「フリー編集長」と「社畜プロデューサー」というまったく異なる立場から、ウートピ編集部というチームを運営している鈴木円香(34歳)と海野優子(32歳)。
脱サラした自営業者とマジメ一筋の会社員が、「心から納得できる働きかた」を見つけるため時にはケンカも辞さず、真剣に繰り広げる日本一ちっちゃな働きかた改革が現在進行中です。
今回、考えてみたいのは、女性にとっての「結婚」と「働きかた」の関係。今さら結婚を機に会社を辞める「寿退社」をする人なんてほとんどいないし、結婚がきっかけで生活スタイルがそれほど大きく変化するわけでもありません。
じゃあ、今の時代、「結婚」と「働きかた」は無関係なの?
いえいえ、そんなことはありませんよね。すごく影響するわけじゃないけれど、まったく影響しないというわけでもない。「ビミョーに影響する」がリアルなところでは?
ワーママ鈴木と、バツイチ既婚の海野Pが、少子化ジャーナリストの白河桃子(しらかわ・とうこ)さんに聞いてきました。
「結婚」「出産」「仕事」がバラせない日本
鈴木:今日はよろしくお願いします。今回、ぜひ白河さんに伺いたいのは、結婚と働きかたをめぐるビミョーな関係について。確かに、結婚して子供を持てばいろいろと働きかたを見直さなきゃいけなくなりますが、結婚だけに限れば、それほどワークスタイルに影響しない、というのがアラサーのリアルかな、と。
白河桃子さん(以下、白河):まず大前提として、今の時代に結婚を機に仕事を「辞める」は難しい雰囲気になってますよね。経済的、社会的にもそうだし、パートナーの側も一生働き続けて欲しいと求めてる。鈴木さんのおっしゃる通り、結婚にはもはやそんなに意味はないですね。女性にとっては出産のほうがはるかに大きな意味を持ちます。
鈴木:ですよね。私の場合、子供がいない結婚期間がかなり長かったのですが、それが自分の働きかたに影響したという感覚はないです。
海野P:私もないですね。
白河:ただ、日本の場合「結婚」と「出産」と「仕事」が分かちがたく結びついているんです。まず日本の婚外子(非嫡出子)の割合はわずか2%ですから、「結婚」と「出産」はセットと思っている人のほうが多い。そして、子供を産んだら今度は「仕事を辞めるか、辞めないか?」という問題にぶち当たる。だから、その3点セットの両立に苦慮している先輩を見て20代は「両立は無理ゲー」と感じていたりするわけです。
鈴木:「結婚」「出産」「仕事」がくっついてしまっている日本は、やはり特殊ですよね?
白河:特殊ですね。例えば、私が取材したパリでは、恋人と子供をふたりくらい産み育ててから「この人とならやっていけそう」と次の段階に踏み切るケースも珍しくないんです。次の段階もパクス(パートナーシップ登録のような制度)や法的結婚などから選べます。産んでからも、パートナーを選び直せますし。その意味で「結婚」と「出産」をバラせる社会なのですね。アメリカは、保育料が高額なので「出産」を機に、夫か妻のどちらかが仕事を辞めるという選択を迫られることはありますが、その選択を女性にだけ求められる日本は特殊ですね。
鈴木:30代の女性だと、出産のリミットも見えてくるので「子供が欲しいから結婚したい」という話もよく聞きます。その意味でも、「結婚」と「出産」はセットで考えている人が多そうです。
白河:そして、30代だとそこにさらにキャリアも絡んでくる、と。
「結婚」が「仕事」に与える影響として、あまり知られていませんが意外に多いのが、パートナーの転勤です。実際、女性が仕事を辞める理由として、1位の出産に次いで2位ですから。30代でキャリアがいよいよ充実してきた時点で、夫が突然海外赴任になり迷った末についていくという決断をするケースはよく聞きます。
海野P:それ、すっごいリアルですね。あるあるですね。
白河:大事なのは人生の決断が一気に来ないように、事前に話し合う機会を持つことですね。例えば、30歳で結婚して、そのあとすぐにパートナーの転勤が決まり、出産もそろそろしたい……となると、人生の決断が一気に押し寄せてきて慌てちゃう。20代の女性にこういう話をすると、「今は目の前の仕事に集中したいから考えたくないんです!」と思考停止しちゃうケースが多いんですが、パートナー候補がいるなら、互いにどういうふうに仕事をするのかも含め、早めに話し合っておいたほうがいいですね。
最初から合理的な選択はできません
海野P:すみません、そもそもの話なんですが、話し合いも大事ですけど、まずは相手を選ぶ基準も大事ですよね。
白河:大事です。でも、実際にはなかなかうまくいかない(笑)。
できるなら、自分が家事と育児を背負い込んでワンオペ状態に陥らずにすむような相手を選びたいものですが、皮肉なことにデキる女性ほど「ワンオペ夫」を選びがちなんです。自分がバリバリ仕事をしたいなら「主夫になってくれそうな相手を選ぶ」という選択肢もあるはずなのに、みずからを窮地に追い込むような相手選びをしてしまう女性は少なくないんですよ。
海野P:それはなぜ???
