フェムテック・フェムケア市場が活性化する今、生理や女性ホルモンにまつわる症状について語られることが増えると同時に、「更年期」という言葉も、耳にしたり目にしたりする機会が増えました。
その一方で、ネットにあふれる情報の信ぴょう性を疑ったり、何を自分が取り入れればいいのか迷ってしまったりすることも。そんな中、抗加齢医学の第一人者で内科医の青木晃(あおき・あきら)先生と、女性のウェルネスをサポートするサプリや化粧品のブランド「SIMPLISSE(シンプリス)」を展開するMNC New York のCEOであり、自身も更年期真っただ中という山本未奈子(やまもと・みなこ)さんによるトークセッションが12月9日、東京都内で開催されました。
テーマは『抗加齢医学の青木晃先生に聞く、更年期から始めるWell Aging』。更年期の基礎知識や更年期の新情報、上手に付き合うヒント、間違いがちな情報をクイズ形式で解説するなど、充実した内容となりました。

(左から)青木晃医師と山本未奈子さん
更年期鬱でベッドから起き上がれない…
山本未奈子さん(山本):実は、もともとボジティブ思考でどちらかというと社交的な性格の私が半年前、更年期鬱(うつ)になり、涙ばかり出て気力も希望も失って、約2カ月間、ベッドから起き上がることができませんでした。その経験から、更年期についてもっと発信していこうと思ったことが今回の対談のきっかけです。
青木晃先生(以下、青木):これまでは、60歳で定年、80歳が平均寿命で、60〜80歳の20年間が老後でよかったけれど、人生100年時代のこれからは、80歳まで現役という考え方や生き方に変わってきています。そうなると、60歳を過ぎてから起業するなど、新しいスタンスの考え方や生き方が生まれることに。その人生のために、病気にかかってから治療するだけでなく、健康を維持するための予防医療が重要になってきます。
老化との違いは? なんでも「更年期」で片付けない
山本:更年期の不調が原因でキャリアアップなどさまざまなことを諦める女性も多いと聞きます。私たちは更年期をどのように捉え、どのように向き合っていけばよいのでしょうか?
青木:ホルモンが低下することによって起きる不調、それが更年期症状です。日本人女性の閉経の平均年齢は50.5歳といわれているため、おおよそ45〜55歳に体の転換期を迎えます。
実はその時期は、加齢による機能の低下、つまり「老化」が、いろんなところで起こってきます。例えば、老視(老眼)が始まったり、シミが多くなったり、白髪が生えたりなどです。自身の身に起こった症状が女性ホルモンの低下で起きているのか、単なる加齢によって起こる老化現象なのか、実は明確に区別する必要があります。
それを全部「更年期だからしょうがない」というのは、サイエンスではありません。ホルモン低下による更年期障害だったら、婦人科でホルモン補充療法を受ける、メンタルの面であれば心療内科に行く、めまいや頭痛であれば神経内科に行くなどで対処することが必要です。
「食」「睡眠」「運動」を整えることを意識して
山本:まずはきちんと医師の診断を仰ぐということですね。ただ、婦人科や心療内科は敷居が高いと感じる人も多い気がします。とくに心療内科は行きづらく、アメリカでは、鬱は心の風邪のような感じでカウンセリングに行けるので、日本も変わっていけばいいと思います。普段の生活で取り入れられることは?
青木:閉経、白髪、老視など、生理的な老化現象は同年代で同じように起こってくるものですから避けることはできません。ただ、加齢のスピードをゆっくりしたり、更年期の体調を整えたりすることは可能で、ライフスタイルが重要になります。
3本柱は「食」「睡眠」「運動」。それが自律神経を整えることにつながります。本当はお天道様と同じ生活をするのがベスト。なぜなら、日が出ている時は交感神経で、日が沈むと副交感神経が優位になるという本来の体の摂理、自律神経の働きに従っているから。現代の生活はそれが乱れています。自律神経は私たちの心身の健康をつかさる縁の下の力持ち。日々、ご主人様の不摂生に耐え忍んでいますから、できるだけ、そのリズムに近い生活をするといいですね。暑くて汗をかいたり、寒さを感じて鳥肌を立てたり、寒暖を感じることも大切。昔の人たちのような生活リズムに近づくように意識しましょう。
山本:そもそも更年期の症状とはどうして起きるのか、教えてください。
青木:卵巣からは卵胞ホルモンと黄体ホルモンが出ているのですが、その2つのホルモンがぐっと下がるのが更年期の始まりです。会社に例えるなら、卵巣は“平社員”。そのホルモンの分泌をコントロールするのが“部長”にあたる下垂体です。さらにその上で命令を下すのが、睡眠欲・食欲・性欲、精神などをつかさどる視床下部で、“社長”にあたります。部下が働かなくなっているので、部長がもっと働けと命令する。しかしなかなかうまくいかない。社長もあたふたしてしまう。それが更年期に表れるさまざまな不定愁訴です。改善するためには、それを理解して悪循環を断ち切る必要があります。
山本:「悪循環を断ち切る」には具体的にはどんなことが必要ですか?
青木:婦人科でホルモン補充すればある程度落ち着くので、それも一つの手です。一回リセットして、その間に食を見直したり、運動を習慣にしたり、睡眠を十分にとったりする生活を心掛ければ、徐々に自律神経が落ち着いてくるので、今度はいい方向に向かっていきます。そういう意味でも、婦人科を受診することは大切ですね。ホルモン補充をしないのであれば、サプリメントを使うのもいいでしょう。生活を整えると、自律神経が心身のバランスを取るように調整してくれます。
山本:私は口の中が乾燥して、臭いも気になって1日10回くらい歯磨きしたりしていました。それも更年期の症状ですか?
青木:それは眼、鼻、口、膣、など粘液が出るところが乾燥してくるドライシンドロームです。それがダイレクトに女性ホルモンに起因するわけではありません。ここが重要なところで、実はドライシンドロームは老眼や白髪と同じ加齢、老化現象の一つなんです。女性の場合、更年期世代はシェーグレン症候群という膠原病の一種である可能性がありますから、しっかり診断してもらうことが必要です。
山本:普段の生活では、水分をとることも大切なんですよね?
青木:水が元になって、粘液が分泌されるので、1日2ℓ飲むようにしたいですね。朝起きて200ml、各食事の時に200ml、午前中と午後に500mlずつ、夜寝る前に200ml。カフェインが入っていない飲み物がいいです。汗をかくことも大切で、一番いいのは深部体温が上がり、じわッと汗をかき始めてから大量の汗が出る運動。運動が嫌いな人は、岩盤浴やお風呂に15分間くらいつかって汗をかくと汗腺がよく働きます。