自分の中の”異物感”とつながった瞬間…私が在日クルド人高校生の映画を撮った理由【川和⽥恵真】

自分の中の”異物感”とつながった瞬間…私が在日クルド人高校生の映画を撮った理由【川和⽥恵真】

幼い頃から日本で育ったクルド人の少女が自分のアイデンティティに葛藤しながらも成長していく姿を描いた映画『マイスモールランド』が5月6日(金)に公開されます。

ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞から特別表彰を授与される快挙を成し遂げた同作。在日クルド人の主人公・サーリャが胸に抱く複雑な感情を体現してみせた嵐莉菜(あらし・りな)さんの演技も話題になっています。

メガホンを取ったのは川和⽥恵真(かわわだ・えま)監督。『万引き家族』の是枝裕和監督が率いる映像制作者集団「分福」に所属する気鋭の若手監督で、同作が商業映画デビューとなりました。

イギリス人の父親と日本人の母親を持ち、サーリャとの共通点も多いという川和⽥監督にお話を伺いました。

【インタビュー】サーリャを演じたことで嵐莉菜がたどり着いた“自分らしさ”

川和⽥恵真監督

自分の中の”異物感”とクルドがつながった

——幼い頃から日本で育ち、埼玉に住むクルド人のサーリャはごく普通の高校生活を送っていましたが、ある日難民申請が不認定となったことで家族の日常は一変します。

川和田さんが初めてクルドに興味を持ったのはISISが勢力の拡大を続けていた2015年頃と伺いましたが、本作を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。

川和田恵真監督(以下、川和田):私自身、クルドのことはそれまでよく知らなかったのですが、自分と同じくらいの年齢の女性たちが銃を持って自分たちの居場所を守るために戦う姿を見て。どうして国がないのか?と関心を持って調べました。

それで、日本にも1500人から2000人ほどのクルド人が逃れてきて暮らしていることを知ってさらに驚きました。難民申請が認められずに、ここ日本でも居場所を求めてとても苦しい思いをしていたのです。

私自身ミックスルーツで、幼い頃から異物感を持っていました。「自分の居場所ってどこなんだろう?」と悩んだことがあって、自分とどこかで繋がるものを感じました。それでもっと知りたいと思い、会いに行ったことが始まりでした。

——ご自身の内面にも通じる部分があったのですね。

川和田:置かれている環境の苦しさは比べることはできませんが、自分の中に引っかかっていたものや自分の問いを深めていく中で繋がるものをクルドに感じました。具体的な描写としては友達に見た目のことをいじられるシーンだったり、知らない人と話したときに「日本語上手ですね」と言われるシーンに現れています。ワールドカップで日本を応援していると「え? なんで?」というリアクションをとられるというエピソードも実際に体験したことが元になっています。

——「異物感」というのは?

川和田:やっぱり見た目が違うから、小さい頃から「外人」という呼ばれ方をしていて、私自身は日本から出たことがなかったのに「外人」という言葉を与えられて「なぜだろう?」とずっと思っていました。確かに見た目もいわゆる「日本人」とは違うので、そういう意味でも異物感を感じていました。

——外見という部分で、最近はルッキズムの議論も盛んですが、それについてはどんなふうに考えていますか?

川和田:目に見えているもので判断してしまうことって日常のあらゆる瞬間であると思うのですが、一人の人間に向き合った時に、どんな人でこれまでどんな物語を歩んできた人なんだろうという部分に向き合うというか想像力を働かせるのが必要だと思います。それは他者に対しても思いますし、自分自身もそうありたいなと感じます。

——映画を見て、そして川和田さんのお話を聞いて思ったことなのですが、誰かをジャッジするというのは基本的に暴力的なことで「褒めているからいいだろう」とか「悪気がないから」というのは違うなと感じました。

川和田:私も親世代のクルドの人に会って話す中で、「日本語上手ですね」と言ってしまった瞬間があったんです。それで「僕は10年ここにいるから」と言われて、「そうだよな」と。その人の過ごしてきた時間を想像して、とても反省しました。