白河:それはやっぱり(仕事が)デキる女性は、(仕事が)デキる男性に惹かれてしまう構造があるからでしょう。いい主夫にはなってくれそうでも「デキない男性」を選べない、と。明治大学教授の藤田結子先生がいみじくも「恋愛時の『魅力』が出産後は『ムカつきポイント』になる」と対談でおっしゃっていますが、まさにそういうことですね。
鈴木&海野P:(わかりすぎるわー!)
白河:エラい先生方は、ワンオペ育児になってしまった女性に対してよく「なぜ、そんな相手を選んだのか?」と聞くんです。でも仕方ないですよね。最初から合理的な選択ができたら苦労しないですよ。
仕事が好きだから、同じように仕事がデキるけどワンオペ育児になりそうな夫を選んでしまいました。そして自分の中にも「女が家事や育児をやらなきゃ」というジェンダー規範が植えつけられています。理想の母親像にも囚われています。それが30代のワーママのリアルです。
鈴木:そういう状況で「なんでもっと合理的な選択をしなかったのか?」と言われても困りますよね。
白河:はい。ですから、最初から合理的な選択はできないという前提に立って、その時々にふたりの話し合いで解決していくしかないんです。例えば、結婚前後でお互いの働く覚悟やスタイルをすりあわせる、パートナーの意識が変わるように教育しておく、出産後も月イチなどで夫婦で「家族経営会議」を開いて問題が起きたらすぐに対処できるようにしておくという感じです。
「寿転職」が増えているってホント?
鈴木:日本の社会では「結婚」「出産」「仕事」が3点セットで結びついていて、すべての決断が一気にくると焦ってしまうという話でしたが、結婚後、自分のキャリアをどうするかという問題に関しては最近新しい傾向もあるそうですね。
白河:このところ目につくのが「寿転職」です。
海野P:寿転職?
白河:はい、「寿退社」ならぬ「寿転職」です。長時間労働の他にもいろいろと問題があって「この企業では出産後働き続けられないな」と感じたら、結婚を機に他の会社に移ること。新卒で社会人としての基礎を鍛えてもらい、結婚したタイミングで将来の出産・育児を視野に入れて転職するわけです。その時、両立に有利だと思えば、給料が多少ダウンしても「寿転職」してしまう。
海野P:確かに、よく聞きます! そのタイミングでの転職。
白河:産む前に去る、わけです。
転職エージェントの方によると、「寿転職」を希望する人の中で、金融総合職から金融一般職に転職したいという人がすごく多いそうです。でも、実際にはそんな転職は「ほとんどない」とのこと(笑)。要は、みなさん長時間労働がイヤだから、「一般職になろうかな」と考えちゃうわけです。
鈴木:「寿転職」は長時間労働から離れたいという願望のあらわれなのかもしれませんね。
白河:はい、まさにみなさん長時間労働がイヤなんです。
鈴木:そこからキャリアをシフトしていく一つのきっかけが「結婚」という見方もできるわけですね。
男性も結婚を機にキャリアを見直す時代
鈴木:結婚を機に仕事を辞める女性は少なくなりましたが、結婚を機に自分のキャリアパスを見つめ直そうという女性は多いわけですね。結婚というセーフティーネットができたから、新しい働きかたにチャレンジしてみるという人も含めて。
白河:結婚するメリットは、経済的なスケールメリットに他ならないと思います。今の時期は相手がちゃんと稼いでくれているから、新しいことにチャレンジできるし、多少収入がダウンしても労働環境のいい職場に転職できる。また男性のキャリアも一律ではなくなってきているので、途中で勉強をしたりスキルを補強したりして磨いていないとダメになってしまいます。その意味で、補完しあえるだけの経済的なスケールメリットがあるのはいいですよね。
海野P:どっちかが稼ぎ続けるというスタイルではなくて、その時々で主な稼ぎ手が交代していくイメージですね。
白河:いずれにしろ、男女とも働き続けなきゃいけない時代ですから、ふたりとも心地よく働き続けられるように、役割にとらわれず結婚のスケールメリットを生かしたほうがいいと思いますよ。「寿転職」に代表されるような、結婚をきっかけとしたキャリア見直しは、今のところ主に女性にとっての選択肢ですが、今後は男性もそういう選択肢を持つようになるのではないでしょうか。
鈴木:男性のキャリアも「結婚」によって自由度が上がる可能性が出てくるんですね。
後編では、30代も半ばに差し掛かり鈴木も海野Pもだんだんわからなくなってきた20代女性の「結婚」と「働きかた」をめぐるリアルについて聞いていきます。
(構成:ウートピ編集長・鈴木円香)