はらだ有彩・大木亜希子対談 最終回

勝手な「ご期待」にカウンターパンチを【はらだ有彩・大木亜希子】

勝手な「ご期待」にカウンターパンチを【はらだ有彩・大木亜希子】

昔話に登場する女の子とガールズトークを繰り広げる話題作『日本のヤバい女の子 静かなる抵抗』(柏書房)の著者・はらだ有彩さん、『アイドル、やめました。AKB48 のセカンドキャリア』(宝島社)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』が注目を集める大木亜希子さん。

昔話に登場する女の子と、現代を生きる女の子。それぞれに寄り添ってきたふたりの、初対面とは思えないほど盛り上がった対談を全5回にわたってお届けします。

大木さん(左)と、はらださん(右)

大木さん(左)と、はらださん(右)

「赤の他人のおっさん」と暮らして

——大木さんは58歳の会社員の男性である「赤の他人のおっさん」(ササポン)と暮らしていることを明かしていますよね。誰々の彼女とか、妻、お母さん、仕事相手、友達……誰が聞いても伝わる関係じゃないと他人に認められないって雰囲気がある中で、名前のつかない関係を持っているのはいいなと思いました。

はらだ:とてもいいですよね。「赤の他人のおっさん」と大木さんの関係は、『「赤の他人のおっさん」と大木さん』としか言いようがない

——いろんな人に関係を聞かれると思うのですが、「うるせーよ」と言いたくなったり、モヤモヤしたりすることはありませんか?

大木:まぁ、聞かれますね。本当に、男女関係が一切無いただの同居人なのですけれども。実は今ちょうどこの生活について本を書いている*んです。ササポンとの関係にまつわることを書くことで、私も自分の気持ちを再確認できるいい機会をいただいているなと感じます。

*編集部注:対談は2019年9月に行われました

はらだ:仮にササポンさんと何か関係があったとしても、他人が口を出すことじゃないですよね。

大木:そこなんですよね。ササポンとの同居は、家族が理解してくれています。理解というより、8歳年上の姉が「お前は誰かと一緒に住んだほうがいい」とササポンを紹介してくれたんですよ。もともと姉もササポンと同居していたので。

——どんな暮らしをしているんですか?

大木:私は1階に住んでいて、3階にササポンの部屋があります。朝起きると2階のリビングで会う。発芽玄米みたいな寝グセをつけながらコーヒーを飲んでいるササポンに「おはようございまーす」って挨拶をして、私は仕事をしたり、フリーランスになりたての頃はバイトに出かけたりしていました。

はらだ:バイトに行くとか、1日の予定は報告するんですか?

大木:そうですね。その日の1日のことはだいたい伝えます。でも、それも強制ではありません。忙しくて一切会話しない日もあります。

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はじめから「赤の他人」だから

大木:「変な生活」とか、ササポンのことを「いいおじさんの皮を被ったオオカミだ」と言う人もいます。そうじゃないことは私がいちばんよくわかっているのでいいんですけど。でも「このままの生活でいいのか?」という迷いはありますね。クリエイターとして生きるために環境を変えたほうがいいのではないか、私はササポンとの生活に甘んじているのではないかって不安になるんです。

——現在の生活にはリミットがあるそうですね。

大木:はい。ササポンは定年後、軽井沢にある別荘に移住予定で、私はそのタイミングで家を出ることになっています。今58歳なのであと2年ですね。なので、いつかはここを出て行くという気持ちを持ったうえで毎日生活することが大切なのかな。つい自堕落に煎餅をかじりながらソファでだらーんみたいな瞬間もあるんですけど(笑)。

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——家の中で脱力大事ですよ!

大木:いつかは出ていかなきゃいけないと思うからこそ、ササポンとの生活は新鮮なんですよね。誰かと一緒に暮らすのは、干渉し過ぎずに相手のことを慮ることが必要だとよく聞きますが、長年彼氏や夫と暮らしている人は「それが難しい」と言います。でも、ササポンは最初から「赤の他人のおっさん」なので、それが当たり前にできるんです。「人付き合いは腹六分目くらいがちょうどいい」というか。不思議な経験をさせてもらっています。

「付き合っていない」と説明するしんどさ

はらだ:私は大学の同級生と11年ルームシェアをしています。相手は女性なんですけど、別に交際をしているわけではなく、楽しく暮らしています。けれど、そのことを話すと「付き合ってるの?」って聞かれるんです。もう100億回は聞かれているんじゃないかな……。

——(それは多すぎやろ!ってツッコむところかな?)。

大木:えー。面倒ですね。どうでもいいことじゃないですか。

はらだ:そうですね。付き合っていてもいいし、付き合っていなくてもいい。そういうものじゃないですか。私の場合、事実としては付き合っていないので、質問されると「付き合っていません」とことさらに説明させられる。謎の十字架を背負わせるのはやめてほしいなって思うんですよね……。

——謎の十字架?

はらだ:「付き合っていません」とわざわざ特別に口に出して説明することで、「女同士で付き合っているわけじゃありません」と過剰に否定するようなニュアンスを感じさせてしまわないかと不安になるんです。単なる事実としての「付き合っていません」という発言が、「まさかwww付き合ってませんよwww」という発言の片棒を担いでいるんじゃないかと。聞かれなければ説明しなくていいから。

——そうですね。

はらだ:彼女は芸大時代からの友人ということもあって、芸術という文脈や私のコンディションを見て的確なアドバイスをくれるんですよ。それがすごく助かっていて。家族とも仲がいい。だからいっそこのまま一緒に暮らし続けたらどうかなと思っているんです。

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——期限の定め、なし。みたいな? でも「結婚したらどうするの?」とかも聞かれません?

はらだ:ありますね。家具なんかももう折半できないくらい、いろんなものを割り勘で買っているので、「引っ越すときに揉めるんじゃない?」とかもよく聞かれます。でもそれだって、何かライフイベントがあったらまたそこで話し合えばいいし。なんでもいつかくるであろう別居を前提に考える必要はないと思うのですが……。

——おふたりとも生活をしているだけなのに、恋愛関係を疑われたり、同居を解消する前提だったり大変ですね……。

大木:本当ですよね。もうそういう質問には「ご期待に添えなくてごめんなさい」ですね。

はらだ:その「ご期待」が全ての原因な気がしてきた。「アイドル時代に比べて今の生活は平凡でつまらないんだよね?」「アイドルを『続けられなかった』人はどん底なんだよね?」「誕生日は彼氏と過ごしたいに決まってるよね?」「怒ってるなら大声出すよね?」「『赤の他人のおっさん』が女の子と住むなんて、下心あるよね?」「女二人がずっと住んでるなんて、絶対付き合ってるよね?」「付き合ってないならいつか終わるんだよね?」みたいなのって、全部「ご期待」ですよね。テンプレがあって、生身の人間がその通りに面白く展開していくだろうという。

このテンプレは案外根強く世の中に浸透してるから、覆そうと思うと、「そうじゃない」ケーススタディを見せていくしかない。そういう意味で『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』は「ご期待に添えなくてごめんなさい」のオンパレード。大木さんがたった今ここに、ササポンと名前のない距離を保ちながら、幸福に向かって生きていること自体がカウンターパンチで、それに勝手に救われるなと思ったんです。

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(構成:安次富陽子、撮影:面川雄大)

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