『得する説明 損する説明』インタビュー④・止

「他人の頭の中を想像してしまう」人間関係の悩みが厄介な理由

「他人の頭の中を想像してしまう」人間関係の悩みが厄介な理由

説明上手な人の“口ぐせ”を真似(まね)するだけで、説明がうまくなるとっておきのフレーズ40個を厳選し、使用例とともに紹介した『得する説明 損する説明―できる人の話し方、その見逃せない法則』(SBクリエイティブ)を3月に上梓した、伊藤祐(いとう・たすく)さんにインタビュー。

最終回の今回は、「働く人の悩み」をテーマに伺いました。

著者の伊藤祐さん=本人提供

「悩む」と「考える」の違い

——最終回は伊藤さん自身の仕事観やなんとか4月を乗り切った人たちへのメッセージを伺えればと思います。新卒で入社した外資系コンサルでは優秀な同期や求められる仕事のレベルに圧倒され、一時は退職を考えるところまで追い詰められたと伺いましたが、「悩み」についての伊藤さんのお考えを聞きたいです。

伊藤祐さん(以下、伊藤):よく、「悩む」と「考える」は違うと言われますよね。「悩む」は、同じ場所でグルグルしてしまって前に進めなくなってしまう状態を指すと思うのですが、それではアクションにつながらないし、自分のメンタルもやられてしまうのであまりいい形ではないのかなと思っています。

一方で、「考える」は何かしらのアクションを伴います。誰かと話したり、紙に書いたりして、自分が今苦しんでいることは何だろう? なぜそうなったのか? と言うのをバーッと書くんです。そして、それを解決するために一番簡単なやり方を書き出していく。そうすると、自分が何をすればいいのかが分かってきて次のアクションに移せるのかなと思います。そういう意味で、僕は「悩む」より「考える」を推します。

また、最近話題のChatGPTを活用するのも手です。「あなたは私の中の良い友達です」「あなたは仕事ができる優しい先輩です」と言って、「私が今悩んでいることを書いていくので、丁寧で親切なアドバイスをもらえるとうれしいです」みたいな感じで、お互いに壁打ちしてみるのも面白いかもしれませんね。

「他人の頭の中を想像してしまう」人間関係の悩みが厄介な理由

——仕事や職場の悩みでよく聞くのが人間関係の悩みですが、伊藤さん自身はどんなふうに解決していますか?

伊藤:僕は人間関係で悩むことはそんなにないんです。ただ、元からそうだったわけではなく、コンサル時代は結構悩んでいました。それこそ、人間関係の悩みが厄介なのってモヤモヤと考えてしまうことで、じゃあ何をそんなにモヤモヤしているかというと、他人の頭の中を想像しちゃうことなんじゃないかって。

——ああー! それです!!

伊藤:「この人って私のことをどう思っているんだろう?」とか、「もしかしたら私のことが嫌いなのかもしれない」とか。でも、それって永遠に分からないことじゃないですか。分からないし、相手だってその日のコンディションによって気持ちや気分は変わると思うんです。自分に置き換えてみても「今日はこの人のことが好きだな」という日もあれば、「今日はこの人と話したくないな」という日もあるし、人間の気持ちなんてすごく流動的なんですよね。その人自身も分かっていないのに、他人である自分が想像できるわけないんです。それなのに、相手のちょっとした言い回しや表情の明るさや暗さで「やっちゃったな」とか「嫌われちゃったかな」と悩んでいる人が多いのかなって思っています。

——過去の自分を振り返ってもそう思います。

伊藤:そうですよね。そこに意識がいってしまうと、頭の中がフルに使われてしまって、目の前の仕事に集中できなかったり、ご飯がおいしく食べられなかったりして、さらにパフォーマンスも落ちてしまう。パフォーマンスが落ちると、周りからの目も厳しくなるので、「やっぱり自分はダメなんだ……」という悪いループに入ってしまうんですよね。

