舞台『ピエタ』インタビュー・後編

「過去の自分が私の隣にいる」ちょっと勇気が必要なときにキョンキョンが考えていること

「過去の自分が私の隣にいる」ちょっと勇気が必要なときにキョンキョンが考えていること

俳優や歌手として芸能活動をしながら、株式会社「明後日」の代表取締役を務める小泉今日子(こいずみ・きょうこ)さん。舞台の制作やプロデュースに携わる小泉さんが、長年舞台化を切望していた『ピエタ』が、今夏、全国4都市で上演されます。

『ピエタ』は、大島真寿美さんの同名小説(ポプラ社)が原作。18世紀のイタリア・ヴェネツィアを舞台に、身分や立場を超えた女性たちの交流と絆を描く物語で、プロデューサーの小泉さんも、主要人物のエミーリア役で出演します。

前編に引き続き、後編では小泉さんが新しい挑戦をするときや現場で考えていることを伺いました。

「今の私の一歩は、過去の自分の一歩」

——前編で「少女時代の風景が今の自分を支えている」というお話がありましたが、今の小泉さんも少女時代の自分に支えられているのでしょうか?

小泉今日子さん(以下、小泉):私は15歳で芸能事務所に入ったのですが、当時は周りの大人に引っ張られているというか、自由意思とはとても言えない時間を過ごしていました。そんな中で自分が飲み込まれないようにするために「私はどんな子だっけ?」「自分はこういうのが好きだったよね」と確認するために、幼いころから思春期までの記憶に支えられてきた気がします。

今の私は過去が長くなった分、仕事を始めてからの私も味方になっている感じがします。これは私だけの感覚かもしれないのですが、普通、過去って後ろにあるものだと考えられているけれど、あるときに「もしかしたら横にいるんじゃないかな?」と思ったんです。

——「過去が横にある」というのは?

小泉:例えば、何かを始めるときや勇気を出さないと前に進めないときに「きっと40代、30代、20代、10代の私も、ちょっと怖いと思いながら、一歩前に足を踏み出したんだろうな」と思い出してみる。過去の私も横に並んでいるとしたら「今の私の一歩は、全員の一歩だ」と思うと、なんか勇気が出るんですよね。

——“過去の自分”が隣にいるんですね。

小泉:そうです、だから過去の自分に「ありがとう」と思うし、「10代の私が一歩前に出てくれたから、今ここにいるよ」と話しかけたりして(笑)。でもそれって、未来のもっともっと先にもきっと私がいて、「今の私が頑張ると未来の私はちょっと楽になるんじゃないかな」って思ったり……。

——「過去の自分が味方になっている」ってすてきな考え方ですね。でも、ちょっとわかる気がします。過去の自分に話しかけるみたいな……。

小泉:この感覚わかります?(笑)「あなたが頑張ったから、今ここにいるよ」っていう感じで。

「今が一番楽しい」現場でいつも思っていること

——そんなふうに年を重ねていきたいです。

小泉:本当に年齢ってあんまり関係ないんですよね。私は57歳になった今が、一番楽しい。いつもどの時代でも、私はそんなふうに思っている気がします。「今が一番楽しい」という感覚はずっとありますね。

——「今が一番楽しい」って思うために意識されていることってありますか?

小泉:満島ひかりさんに言われてうれしかったのが「小泉さんってずっと新人みたいですね」って(笑)。もちろん褒め言葉でそこが好きって言ってくれたのですが、そういう感じなんだと思います。生きてきて積み重ねたものもあるのだけれど、その瞬間瞬間にはあまり関係なくて、いつも「怖いし、不安だし、楽しい」という感覚で現場にいます。一回一回リセットしていく感覚というか、経験のようなものを変な積み重ね方をしちゃうと「なんだかわかんないけれど偉そうなおばさん」みたいになっちゃうから。

——中年期を迎えた周りの女性からも「自分でも知らないうちに偉そうになってしまうのが一番怖い」という声をよく聞きます。

小泉:すごくわかります。「怖いおばさん」にならないようにするためには、一回一回リセットだし、アップデートが必要かなって。情報もそうだし、自分自身についてもそう。「自分はこういう人間だ」と決めつけてしまうとそこで止まってしまう。だから、なるべく多くの人と会って、他人の話を聞くというのは大事な気がします。

——いろんな世代の人と話すことも大事ですよね。

小泉:そうですね。幸いなことに、私の仕事はいろんな世代の人とも会えるから。家族の話だったら孫からおばあちゃんおじいちゃんまでそろう。しかも、キャリアとして先輩後輩はあっても、芝居を作っているときは関係ないから同じ立場で話せるんですよね。

目玉は生演奏!いろんな人に見てほしい

——最後に、『ピエタ』を見る人へメッセージをお願いします。

小泉:いろんな世代のいろんな性別の方に見てもらいたいです。生演奏というのも今回の舞台の目玉です。

音楽は、ヴァイオリン2本とチェンバロの生演奏で、ソプラノ歌手の橋本朗子さんも出演されます。橋本さんはお芝居をするのが初めてということですが、舞台を圧倒するような歌をどうしても橋本さんに歌ってほしくてお願いしました。

『ピエタ』は、ヴェネツィアが舞台なのですが、それを舞台美術で表現しようとすると、すごく安っぽくなるんですよね。だから、セットや衣装は抽象的に作りました。その代わり、音楽は、その時代とステージの上をつなぐ重要なものだと考えているので生演奏にこだわりました。そんなふうに気持ちが少しでも豊かになれるような演出や仕掛けを作ろうと考えているので、楽しみにしていただければと思います。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)

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