケアについては「第4回」の各記事を参考にしてください(リンク先は文末参照)。
今回・第5回は、「食事中に心配ごとがあるときに胃が痛む」という、機能性ディスペプシアの症状のひとつについて聞きました。
食事中の心配ごとは胃の不調をまねく
——前回(第4回)、「機能性ディスペプシアの患者さんでは、『食事中に心配ごとがあるとき』に症状が現れると答えた人の割合は67%になり、健康な人では24%であるのに対して明らかに高い」という研究報告があるということでした。
三輪医師: 不安や憂うつ感は、胃の不快な症状を誘発し、増幅することがわかっています。食事中に心配ごとや悩みごとを思うといった経験は誰しもあることですが、そればかりを考えていたり、それが毎食であったり、長く続いたりすると胃の機能に負担がかかりやすいことがわかっています。
というのも、食事を少ししただけで、「これ以上食べると胃が重苦しくなる」「食後にまた胃がもたれるかも」と、症状の出現を自ら予期するようになるからです。これを「予期不安」といいます。
やがて、胃やおなかの感覚に敏感になる、また、起こりそうな不調を心配するようになり、その予期不安が実際に不調を誘発する、または増幅する要因になります。
食事中は楽しいことをイメージする
——食事をすることと、胃痛や胃もたれがセットになる感覚でしょうか。悪循環ですね。避ける方法はありますか。
三輪医師: 食事の際には意識をして、悩みごと、心配ごととなる仕事や家庭、対人関係のことなどは考えないようにしましょう。悩みは横に置いて、少しでも楽しいことをイメージしながら食べるようにしてください。
リラックスできる誰かとともに、できるだけ静かな落ち着いた環境で好きな音楽がかかっている場所で、栄養バランスがとれた食事をとりましょう。背筋を伸ばして体の力を抜き、少しでも笑いながら、よく噛(か)んで食べましょう。
そうすると、自律神経の働きで食べたものの消化吸収が良くなって、胃の不快な症状を予期することも減ってくるでしょう。
不規則な食生活が胃不調をまねく理由は
——食事タイムはそうあるように、日ごろから心がけたいものです。また、「夜遅い時間の食事は胃の不調につながる」といわれますが、食事の時間も胃痛や胃もたれに関係するのでしょうか。
三輪医師: 関係があります。機能性ディスペプシアの患者さんは、「規則的な時間に食事をする割合が健康な人に比べて低い」という研究報告があります。
残業などで夕食が遅い時間になる、朝食をとらない、忙しくてランチをする時間がないなど、食生活が不規則なとき、胃腸の調子が悪くなることがあるでしょう。
食事を抜いた後は食べすぎたり、夜遅くに食事や飲酒をした翌朝は胃もたれやむかつきがあったりして、胃の負担が増幅します。
そうした食生活が長く続くと、自律神経のバランスが乱れます。リラックスしているときに活発になる消化吸収の機能が不安定になるわけです。
できるだけ同じ時間帯に食事をするほうが消化吸収の力が安定し、胃の負担が軽くなって症状は表れにくくなります。食生活の規則性は自律神経のバランスを整えて、胃の機能を正常に保つのです。
——平日は仕事の関係で、とくに昼食や夕食の時間はそうもいかないことが多いです。
三輪医師: まずは、朝食を毎日おおよそ同じ時間帯に、ゆっくりとよく噛んで食べるようにしてみてください。それだけで体のリズムが整いやすくなります。
残業時や昼食がとれないときなどは、前回(第4回参照)に紹介した栄養補助食品やヨーグルト、おにぎりなどの「補食」をあらかじめ用意しておき、適宜とるとよいでしょう。
聞き手によるまとめ
食事中に心配ごとや悩みごとを考えると、胃の症状が現れて不調の予期不安も生じること、また、不規則な食生活は自律神経のバランスを乱すので不調をまねきやすいということです。自分ですぐにできる方法として、食事中は意識的にリラックスすること、朝食は毎日同じ時間にとることを実践したいものです。
次回・第6回では、ストレスとの関係や、症状日誌をつける方法について紹介します。
(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル)