免疫って何? 高めるにはどうする?第10回

ウイルスや細菌って生物? 抗生物質は効くの?【専門医に聞くやさしい免疫学】

ウイルスや細菌って生物? 抗生物質は効くの?【専門医に聞くやさしい免疫学】

免疫のありかたが叫ばれる昨今、読者からは「そもそも免疫って何? 高めるにはどうすればいい?」との声がよく届きます。そこで、『免疫入門 最強の基礎知識』(集英社新書)の著書がある耳鼻咽喉科・気管食道科専門医の遠山祐司医師に連載で詳しく尋ねています。

前回の第9回では、感染症の原因となる「ウイルス・細菌・真菌(カビ)」はどう違うのかについて紹介しました。今回・第10回では、ウイルスや細菌とは何ものなのか、生物なのか、また抗生物質は効くのかについて聞きました。

遠山祐司先生

遠山祐司先生

ウイルスって何もの? 生物ではない? 

——前回(第9回)では、「ウイルスは生物ではない。細菌と真菌は生物である」ということでした。ではウイルスとはいったい、何ものなのでしょうか。

遠山医師:まず、生物の定義とは、次の3つが条件とされています。

(1)自分と同じものをつくれること(自己複製する。自分の遺伝子を受け継ぐ子孫を自分でつくれることという意味)

(2)細胞で構成されていること(体が膜で仕切られている)

(3)代謝を行うこと(エネルギーを燃焼して生命維持活動を行う)

ヒトの場合はこの3つを満たすので、生物です。ではウイルスはどうか、3つの条件を見てみましょう。

(1)ほかの細胞に入り込んでその細胞の中で増えることはできますが、細菌のように自分で分裂して2個や4個、8個…と増殖することはできません。

(2)前回に話したように、核酸(DNAかRNA)がタンパク質の殻で包まれただけの単純な構造で、細胞で構成されているとはいえません。

(3)エネルギーを生み出さないので、代謝を行うとはいえません。

つまり、ウイルスは3つとも条件に合わず、生物の定義にあてはまらないのです。ただし、寄生した宿主(しゅくしゅ)の細胞を利用して核酸やタンパク質をつくって増えることはできるため、なんとも微妙な存在と言われます。医学者の間でも議論がかわされていますが、現在のところ、ウイルスとは「生物と非生物の間」の存在と表現されています。

——新型コロナウイルスの場合、やっつけても「死んだ」とは言わないのは生物ではないからですか。

遠山医師:そうです。「不活化した」という言葉を耳にするでしょう。新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスは生物ではありません。そのため、「ウイルスが死んだ」とは言わずに、「不活化した」とか「失活した」と表現します。

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ウイルスや細菌に抗生物質は効く?

——ウイルスと細菌は、まとめて「ばい菌」としてイメージされることがありますが、前回からのご説明で、それぞれが別のものだということはわかりました。では、抗生物質(抗菌剤)はこれらに効くのでしょうか?

遠山医師:これまでお話ししたように、ウイルスと細菌は、大きさも特徴も感染の方法もまるで異なります。当然、有効な薬も異なります。

抗生物質が効力を発揮するのは細菌のほうです。抗生物質は細菌の細胞の構造を破壊し、細胞が増殖することを防ぐように働きます。いまでは多種の抗生物質が開発されて、結核菌や肺炎球菌による肺炎、同じく肺炎球菌やインフルエンザ菌(インフルエンザウイルスではない)による中耳炎や副鼻腔(ふくびくう)炎、溶連菌による扁桃(へんとう)炎、またケガや抜歯による化膿など、細菌による感染症は怖くはなくなりました。

一方、ウイルスには抗生物質は効果がありません。例えば、風邪はウイルスによってもたらされる病気ですから、風邪の場合に抗生物質を服用しても効きません。

抗ウイルス薬は少ないのですが、抗インフルエンザウイルス薬、抗ヘルペスウイルス薬、抗肝炎ウイルス薬、抗エイズウイルス薬などがあります。

ただし、現在も、麻しん(はしかのこと)や風しんのウイルス、おたふくかぜのムンプスウイルス、ノロウイルスや多くの風邪のウイルスなどに有効な抗ウイルス薬はありません。治療は、症状を緩和や改善する対症療法が中心になります。

——新型コロナウイルスに有効な薬が待たれていますが、抗ウイルス薬を作るのは難しいと言われます。それはなぜでしょうか。

遠山医師:ウイルスはタンパク質の殻に遺伝子(DNA、RNA)が入っているだけで、とても単純な構造です。細菌のように細胞壁や細胞膜があって破壊できるつくりではないので、弱点が少ないのです。また、ウイルスはヒトの細胞に寄生して増殖するので、体にダメージを与えずにウイルスだけをやっつける薬をつくるのが難しいわけです。

聞き手によるまとめ

ウイルスは生物でも非生物でもなくその間の存在ということが興味深く、また、ヒトの細胞に侵入して増殖するなどの特徴から、治療薬の開発が難しい、風邪はウイルスが原因であるため抗生物質は効かないとのことです。一方、細菌はヒトの体に無数に存在して善玉、悪玉、日和見菌がいる、多くの悪玉細菌には抗生物質が効くということです。

次回・第11回は、リンパ液、リンパ管など免疫と密接に関係するリンパ系について尋ねます。

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