「生命科学アカデミー」内藤教授に聞く 最終回

大切なのは「自分に合った方法を続けること」腸内細菌を味方にするために覚えておきたいこと

大切なのは「自分に合った方法を続けること」腸内細菌を味方にするために覚えておきたいこと

「人生120年時代のわたしたちへ」
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人生100年時代。もしも100歳まで生きるとしたら、どんな自分の姿を想像するでしょうか。もしかしたら、「そこまで長生きしたくない」と思う人もいるかもしれません。

それは「健康」が失われて働き方や生き方に希望がもてないからではないでしょうか。もしも、元気に歳を重ねていけたら——。最近は、生命科学のさまざまな研究から「老いは病気」「病気ならば治せる」といった可能性が見えてきました。

健康に美しく生きるために、最先端の研究を学ぶYoutube番組「生命科学アカデミー」は、このたび腸内微生物・消化器・抗加齢医学を専門とする内藤裕二先生をゲストにお迎えし、「腸内環境」と健康についてたっぷりと解説していただきました。

※本記事はYoutubeチャンネル「生命科学アカデミー」で6月30日(木)に配信された内容を、ウートピ編集部で再編集したものです。情報は撮影時のものです。COVID-19に関する最新の情報は内閣官房ホームページをご参照ください。

新型コロナ 日本人の感染者数・重症者数が少ない理由は?

——今回のテーマは「免疫」です。先生は新型コロナウイルスと腸内環境の関係についても研究されているそうですね。

内藤:新型コロナウイルスの流行は我々の研究をものすごく変えました。今までの研究が止まってしまったり、学生の授業もできなくなりました。私が自宅待機していた2020年頃、日本人の感染者数や重症者数の割合は、アメリカよりも遥かに少数でした。この理由を追求したところ、一つのヒントが思い浮かびました。

当時、消化管の研究者間では、最初にウイルスと戦うのは体内で分泌されている「免疫グロブリンIGA(以下、IGA)」 だと言われていました。そこでIGAの遺伝子について、調べてみたのです。すると、ほとんどの日本人がIGAをほぼ完璧に分泌できていたことが判明しました。

一方、アメリカや欧米には、先天性にIGAを分泌できない人が少なからずいることもわかりました。そこで、「IGAを分泌できない人と感染者数は比例するのでは?」と思い立ち、論文にしたところ、あっという間に広まり、多くの賛同を得ることができたのです。

現在日本では、「免疫グロブリンIGA」を増やせる食べ物の研究が進められています。実際に動物レベルでは、IGAの増加につながる食べ物や成分が見つかりました。具体的に何を食べればいいか、という話はまだできません。

しかし、長きにわたり日本人が和食を食べ続けてきたからこそIGAが分泌され、腸内環境が良く、感染者や重傷者が少なかったのではないかと私は考えています

感染・重症化予防の鍵を握る「酪酸産生菌」

内藤:しかし、ウイルスが免疫を突破して体内に入ると、日本人にも抵抗する術がありません。新型コロナの流行初期は、約200人に1人の割合で命を落としてしまう可能性がありました。なんとかして重症化の原因を突き止められないかと調べ始めたところ、10年程前に起きた、インフルエンザの院内感染に関する研究が思い当たりました。

実は私は、その研究を通して、インフルエンザウイルスが腸に感染することを世界で初めて発表したのです。ウイルスと聞くと「肺に感染するのでは?」と思う人が多いようですが、実は腸に感染しています。そこでコロナの重症化と腸の関連性について調べたところ、世界中で同じようなことを考えている研究者がいて、すでに「新型コロナウイルスは消化管に感染する」という論文が出ていました

感染者が激増した中国でも、新型コロナウイルスと腸内細菌に関するデータが発表されました。その発表でわかったのは、重症化して入院した人や人工呼吸器による治療を受けている人は、酪酸産生菌が減っているということです。後遺症に悩む人を調査した際にも、同様の結果が得られました。

これらの研究を総合的に考察し、短鎖脂肪酸を産生するような酪酸産生菌や、酢酸、プロピオン酸を保持することで、感染予防や重症化予防につながるのではないかと私は考えています。

京丹後の人々の生活が、免疫力アップのヒントに

内藤:もう一つ、インフルエンザに関する研究でわかったことがあります。5年前、私の研究チームが京丹後で健康長寿に関する研究を始めた頃の話です。東京ではインフルエンザが猛威を奮い、10人に1人程度の割合で感染していると言われていました。

しかし、京丹後で約300人の高齢者にアンケート調査をしたところ、インフルエンザや肺炎で入院した経験のある人が極端に少なく、5%にも満たなかったのです。一概には言えませんが、もしかすると、健康長寿で有名な京丹後の人々の免疫能力は、一般的な値よりも高いのかもしれません。

免疫については新型コロナの影響もあり大きな話題になっているため、今後おそらく研究や測定の技術が進歩するでしょう。近いうちに、画期的な食べ物や飲み物が日本で開発されるのではないかと私は考えています。

大切なのは「自分に合った方法を続けること」

——最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いいたします。

内藤:腸内環境を改善するのは難しく、1日2日で簡単に変えられるものではありません。大切なのは、自分に合った方法を見つけ、長く続けていくという習慣づけです。身近な食べもののなかで、自分の体に合うものを探しながら、長い目で考えていただければと思います。

——体調による変化も考慮した上で、毎日少しずつ腸内環境を整え、健康長寿に向けてともに歩んでいきたいですね。先生、長い間ご協力いただき、誠にありがとうございました。

<最後のまとめ>
・日本人のほとんどが「免疫グロブリンIGA」を分泌することができる
・ウイルスが腸に感染するということを内藤先生が世界で初めて発表
・COVID-19が重症化した人や後遺症がある人は酪酸産生菌が減っていた
・京丹後の人は免疫機能が高い

(完)

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