自分を含めて多くの人が気づいていないと思うんですよね。言葉の持つ暴力性とか。本当に「善かれ」と思っているから。人に言われる言葉にはすごく敏感なわりに、人にかける言葉にはやっぱりどうしても鈍感になってしまうことを、身を持って感じています。やっぱり、想像力を持って目の前の人と向き合うことが大事だと思います。

「遠い世界の話ではない」サーリャの視点にこだわった理由

——サーリャを演じた嵐さんは映画初主演にして演技も初挑戦ということでしたがいかがでしたか?

川和田:本人はすごく不安と言っていましたが、とてもそんなふうに思えないくらい堂々としていました。内容に関しても「こんなふうに演じたい」「こんなふうに言いたい」と意見を持っていたので一緒に話し合いながら、一つ一つのシーンを一緒に作っていった感覚を持っています。

——演出をする上で大事にしたことや意識したことは?

川和田:映画を撮っていく中で、出演者から出てくるものも大事にしたいと思っていたので、演じる本人たちが脚本を読んでどんなふうに思ったとかを聞いたり、他愛もない話をする中で嵐さんをはじめ出演者たちがどんな人物なのかを知って演じるキャラクターにそれを反映させたり、脚本も書き換えたりしました。作品を作る中で自分が出会ったものに対して柔軟でありたいという気持ちを大事にしました。

メイキングの様子

——苦労した部分はありましたか?

川和田:脚本ですね。背景に入管法や日本に住む難民をめぐる状況があるので、どこに振っていくかというのはいろいろな意見をいただきました。もちろん教育的な側面も大事だし、学ぶことがある映画にしたいのですが、あくまで日常描写の中でさりげなく描写し、台詞で説明的に伝えていくものにはしないというのは意識しました。

サーリャの視点を大切に描きたいし、自分とは遠い世界の話ではなくて自分たちと変わらない感情を持った人たちなんだというのを伝えるのが大事だと思ったので、ニュース的な事象には振り過ぎずにあくまでも登場人物の感情や物語として描くことを大事にしました。

——伝統的なクルドのコミュニティに属するサーリャの父と、今の日本に生きるサーリャの世代間の断絶も描かれていました。川和田さん自身の経験も反映されているのでしょうか?

川和田:私の場合はやっぱり父親と第一言語が違うことが大きいと思っていて。本当に分かり合う会話をすることが難しいというのはずっと思っていたことです。あとはクルドの人たちと出会っていろんな習慣が残っているんだなというのは素直に感じたこととして描きました。

誰かにとって大切な映画になるものを作っていきたい

——今後、撮っていきたいものはありますか?

川和田:その時々に自分が不思議に思うことに向き合っていければいいなと思います。やっぱり自分のバックボーンだったりアイデンティティに関する経験はほかの人とは違う部分だと思うので、活かしていきたいです。そして、ルーツだけでなく色々なマイノリティの人たちが当たり前に登場するような作品を作れたらと思います。

——やはりアイデンティティの問題というのは常に川和田さんの核にある感じなのでしょうか?

川和田:そうですね、今はそれで悩んだり、考えたりというのはそれほどないですけれど、10代の頃はいちいち傷ついたり、揺らいだりしたことがありました。そういうときに映画に救われたこともあったし、そんなふうに誰かにとっての大切な映画になるようなものを作っていければと思います。

■映画情報
『マイスモールランド』5月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
【出演】嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー リリ・カーフィザデー リオン・カーフィザデー、韓英恵、サヘル・ローズほか
【監督・脚本】川和田恵真
【主題歌】ROTH BART BARON 「N e w M o r n i n g」

【企画】分福  制作プロダクション:AOI Pro. 共同制作:NHK FILM-IN-EVOLUTION(日仏共同制作)
【助成】文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
【製作】「マイスモールランド」製作委員会
【配給】バンダイナムコアーツ
(C)2022「マイスモールランド」製作委員会

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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