「シスターフッドを描きたかった」
──映画の中で、ウナとクララが重なり合うようなシーンがとても印象的でした。ウナとクララの関係って、ひと言では説明しづらいですよね。恋人とか友達とか、簡単にラベルを貼れるような関係ではなくて、説明にちょっと言葉を要するというか。
個人的な話で恐縮ですが、私が「中年」と言われる年代に差し掛かって思うのは、そういう関係って実際にあるな、と。いわゆる「恋人」「友人」といった分類ではくくれない関係というものがある。
そこでお聞きしたいのですが、ウナとクララの関係性に焦点を当てた理由、そういう関係を描こうと思った背景についてお聞かせいただけますか?
ルーナソン:まず、今おっしゃったことはすべて、映画の一部でもあると思っていますし、とても興味深い視点です。今回、自分がこの映画で成し遂げたかったことのひとつが「シスターフッド」、つまり、互いを理解し合う女性同士の関係を描くということでした。
というのも、これまでの映画では、女性同士の関係が敵対的だったり、ライバル関係だったり、いわゆる「直接対決」として描かれることが多かった印象があるんです。でも、私自身、母と姉に育てられ、今は妻と娘がいて、仕事でもカメラマンやプロダクションデザイナー、プロデューサーなど多くの女性と関わっています。
私は、女性と一緒に仕事をするのがとても好きなんです。女性のほうが大局的に物事を見る力がある気がしますし、お互いにとても思いやりがあり、親切で、優しさを持っている。もちろん、男性同士にも「ブラザーフッド」はあるし、それはそれで素晴らしい部分もありますが、どこかもう少し原始的な要素が強い印象もあります。
だからこそ、男性同士の関係性では描けないような、女性同士ならではの繊細でリアルなつながり――そうした「シスターフッド」を描きたいと思ったんです。それは現実にも存在するものですし、この映画を“シスターフッドの物語”として締めくくることは、自分にとってとても重要なことでした。

(C)Compass Films , Halibut , Revolver Amsterdam , MP Filmska Produkcija , Eaux Vives Productions , Jour2Fête , The Party Film Sales
多様性を自然に受け入れる世代
──それこそ昔だったら「こんな関係ってあるのかな?」って思ったかもしれないけど、今では「あるよね」と自然に感じられるようになりました。だからこそ、私自身もとてもリアルに感じました。それに関連して、もう1つクララとウナの関係性についてお聞きしたいことがあります。少し日本の話になるんですが……最近の日本でも従来なステレオタイプではい、説明できない関係性を描く作品がすごく増えていて、注目されています。ゆるやかなつながりとか、個人と個人の“唯一無二の関係”というようなテーマが取り上げられていると感じています。
そういう風潮について、監督は何かインスピレーションを感じたり、「こういうのってあるよね」と思うことはありますか? ちょっと抽象的かもしれませんが、アイスランドの社会状況や、監督ご自身の経験の中で、そうした関係性にリアリティを感じる部分があれば教えていただきたいです。
ルーナソン:なるほど、「個人と個人の、ステレオタイプには当てはまらない関係性」についてですね。確かに今の若い世代――この映画に登場するような人たちを含め、もう少し上の世代まで――は、私たちの世代とはまったく異なる感覚で育ってきていて、多様性に対して非常にオープンだと感じます。
私自身はその中間の世代にあたるので、少し古い価値観で育てられた面もありますが、今では父親として、「昔ながらのやり方」で子育てはしたくないと思っていて、できる限り柔軟な方法で向き合おうと意識しています。うまくいっているとは言い切れませんけどね(笑)。
それと、この映画についてはジェンダーに関する質問をよく受けるんです。キャラクターたちのセクシュアリティやジェンダーについて、もっと明確に描いてはどうか、はっきり言わせるべきでは? といった意見もあるんですが、実はそういった指摘は、むしろ年齢層が上の観客から多く寄せられるんです。
若い世代は、誰かが異性愛者であろうと同性愛者であろうと、あるいはその他のセクシュアリティであろうと、それらをすべて“当然のもの”として受け入れている。彼らにとっては、それはもう特別な「テーマ」ではなく、日常の一部になっているように思います。
私たちは共に生きているわけですよね。だから、若い世代にとっては、セクシュアリティやジェンダーの話題って、特別なことではないんです。ある程度の年齢の人たちは、そういったことに対する理解がまだ追いついていないことも多くて、だからこそ、そういう質問をされるのだと思います。
でも今の若い世代にとっては、「コーヒーと紅茶、どっちが好き?」と聞かれて「コーヒー」って答えるくらい自然な感覚で、「自分はパンセクシュアルだよ」と言える、そんな世界に生きているのだと思います。その空気感が、映画にも自然に反映されているんですよね。
もちろん、映画の中でそれが明らかになったときに、周囲のキャラクターが少し違った反応を見せるとか、視点が変わるといった展開もあるかもしれません。でも基本的には、今の若い世代はとてもオープンで、ジェンダーやダイバーシティ、セクシュアリティについて深い理解と受容の姿勢を持っていると思います。
とはいえ、残念ながら、質の高くない映像作品やテレビ番組も多く存在していて、若者もそういったものを目にする機会は少なくないですよね。そうした作品は、今の世界の多様性や変化を正しく咀嚼せず、ただ「シンプル」に描こうとしてしまって、結果として鼻につくような表現になってしまう。

(C)Compass Films , Halibut , Revolver Amsterdam , MP Filmska Produkcija , Eaux Vives Productions , Jour2Fête , The Party Film Sales
日本について言うと、私はメインストリームの日本の映画やテレビはあまり見たことがありません。見るのはカンヌやヴェネツィア映画祭に出品されるような作品が中心です。そうした作品は、異性との関係を描くアプローチにおいても、とてもヒューマニスティックだなと感じます。いわゆる「グレーなゾーン」に生きる人々の姿を描いていて、私はそういう表現がとても好きです。
ただ、日本でそういった作品が実際にチケットを買って見に行かれているのか? 一般の観客に届いているのか? という点については少し疑問に思うところもあります。1950〜60年代の小津映画の時代には、みんなが映画館に足を運んでいましたよね。でも今は、時間的な制約もあるし、見る人が限られてしまっているのかもしれない、と思ったりもします。
私は日本に一度訪れたことがあって、友人もいますし、とても好きな国です。特に、日本人の感性がとても好きです。人生に対するアプローチも素晴らしいと思います。先ほども申し上げましたが、人間性を大切にするそのヒューマニスティックな感性がとても好きなんです。だからこそ、自分の作品が日本の観客にどう受け取られるのか、とても楽しみにしています。
■映画情報
タイトル:『突然、君がいなくなって』
公開:6月20日(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/totsuzen/
(ウートピ編集部)