夫婦ユニットという働きかた 第四回

合わせ味噌みたいな夫婦でいたい。「ふたり出版社」を立ち上げて叶えたこと

合わせ味噌みたいな夫婦でいたい。「ふたり出版社」を立ち上げて叶えたこと

夫婦で一緒に仕事をする“夫婦ユニット”を紹介している本連載。今回は、出版社「アタシ社」を設立し、夫婦で本作りをしている、編集者兼ライター兼カメラマンのミネシンゴさんと、デザイナーの三根加代子(みね・かよこ)さんにお話を聞きました。

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〈アタシ社〉の夫婦ユニット三ヶ条
一つ:一生一緒に歩む相手「ケンカを恐れず思いを伝える」こと。
二つ:対等に権利を主張する関係「財布は折半にする」こと。
三つ:夫婦ユニットを組む前に「それぞれが得意技・技能を持つ」こと。

「考える人。それを形にできる人。この2つが揃えば本を作ることができます」。アタシ社のHPに書かれている一文です。夫が考える人(編集者)であり、妻がそれを形にできる人(デザイナー)、それが三根さん夫婦のユニット形態。作業は完全分業だけど、「ケンカは魂と魂のぶつかり合い」(三根加代子さん)というくらい、時には激しい戦いを繰り広げる2人。三根さん夫婦が目指す「RPG」のように突き進み「合わせ味噌化」する夫婦ユニットとは?

「冷め切った夫婦関係」はあり得ない

–やはり家で一緒に仕事をする時間は長いんですか?

ミネシンゴさん(以後、ミネ):いえ、一日中同じ部屋で作業をすることはそんなにありません。僕は打ち合わせや取材で外に出ることが多いんで。

三根加代子さん(以後、加代子):逆に私は家での作業が多いですね。それでもケンカはよくします。原因は仕事のことが多いかな。「画像ちゃんとセレクトしてよ!」みたいな。

ミネ:あとは外仕事のストレスのぶつけ合いですね。疲れてしまって、話しかけられても「うるさい!」とかね(笑)。

加代子:一緒にいる時間が長いからケンカする、ということではないような気がする。

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ミネ:確かにそうだね。ケンカも夫婦だからこそ遠慮なく言い合える部分は多分にあります。特に僕たち夫婦は完全に対等な関係なので。

加代子:お互いに稼いだ分は自分で管理して、お財布は完全折半にしているんです。少しだけでも旦那さんに多く払ってほしいという旧価値観的な思いも多少はあるけど、その分対等なので、権利はちゃんと主張します。

ミネ:でも、すぐに仲直りするよね。正直、ケンカしているヒマもないし。ケンカしている最中に「あっ、不毛なことしてる」って思いますもん。

加代子:すでに恋愛で一緒にいる関係ではないのかもしれないね。大事にされるとかされないとか、そういう世界ではないところで暮らしが共有されているから。口をきかないとか、いわゆる「冷め切った夫婦」という関係は起こり得ない。

夫婦ユニットは「合わせ味噌」

ミネ:夫婦とか仕事仲間とか、カテゴリー分けできない関係なんでしょうね。

加代子:そうそう、言うなれば「合わせ味噌」みたい。白みそと赤みそが混ざって二度と分離できない(笑)。

ミネ:(笑)それは的を射ているね。運命共同体というと、ちょっと「キモイ」って思うけど、合わせ味噌と言われると特長も味も違う物が合わさって、いい味を出している感じがする。

加代子:暮らしも仕事も一緒となると、上辺だけでつき合っていくわけにはいかないんですよ、合わせ味噌化しないと。

ミネ:仕事仲間とは違って、一生一緒に仕事をしていかないといけないわけで、それは大きなポイントだと思う。

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加代子:私たちは混ざってもう二度と分離できないようになって、合わせ味噌だったことすら忘れてしまう、みたいな感じが理想(笑)。

ミネ:仲のいい会社仲間でも会社を辞めると会わなくなってしまいますよね。でも、夫婦だと家に帰れば必ずいる。それをおもしろいと思えて、より住み心地もよくて、さらには働きやすい。夫婦ユニットという形態は、夫婦や仕事仲間の新しいカタチだと思います。

夫婦で戦うための特技を身につける

加代子:さっきも言ったように、私たち夫婦はお姫さまが騎士に守られているみたいな関係じゃないんですよね。

ミネ:ゲームでいうRPGのように、一緒に戦っているみたいな。

加代子:これからの女性は専業主婦で旦那の稼ぎだけで食べていくというのは一部の人しか享受できない世界だと思います。

ミネ:それは決してネガティブなことではなくてね。

加代子:もちろん。旦那さんと一緒に戦いながら、RPGのように人生を歩んでいくほうがだんぜんおもしろいと思いますよ。

ミネ:僕も子育てしたいし。

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加代子:家にゆりかご置いて、子どもが泣いたら旦那さんに「私、忙しいからミルクあげてきて」みたいな感じでね。子どもをおんぶしながら旦那さんのそばで仕事をするのって、絶対に楽しいと思う。

ミネ:そういう暮らしのスタイルというか、夫婦ユニットというカタチはこれからもっと増えていくんじゃないかな。

加代子:メリットのほうが多いしね。

ミネ:忙しかったら、どちらかが子育てすればいいし、一緒に仕事していると夫婦間でコミュニケーションがとれないなんてこともあり得ないですからね。

加代子:そのためには、はじめる前にお互いがどんな技能を身につけるかということを真剣に考えるべきだと思います。

ミネ:お互いの技能や技術をどう合わせ味噌化していくか。

加代子:(笑)そうだね。私は夫婦で出版社を創ろうという発想以前に、デザイナーになりたくて、社会人になってから夜間学校で勉強しました。そのスキルがなかったら、「アタシ社」という夫婦ユニットのカタチはなかったと思いますね。

ミネ:夫婦ユニットを結成するためには、夫婦の技能の掛け合わせをイメージして勉強や資格を考えていく必要があると思います。編集者とデザイナー、作家と営業マン、農家とWebデザイナーなど。一緒に仕事を生み出せる関係が、夫婦ユニットという働き方をスタートさせるのだと思うんです。

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理想の夫婦ユニットを「合わせ味噌」とユニークな言葉で表現する妻・加代子さんと、「一緒に子育てしたい」と嬉しそうに未来を語る夫・ミネさん。ぽんぽんとリズミカルに進んでいく2人の会話を聞いていると、すでに合わせ味噌化しているとしか思えない「阿吽の呼吸」を感じました。

【アタシ社情報】
2017年には『美容文藝誌 髪とアタシ』最新号や、新創刊雑誌『たたみかた』、その他単行本もリリースします!

(塚本佳子)

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