“完璧に理解してくれるパートナー”がいないと幸せになれない?【小島慶子】

“完璧に理解してくれるパートナー”がいないと幸せになれない?【小島慶子】

「「πな人生を生きていく。」」
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恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。

第24回は、女優のエマ・ワトソンさんが30歳を迎えるにあたってのインタビューで発言した「セルフ・パートナー」について。そこには他人とうまく付き合っていくヒントがあるのではないかと小島さんは考察します。その理由とは——?

「あなたは自分と結婚している」

私には、無類の旅好きでいつ会ってもエナジーで満ち溢れている愉快な友人がいます。彼女は30代の頃、付き合う男がどうもみんなしっくりこず、結婚どうしようかな……と占い師に相談したところ「あなたは自分と結婚しているから、相手探しは無用」と言われ、「ものすごい納得感だった」と語っていました。今も彼女は一人で世界中を飛び回って、仕事をエンジョイしています。

かねて積極的にフェミニストとしての発信をしているエマ・ワトソンも、30歳になるにあたり、恋人のいない自身をシングルではなく「セルフ・パートナー」と呼ぶようにしていると発言して話題になりました。

「セルフ・パートナー」であるとは、共に過ごす相手がいなくても人生が満ち足りていると感じることを指すそうです。私たちは「自分を理解してくれるパートナーに巡り会わないと幸せになれない」と思い込んでいやしないでしょうか。

「伴侶のいない人生は寂しい」という定説はそれはそれは強固なものです。人間は社会的な生き物ですから、誰も一人では生きていけないのは事実。だけど「一人ではない状態」とは恋愛や結婚だけを指すわけではありません。誰よりも自分を理解してくれる人と性愛を通じて排他的な関係を結んでこそ幸せになれる、というストーリーに繰り返し触れていると、そうでなければ不幸になると考えがちですが、果たしてそうでしょうか。

むしろ恋人や配偶者に「自力では幸せになれない私を幸せにしてくれるのはこの人だけ」と期待することは、相手を見る目を歪ませ、一人で立つ力を自ら放棄することにもなりかねません。

長い間、夫の信者だった私

私がそれに気がついたのは40歳を過ぎてからでした。それまではずっと、夫の信者だったんです。夫と出会った20代の頃の私は自分に関心が集中しており、かつとてつもなく自分が嫌いであったため、こんなダメ人間はこの世の誰からも好かれるはずがないという強い思い込みがありました。

それを払拭したくて人前に出る仕事についたものの、むしろ事態は悪化。日々自分にダメ出しをしまくって、過食嘔吐がひどくなる一方でした。そんな時に出会った夫は、私がメンタルをやられて感情的になっても、食べ過ぎたりその後トイレに篭ったりしても何も言いませんでした。だから「仏様のような人だ」と感激して、すっかり頼るようになったのです。

何をするにも彼に相談して、脳内ではいつも彼の声が聞こえていました。そうしているとダメ出しをし続ける意地悪な声がだんだん小さくなっていくような気がしたのです。そして3年間の同棲を経て、結婚、出産。

初めての子どもを育てながら仕事に復帰した31歳の頃は、これで自分もようやく穏やかで円満な家庭を手に入れたと思いました。生まれ育った家庭はなかなか波風が高い環境だったので、自分を受け入れてくれる穏やかな夫と可愛い赤ちゃんとの暮らしは、理想的だったのです。

ところがその幸せの最中に、夫が人として最低の行動をして、信用を裏切ったのです。さらに許せなかったのは「赤ちゃんのお世話にかかりきりで、慶子の瞳の中の白いキラキラしたものが消えたから、僕はグレたんだ」と言い訳したから。信じていた教祖が、まさかのクソ野郎だったとは! 「せっかく幸せになれたと思ったのに」と泣き崩れた瞬間のことは、一生忘れないでしょう。

そのあとは、あまりにもショックが大き過ぎたため、現実を見ないことにしました。他に行き場もない自分は、今の暮らしを幸せだと思う以外にない。だから夫がやったことは記憶の底に封印し、夫婦は円満で、私は幸せなのだと自分に催眠術をかけたのです。

杖を手放したら意外と自力で立てていた

その術が解けたのは、経済的にも精神的にも夫から自立せざるを得なくなった40代になってからです。それまでは共働き・共子育てで家計も家事も一心同体のパートナーとして子どもたちを育てていましたが、夫が仕事を辞めて私が家族を養うことになり、基本的に家族はオーストラリアで暮らし、私は日本で一人暮らしをしながら働くようになってみたら「あれ?案外、一人でも大丈夫じゃん」と思うことが多くなりました。

よくよく考えたら、これまでも自分で選択して、自分で決めて、自分で傷を抱えて、今も一人で頑張ってるよね。もちろん全て自分の力だけでやり遂げたなんて思わないけど、「夫なしでは絶対に幸せになれなかった」っていうのは自分を低く見積もりすぎではないか?と気づいたのです。

ずっと松葉杖にすがって歩いてきて、これなしでは生きていけないと思っていたのに、手放したら意外と自力で立っていた、という感じでしょうか。私を一人で立てるようにしてくれたのは、子どもたちでした。彼らが私を信じてくれたから、自分は人の信用に足る人間だと思えるようになったのです。

やがてそれまで子育てて途絶えがちになっていた様々な友人たちとの交流も復活し、いろんなところにちょっとずつ温かい気持ちをシェアできる人が増えていきました。すると相対的に夫への依存度は下がっていき、牛久の巨大大仏が鎌倉の大仏になり、やがて道端のお地蔵さんになって、今や見えなくなりました。

祭り上げていた夫を不完全な人間の座に下ろして改めて話をしたら、やっぱり深い絶望の淵に沈んで軽く死にたくなったけど、やがてもがいて水面に顔を出した時には、遥かな地平がちらりと見えるようになりました。

完璧な人を探してばかりいると…

幸せを運ぶ白馬に乗った王子様や、すべてを許してくれる聖母のように完璧な人を探している限り、男も女も出会う相手はみんな「そうじゃない人」になってしまう。ならばそんな幻想は捨てて、不完全な自分なりにいろんな人と少しずつ繋がる方がいいのかも。

私は自分を幸せにするしあなたはあなたを幸せにするけど、一緒にいると楽しいよね、っていう関係がちょうどいい。欠陥品の王子とマリアが互いを呪う人生よりも、人に優しくなれる気がします。

日本の芸能界は結婚ラッシュですが、これまで当たり前とされてきた「結婚」「夫婦」の価値が揺らいでいる今、エマのように自分で自分のパートナーになれる人こそが、他者と上手に生きられるのかもしれませんね。

【新刊情報】
11月15日、小島慶子さんの新刊『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ! 』(日経BP)が発売されました。

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