おひとり様の会社員が、40歳で都心に「7坪ハウス」を建ててみた。
「東京で家モチ女子になる」という無謀な企てを実現しようとして身に起きた出来事を、洗いざらい綴ってきたこの連載。
前回は、「私、ホントに家建てるんだ〜」とふわふわした気持ちのまま計4100万円という巨額の融資を受けることが決定し、よりにもよって3.11という日に都心に10坪の土地を購入してしまった経緯をお届けしました。
そして次は、夢の「7坪ハウス」を設計してくれる建築家を探すことなった家モチ女子ですが……
建築家の頭の中は宇宙すぎる!
建築家の頭の中は、いったいどうなっているのだろう?
凡人の私から見たら、彼らの頭の中は宇宙のように広く、謎である。接すれば接するほどその発想力に驚かされると同時に、オールマイティに、しかもかなり高レベルの頭脳と感性がないとできない仕事だと思う。
クライアントの希望を汲み取るヒアリング力に始まり、その希望を依頼主の想像をはるかに超える発想力で無(コンセプト)から、有(模型や図面、建てもの)へとつなげる創造力。そして、コンセプトや専門的なことを素人にもわかりやすく、端的に説明する伝達力。
法に則った設計を図面におこすには論理的な思考力が必要不可欠だし、ガス工事だ、電気工事だ、ソーラーパネルだ、警備システムだ、はてまた壁や床の素材や色はどうする、照明の種類や位置は? などなど単に建てものを形作るだけではない、インフラやクライアントの生活スタイルに合わせた設備提案も同時進行しなくてはいけない。
建築期間に入れば、現場に足しげく通うフットワークの軽さも必要だし、先方の仕事時間を避けてのクライアントとの打ち合わせは夜遅くなることも多く、頭のみならず体力も必要になる。関わる人が増えるほどに柔軟性や協調性、忍耐力、管理力、コミュニケーション力……、それはそれはたくさんの能力が求められる。
私だったらすっちゃかめっちゃかになってしまいそうな煩雑な仕事を、もの凄く楽しそうに飄々とやってのける建築家たちに、私は衝撃を受けた。彼らとの出会いは、理想の家を手に入れる手助けをしてくれただけでなく、仕事や暮らしに対する考え方まで変えてしまったのだ。
建売りを買うより気がラク
建築家とやりとりをしながらゼロから家を建てるというと、かなり大変な印象を受けるかもしれない。しかし、最初こそ敷居が高かった「土地を買って家を建てる」ことも、決めてしまえば、不動産会社やハウスメーカーから家を買うよりも、建築家にお願いするほうが、私にとってはずっと安心でやりやすい方法だった。
第2回や第3回で書いたように、わが家はテレビ、雑誌、ウェブメディアとさまざまな方面から取材を受けたが、興味をひく理由は「独身の女性」が建てた「都心の7坪住宅」というもの珍しさにあった。
「“オンナひとり”で“極小地”に “ショップ付き”の家を建てる」
メディアのみならず、建築家も面白がって飛びつきそうな素材ではないか。家族単位でのクライアントが多いなかで、私のような依頼は新機軸として建築事務所にとってもよいサンプルになるはず。
オンナひとりだからといって適当にあしらわれるどころか、逆に力を入れて臨んでくれるに違いないという変な確信があった。まだまだ一戸建てを一人で建ててしまう女性がもの珍しい現代においては。
もちろん、理由はそれだけではない。建築家に頼んだほうが自由度は高く、理想の家が作れるだろうという思いもあった。また、狭小で少々変型という土地の縛りは、建築家以外には依頼できないという思い込みもあった。
案の定、のちにハウスメーカーの方と話をする機会があったのだが、その際にわが家のような土地の建築依頼は「たぶんハウスメーカーでは難しい」と言われた。大量仕入のおかげで実現する低価格や、比較的短期間での建築が可能など、ハウスメーカーにはハウスメーカーの利点があるけれど、狭小住宅となると規定の設計や材料ではまかなえず、コスト面でかなり不利になるとのことだった。どうやら私の思い込みは間違っていなかったようだ。
建築家探しをどうするかは懸案事項だったが、すでに私にはプロのコーディネーターがついていたので、迷うことなくMさんおすすめの建築家に会いに行くことになった。
無茶ぶりにも「NO」を言わない建築家
建築家というと、芸術家然としている、職人みたいでちょっと気難しい感じなど、個性が強く自分の意見を押しつけがちなイメージがあった。建築家に依頼するなんて夢にも思っていなかった頃は、建築家に家づくりを依頼するということは、「建築家の“作品”を買うこと」と思っていたほどだ。
しかし、Mさんが紹介してくれたオンデザインは私の印象とは真逆で、個性がないのが個性、というような建築事務所だった。クライアントの要望に合わせて作られた家々は、どれも個性的だけど建築家の作品ではなく、クライアントの理想の家なのだ。
彼らなら、「“オンナひとり”の“極小地”」という素材に面白がって飛びついてくれると思った。期待通り、オンデザインの建築家たちは終始オンナひとりで家を建てることに何ら引け目や不安を感じるさせることなく、根気づよくつき合ってくれることになる。
わが家が完成し、ショップをオープンしてからというもの、「家を建てた」とか「現在、設計・建築中」というお客さまが数多く来店してくださる。そして世の中、思っている以上に自分の家に満足していない人が多いことに驚いた。
「設計が気に入らず変更をお願いすると、即それは設計上無理と言われた」とか、「変更を依頼すると、できるけどお金がかかるよと、金銭面の話しかしない」とか、「金額的なことやセンスの違いで、ほとんど自分たちで設計した」とか……。
オンデザインの建築家たちは、私の要望に対して「NO」と言ったことは一度もない。無知な私が建築基準法を無視したお願い、例えば、高さ制限があるのに、もっと天井を高くしてほしいと無茶ぶりをしたときでさえも。
そして、建築家の頭の中はいったいどうなっているのだろう? と最初に感じた第1回目の設計ミーティング。斬新な建築家の発想に、私は言葉を失うことになる。
(塚本佳子)