信念と情熱を持って行動し、ひたむきな美しさで可能性を拡げた現代の女性を表彰する「エイボン女性年度賞 2017」授賞式が1月29日、東京都内で開催され、教育賞に「株式会社東横イン」代表執行役社長の黒田麻衣子さんが選ばれました。
東横インは、全国に260ホテル、海外に10ホテルを展開。支配人の97%が女性で、業界未経験の30代後半〜40代後半の女性を積極的に採用していることでも知られ、黒田さん自身も「日本一女性が働きがいのある職場を目指して」を掲げています。
“社長”と言うと「遠い存在」と思ってしまうかもしれませんが、黒田さんも30代はカリスマ経営者と呼ばれた父親のあとを継ぎ、「私で大丈夫なのかな?」と不安を抱えながら働いていたと言います。
そんな黒田さんに「マネジメントを任されたけれど、そもそもチームの人間関係がうまくいっていない」「30代で新しいことに挑戦するのは無謀?」など、働く女性なら誰もがぶつかりがちな仕事の“壁”を乗り越えるためのヒントを3回にわたって聞きました。
マネジメント=人間関係
——前回は、人間関係で苦労した人に支配人になってほしいというお話でした。そもそもの質問で恥ずかしいんですが、もしかしてマネジメントって人間関係のことなんでしょうか?
マネジメントっていうとつい「管理」とか「人を動かす」と思ってしまうんですが、もっとかみ砕いて言えば「人間関係」ってことなのかなと。私も前職でマネジメントを任されたことがあるんですが、なかなかチームがうまくいかなくて「こんなに人間関係って大変だったっけ?」って思ったんです。
黒田麻衣子社長(以下、黒田):そうですね。間違いなく、支配人たちもそういう壁に当たってますね。だから大丈夫ですよ(笑)。
そもそも素人で入社していますから、既存のメンバーがいる中に支配人だけが新人で入るというホテルもありまして。
そうすると、リーダーで経営者なのに「自分が一番の新人」という立場でスタートする場合もあるんです。仕事は分からないし、部下の仕事なんてもっと分からないし……という状況で入っていくので、まず人間関係にぶち当たりますね。
——う、それってかなりキツイですね。
黒田:スタッフもスタッフで「新しい支配人は本当に私たちのこと分かってくれるかしら?」と思って試すというか、お手並みを拝見するという気持ちもあると思うんです。
なので、支配人になる人には「ホテルのスタッフは、支配人がいない間は自分たちでホテルを回していて、リーダーを求めてたはずだから、いつか分かってくれるよ」という話をしています。
——支配人が一時的にいない場合もあるんですね。
黒田:前任の支配人が何らかの理由で退職になってしまったときは、近隣のホテルの支配人が代行して留守を守ります。そうするとスタッフも自分たちの支配人、いつもいてくれる支配人が欲しいと思うのは確かなので、「最初は試されるかもしれないけど、絶対に支配人がいてよかったと思ってもらえるときがくるよ」と支配人になる人に話していますね。
——まずは人間関係を作っていくところからなんですね。
黒田:私たちは支配人をリーダー経験で採用し、ホテル経験は求めていませんから、着任して1年間はできなくて当たり前だと思っています。
しかし、むしろ支配人たちのほうが、「自分はこんなはずじゃない」「もっとできるはず」と思い悩む場合がほとんどです。
——なるほど。
黒田:自分の母親くらいの世代のパートスタッフから「生意気」って言われたり、逆に娘ほどのフロントスタッフから「そんなことも分からないの」という顔をされたり。採用面接時に「必ず挫折するけれど、みんなが乗り越えた道だから」と言っています。
——「必ず挫折する」ってすごい言葉ですね。30代に入ると未経験のことに挑戦するっていうのはあまりなくて、だからこそ新しいことをしようとするときにひるんでしまったり「もう30歳を過ぎてるから失敗できない」って思ったりすることもあると思うんですが……。
黒田:うちにも「最後の転職だと思います」と言って入社する40代後半の方もいらっしゃいます。私から見ても勇気があるなと思います。
でも逆に言えば「ここでやるしかないんだ」と思っていらっしゃる方は強いんですよ。新人なのに、トップで入るというプレッシャーと覚えなければいけないことの多さ、本当に計り知れないと思うのですが、そういうときに、守るべき家庭があったりだとか、「これで最後」と覚悟があったりする人は強いなと思います。
——つい年齢のせいにしちゃいますけれど、実は覚悟や気持ちが大事なのかもしれませんね。
人間関係を円滑にするコツ
——よく世間では「女同士の関係は難しい」と言われますよね。「男同士だって陰湿なやつは陰湿だろ」と思うので、こういう“オジさんの妄想”に乗っかる言い方も嫌なんですが、あえて「女性が多い職場でうまくやっていくコツ」があるとしたら何でしょう?
黒田:とにかく吐き出させるということじゃないですか? 社外取締役に「やっぱり女性だからかなー」って言われるのが、うちは横のつながりが強いというか、横の情報網が早いんです。女性はしゃべる生き物だと思うので。だからとにかく話すこと。
あとは、支配人と本社、役員との距離が近いというのも当社の特長で、問題をすぐ吸い上げるような関係でいたいと思っています。
あの人がこの人の悪口を言ってるって、耳に入ることがあるんですが、そういうときは当事者を呼んで3人で話すこともありますよ。
——本人同士が直接話すということですね。
黒田:結構お互いの行き違いだったり、勘違いだったりすることもあるのでまずは直接話すことが大事だと思います。
——「直接話す」というのはシンプルだけれど人間関係をこじれさせないために一番の近道なのかもしれませんね。
※次回は2月17日(土)公開です。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:河合信幸)