「東横イン」社長・黒田麻衣子さんインタビュー第1回

「人間関係で苦労した人」を支配人に 東横インが“業界未経験者”を採用する理由

「人間関係で苦労した人」を支配人に 東横インが“業界未経験者”を採用する理由

信念と情熱を持って行動している女性を表彰する「エイボン女性年度賞 2017」授賞式が1月29日、東京都内で開催され、教育賞に「株式会社東横イン」代表執行役社長の黒田麻衣子さんが選ばれました。

東横インは、全国に260ホテル、海外に10ホテルを展開。支配人の98%が女性で、業界未経験の30代後半〜40代後半の女性を積極的に採用していることでも知られ、黒田さん自身も「日本一女性が働きがいのある職場を目指して」を掲げています。

“社長”と言うと「遠い存在」と思ってしまうかもしれませんが、黒田さんはカリスマ経営者と呼ばれた父親のあとを30代で継ぎ、「私で大丈夫なのかな?」と不安を抱えながら働いていたと言います。

そんな黒田さんに「マネジメントを任されたけれど、そもそもチームの人間関係がうまくいっていない」「30代で新しいことに挑戦するのは無謀?」など、働く女性なら誰もがぶつかりがちな仕事の“壁”を乗り越えるためのヒントを3回にわたって聞きました。

支配人の98%が女性

——東横インはお父様が1986年に創業されて、黒田さんは2012年に社長に就任されたんですね。

黒田麻衣子社長(以下、黒田):はい。もともと就職のタイミングで、2002年に東横インに入社したんですが、父の会社だと思っていたのでまったく継ぐ気はなかったんです。

子どもを産むタイミングで辞めたんですが、会社の不祥事で「会社がなくなってしまうかもしれない」となったときに副社長として2008年に復帰しました。社長に就任したのはそれから4年後ですね。それまではまったくの専業主婦でした。

——専業主婦がいきなり社長ってすごいですね。東横インは支配人の98%が女性なんですよね。

黒田:それは創業当時からで私が始めたことではないんです。創業以来、女性のきれい好きなところ、細やかな心配りや近所付き合い、家計簿のやりくりに長けているという特性を活かしてホテル運営をしてきました。

今回、教育賞をいただいたのも「女性の支配人を積極的に登用している」というのがひとつの理由なんですが、個人賞というよりは会社でいただいた賞だと思っています。

_MG_5353

——女性が管理職になりたがらないというニュースもときどき報じられますが、支配人がほとんどが女性というのもすごいなあと。

黒田:それは、そもそも「リーダーをやりたい」と言ってる人を募集しているからなんです。新卒から採用してずっと育てて、というよりは、最初からホテルマネジメントをしたいという人を見つけて採用しているんです。

ただ一方で、女性ばかりが集まっているところでないと女性は手を挙げにくいんじゃないかなというのも感じていますね。銀行の方から「男性の支店長よりよっぽど優秀な女性がいるのに、なかなか支店長に手を挙げてくれない」という話はよく聞きますね。男性の中にいると、女性ってなかなか手を挙げないんじゃないかなって。

——あー、それは何となくわかる気もします。遠慮をしちゃうんですかね。

黒田:やっぱり共学の学校では、生徒会長や部活のキャプテンは男性が多いですよね。でも女子校だと、当たり前ですけど女子しかいないので必然的に女性がリーダーをやることになる。そういう環境を作るということが、女性の立候補者を増やすことつながるのかなと思っています。

未経験者を採用する理由

——業界未経験の30代後半〜40代後半の女性を積極的に採用している、というのも東横インの特徴ですね。普通、企業というのは経験者を欲しがると思うのですが……。

黒田:うちは専門的な知識というよりもマルチな部分を求めているかなと思うんです。女性として生きてきたすべてが役に立つ、すべてが活かされる仕事だと思っているので、特に専門的な知識は問わないですね。

元々、東横インは全然ホテルのことを知らない私の父が始めて、素人の感覚でホテルを運営してきたというのがあるので、社員たちもむしろ素人でいいと思っています。

_MG_5416

——なるほど。マルチな部分を求めてらっしゃるのはホテル業だからなのでしょうか?

黒田:ホテル業うんぬんというよりは、リーダーとしての経験を求めているからですかね。

例ば部活でもいいし、PTAの会長でもいいし、生徒会でもいいし、もちろん会社でリーダーをしてきたでもいいんですが、そういう経験を重視するという感じでしょうか。

ホテル業といっても、まずは職場の人間関係を作り上げていかなきゃいけないので、「人で苦労した」「人で成功した」とか、そういう経験を持っている方に積極的に支配人になっていただきたいと思ってます。

——ホテルの支配人って人間関係を作り上げるのが大事な仕事なんですね。

黒田:一つ一つのホテルは非常に小さい組織なんです。少し大きめの世帯のような。

全ホテルを集めると大きな会社に見えますが、一つ一つが独立していますので、だいたい200室くらいの規模だと正社員が20人弱、パートスタッフを含めて50人程度なので、1クラスを束ねる先生だったり、いろいろな世代が同居する大家族のお母さんだったり、そういう感じで運営していただきたいなと思ってます。

リーダーに向いている人ってどんな人?

_MG_5435

——話が戻ってしまうんですが、「管理職になりたがらない」女性が多いことについてはどう思われますか?

黒田:うちにも経理だったり、事務だったり、支配人のフォローをする補佐がいるんですが、例えばその店舗で支配人が抜けることになったとしても「じゃあ私が支配人をやります」と手を挙げないんです。支配人の仕事ややるべき業務についても熟知しているはずなんですが、「私にはできません」って言うんです。

「なんでだろう?」と思うんですが、彼女たちは「自分は最初からリーダーじゃなくて2番手なんです。2番手が向いているし、2番手でこそ能力を発揮できるんです」って言うんですよね。確かに、そういう方に無理やり頼んでも難しいのかな、どんなに能力が高くても仕方がないなと思ってます。

——逆にリーダーに向いてる人はどんな人ですか?

黒田:うーん、そうですね。それって本人が一番分かってるんじゃないですかね。小さい頃からクラス委員長をやってきたりとか、自然にみんなの輪の中で中心になったりとか、そういう方なんでしょうね。

だから、人の上に立ったり、人に何かを言ったりすることが苦にならないというのを自分で自覚しているんじゃないかな、と思います。

次回は2月15日(木)公開です。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:河合信幸)

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「人間関係で苦労した人」を支配人に 東横インが“業界未経験者”を採用する理由

関連する記事

編集部オススメ
記事ランキング