ここからは僕なりの解決というか対処法なのですが、他人が自分のことをどう思ってるかは分からないから、自分のことをみんなが好きでいてくれている前提でいるようにしています。もちろん、そんなの分からないですよ(笑)。僕のことを嫌いな人も絶対いるでしょうし。でも、「この人は僕のことが好きなんだろうな~」と思いながら話したほうが、相手も楽しんでくれる可能性が高いですよね。それに、自分も楽じゃないですか。

——おっしゃる通りだと思います。「世界は自分を歓迎してくれている」という前提で生きたほうが自分も楽だし、優しい世界で生きることができる気がします。

伊藤:もちろん理不尽なことをされた場合はしかるべきところに相談したり、対処する必要がありますが、相手の思惑のような確かめようもないことでモヤモヤするくらいだったら、いったんそれはそれとして置いておいて、目の前のことに集中するほうがヘルシーだし、仕事のパフォーマンスも上がるような気がしますね。

今のまま踏ん張るか、環境を変えるべきか迷ったら…

——インタビューも今回で最終回です。働く人に向けてメッセージをいただきたいです。まずは4月を走り切った新社会人の方に向けてお願いできますか?

伊藤:新入社員の方だと、覚えなくちゃいけないことがたくさんあるし、「このままでやっていけるのだろうか……」とメンタル的にもすごく大変だと思います。先輩社員と比べて、知識量も違うし、役に立てることも少ないかもしれない。でも、今はリモート時代だし、ハラスメントにも厳しいので、先輩社員もあまり強くは言ってこないですよね。ただ、何となくぼんやりした不安があると思います。

「頑張ろうね!」と言うのはすごく簡単なんですけど、頑張ったからって褒められる世界ではないですよね。結局は資本主義なので、会社の売上を上げることができるのか、もしくはコストを削減できるのか。そのどちらかに貢献するという視点を持った上で、「じゃあ自分は何をすればいいのか?」を考えて、先輩たちとディスカッションしてみるといいんじゃないかなと思いますね。

会社というのはお金を稼ぐためにあるところなので、そこを冷静に把握した上で、「どうすれば自分はもっとこの会社を稼がせてあげられるんだろうか」という観点で、頑張り方を考えてみると、「この人は、普通の新入社員とは違うな」と思ってもらえるのではないでしょうか。

——では、中堅ポジションの方に向けてもメッセージをお願いします。

伊藤:ある程度、社会人として慣れてきているので、成長が鈍化してきてると思うんです。流しで仕事もできてしまうし、周りから頼りにされることもある。だから、その次のステップにどうやって行くかという、基礎固めをしていただくといいと思います。

例えば、説明力の強化や前回のスケジューリングを徹底すると、今まで培ってきたスキルがカチッとハマって、さらに価値の高い人材の一歩を踏み出せると思います。つまり、これまでお話ししたように「対他人」に対する説明、「対自分」に対するスケジューリングを一度徹底してやってみてほしいと思います。

その上で、今の環境のまま頑張るか、思い切って環境を変えてみるか迷ったらなのですが、「置かれた場所で咲きなさい」も「石の上にも三年」も正しいと思います。でも、その場所でなかなか芽が出なくても環境を変えると咲くかもしれない。それは本当に分からないです。

だから僕は、学生さんや若手の社会人の方にお話するときに、「両方やってください」と言ってます。絶対に結果を出すまで諦めずに「粘り強くやる」こともするし、自分には向き不向きがあることを認めて「向いてる環境に行く」ということもする。その両方をやるべきだと、僕はお伝えしています。

僕の場合は、環境を変えてうまくいったんですけど、すぐにポンポンと転職したわけではありません。一度会社や組織に入ったら、「ここで結果を出すまでしがみつくぞ!」と思ってやってきました。そんな中で、「自分は本当にやりたいことがある」というものがあったら、環境を変えてみる。そして、環境を変えたら、そこで必ず何かしらの大きな成果を出すまでトライし続ける。この繰り返しだと思います。どちらかだけではない気がするので、もし迷ったら、今は頑張るフェーズなのか、今は環境を変えるべきフェーズなのか、信頼できる人とディスカッションしてみてもいいかもしれないですね。

(聞き手:ウートピ編集部、堀池沙知子)

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