夫婦で同じ仕事をする「夫婦ユニット」を取材して、その“円満”の秘訣を探る本連載。今回は、昨年「服部税理士事務所」を開業し、夫婦で税理士として活動している、服部美賢(はっとり・よしまさ)さんと服部藍(はっとり・あい)さんにお話を聞きました。
〈服部税理士事務所〉の夫婦ユニット三ヶ条
一つ:会社員時代からの変わらぬスタンスは「目標に向かって共に成長する」こと。
二つ:受験生活時代に培った「思いやり精神を大切にする」こと。
三つ:念願の独立事務所開業「所長は夫、まずは妻が一歩下がる」こと。
世の中に夫婦ユニットは多いけど、税理士として活動している夫婦は意外に珍しいでしょう。しかも服部さん夫婦は、会社員時代から受験生時代を経て、2人同時に超難関といわれる税理士を取得。共に戦い成長してきた「同士」といえる夫婦ユニットなのです。いつまでも一緒に成長を続けられる夫婦ユニットの秘訣とは?
会社を辞めて、夫婦で税理士を目指す
–夫婦ユニットのスタートはいつ頃ですか?
服部美賢さん(以後、美賢):開業は昨年の2月です。妻とは勤め先で知り合って、一緒に試験勉強をして、同時に税理士になりました。
–結婚してから、税理士になられたんですか?
美賢:はい。働きながら、税理士になるための勉強をしていました。妻は1年後に入社してきた後輩です。
服部藍さん(以後、藍):入社当時、私は税理士になろうなんてまったく考えてもいませんでした。ムリだろうなと。それが、入社して1年も経っていない、お付き合いもしていなかった頃に、主人に税理士になるべきだと言われて。
美賢:日商簿記検定1級を持っているというので、それなら税理士になるべきだと。
藍:それから仕事が始まる前の6時くらいに会社に集合して、一緒に勉強するようになりました。その後、結婚して子どもが産まれて、私はもちろん、主人もなかなか勉強の時間がとれなくなっていきました。
美賢:入社6年目に入った時、働きながらの資格取得はムリだな、と。入社当初から独立開業が目標だったので、資格取得に専念するために2011年12月、夫婦で会社を退社しました。
–収入がなくなることへの不安はなかったのですか?
美賢・藍:(声を揃えて)もちろんありました。
美賢:貯金を切り崩しながらの生活ですからね。でも、切り詰めれば試験勉強に専念しても、家族3人で3年間は生活を維持できる計算でした。
夫婦で勉強に明け暮れる日々
藍:まずは、どうやって2人で税理士を目指すかを話し合いました。
美賢:普通は全日制の専門学校に通って勉強するのですが、子どももいるし、2人で通うことはできない。それで、家で一緒に勉強ができる通信教育を選びました。
藍:モチベーションを保ちにくいせいか、通信で資格をとれる人は多くはありません。でも、やるしかないと。
美賢:3年間で貯蓄が底をついてしまうのは計算済みだったので、どんな環境でも絶対に合格しないと次はないと思っていました。それにかき立てられたというか、ハングリー精神でがんばれたようなものですね。
藍:私は主人ほどがむしゃらではなかったかな(笑)。主人ががんばっていたので、それにつられた感じです。
美賢:それでも1年目は土日を休日にして、家族サービスや趣味である武術の道場にも通っていました。そのせいか、試験の結果はさんざんでした。
藍:2年目に入ると主人は趣味も封印して、ひたすら引きこもって勉強していました。休日も日曜日だけ。あの頃は、土曜日の夜に2人でワインを飲むのが唯一の息抜きでしたね。
美賢:もう二度と経験したくない(笑)、というくらい必死でした。娘を保育園に送って、迎えに行くまでの午前9時から夕方5時くらいまで、それから娘が寝た午後9時頃から12時までひたすら勉強です。
藍:大変ではあったけど、こうして乗り切れたのは夫婦一緒だったからかもしれません。
美賢:心強いのはもちろんだけど、私にとってはライバルという意味でも励みになりました。実はスタート時点では私の方が一歩リードしていたんですが、すぐに追いつかれてしまって。結構プレッシャーでした。
藍:私としてはまずは主人に受かってもらわないと、という思いが強かったので、ライバルという意識はなかったですけど。
美賢:もちろん、妻が先に資格を取って、妻が所長でもいいんですよ。いいんですけど、やはりプライドはある(笑)。
これからが夫婦ユニットのスタート
–そして、3年間の受験生活を経て2014年12月に資格を取得。翌年2月に開業してから1年半が経過しました。会社員時代よりも密な数年間だったのでは?
美賢:本当に大変な3年間だったし、独立したらしたでまた違う大変さがありますが、夫婦で共に戦ってきたという実感はあります。特に試験勉強中はずっと一緒でしたからね。
藍:離れている時間の方がだんぜん少なかった。とはいっても、勉強中は背中合わせでそれぞれが無言でひたすら条文を暗記しては問題を解く、ということを繰り返していただけなんですけど。
美賢:無言でも話していても、24時間一緒にいることはまったく苦になりません。なぜ? と聞かれても相性がいいとしか言いようがない。
藍:付き合っている頃から、ほとんどケンカをしたことがありません。
美賢:開業してからは外での打ち合わせも多くなってきて、私が家にいる時間もずいぶん減りました。今は帰ってきて一緒に過ごす時間が貴重です。
藍:昨年、2人目の子どもが産まれたので、まだ本格的な復帰は難しいのですが、家でできる仕事を少しずつ始めています。私も一緒にがんばっていくのはもちろんだけど、今は所長である主人を支えていくことが私の役割りだと思っています。
美賢:本格的な復帰はまだ先でも、何か不安なことがあるとすぐに確認できるのは私にとってとても心強いですね。疑問点を確認して、妻が同意してくれると安心します。そこは、苦労を一緒に乗り越えてきた同士である妻の言葉だからなのかなと。
藍:私も同じですね。主人が目の前にいてくれると仕事のことでもプライベートのことでも気になったことはすぐに相談できるし、やはり安心感はありますね。
美賢:1人で独立していたら、それはそれは不安だらけだったと思います。1人で独立した知り合いは口を揃えて、1人は大変だと言っています。
藍:もう少し子どもが大きくなったら、私も思うように仕事ができるようになると思うけど、今はまだ2人で1.5人前くらい?
美賢:そうだね。妻が本格的に復帰したら、3倍にも4倍にもなると思っています。そうなった時が本当の意味での夫婦ユニットの始まりかもしれませんね。これからも切磋琢磨しながら、共に成長していければいいなと思います。
共に戦い成長してきた「同士」、でもどこか「大黒柱の夫、それを支える妻」といった古きよき時代の雰囲気も感じる服部さん夫婦。前者だけだと「単なる仕事仲間」、後者だけだと「単なる夫婦」、になってしまうのかもしれません。服部さん夫婦はこのバランスがとてもよいのだと感じました。それが夫婦間の思いやりを育み、尊重・尊敬し合える夫婦ユニットに成長していく秘訣なのかもしれません。
(塚本佳子)