映画『ヴィレッジ』インタビュー・前編

「あなたはこう思うんだね」“分かりやすさ”ばかりが求められる世界で黒木華が大事にしたいこと

「あなたはこう思うんだね」“分かりやすさ”ばかりが求められる世界で黒木華が大事にしたいこと

幻想的で美しくも閉鎖的な村を舞台に、同調圧力や格差社会、貧困など現代社会が抱える問題を浮かび上がらせた映画『ヴィレッジ』(藤井道人監督)が4月21日(金)に公開されます。

俳優の横浜流星さん演じる、父親が起こした事件、そして母親が抱えた借金の支払いに追われながら村のゴミの最終処分場で働く青年・片山優。人生の選択肢などはなく、希望のない日々を送る優の前に幼なじみ・美咲が現れたことで優の人生が動き出す……というストーリー。

血縁や地縁に縛られた村から逃げるように上京したものの、都会での生活に敗れて村に戻ってきた美咲を演じた黒木華(くろき・はる)さんにお話を伺いました。前後編。

映画『ヴィレッジ』の1シーン

「優と美咲は“痛み”を共有できる関係」

——藤井監督とのタッグは昨年大ヒットした『余命10年』(2022年公開)以来、2度目ですね。今回は藤井監督のオリジナル脚本ということですが、脚本を読んだときの印象を教えてください。

黒木華さん(以下、黒木):脚本を読んだときは重い話だなと思ったんですが、私は暗い話や重い話が好きなので、そんな作品でまたご一緒できるのがうれしかったです。そして、今回は能がモチーフとして登場するので、完成したらどんな映像になるんだろうという好奇心が強かったです。

——ご自身が演じた美咲についてはどんな女性だと思われましたか?

黒木:美咲は、「東京」や「仕事」に「負けて」帰ってきたんですよね。前を向かなければと分かっているのだけれど、向ききれない部分がある。でも、生活していかなければいけないから、内面的な部分や感情は前面に出し過ぎないように……。そのあたりの塩梅(あんばい)については監督とも話しあって微調整していきました。

——美咲は、都会で負けて挫折して傷だらけで帰ってきたのかもしれないですが、希望のない世界にいた優にとっては希望というか光のような存在です。優と美咲のコントラストも印象的でした。

黒木:美咲は優の支えとなる存在ですが、優とはどこか”痛み”を共有できる関係性でもあるんですよね。それはおそらく、美咲自身も東京で傷ついて帰ってきたから。だからと言って、あまり暗くなりすぎず、まわりのこともちゃんと見ることができているという部分は意識しました。

——居場所がなかった美咲と優にとって、お互いがお互いの救いというか居場所になっていきますが、黒木さん自身は「ここが居場所だな」と感じるところはありますか?

黒木:私の場合は友達や両親ですね。何かを話せる人がいるというのはすごく救いになっているといつも思います。悩みを話す、ではなくても何げない出来事を報告しあったり、くだらない話をしたり、一緒にご飯を食べたりするだけでリフレッシュされるので、そういう関係性は大事にしたいです。大人になると友達を作るのが難しくなるからこそ何気ない話ができる友達や家族は自分にとって大事な存在です。

「分からないままにしておく部分」を大事にしたい

——映画は幻想的な薪能のシーンから始まりますが、村の闇の部分--同調圧力についても描かれています。日本社会を取り巻く空気の一つとしても時々話題になりますが、黒木さん自身は同調圧力について思うことはありますか?

黒木:やっぱり、どこかのコミュニティに属していれば多かれ少なかれ同調圧力のようなものはあるし、まわりと違ったことをするとはみ出してしまう……。そういう部分は学生時代も社会に出てからもありますよね。だからこそ、私はこの仕事をしているのかもしれません(笑)。

——光と闇の境界にある余白というかグレーのようなものが浮かび上がってくる作品でした。

黒木:舞台や映画などエンターテインメントを仕事にしていると、特に最近は「分かりやすさ」を求められることが多いのですが、個人的にはそれだけではないと思っていて。分からないままにしておく部分や余白というものがあってもいいと思っているので、そういう意味では白黒つけたり、どっちが良くてどっちが悪いとジャッジしたり、決めつけたりはできないし、したくないなって。

映画の感想もいろいろな感想があっていいと思うし、そんな余白があるのがエンタメだし、作品の奥行きだとも思います。正論って結構人を傷つけるものです……。そういう意味で、私はずるいのかもしれませんが、中間といいますかどちらにも寄らない状態でいたいとは思っています。そのほうが冷静に判断できるし、「私はこう思うけれど、あなたはそう思うんだね」という余白と余裕を持っていたいですね。

■映画情報

『ヴィレッジ』
監督:藤井道人
出演:横浜流星 黒木華 一ノ瀬ワタル 奥平大兼 作間龍斗/杉本哲太 西田尚美 木野花/中村獅童 古田新太
4月21日(金)全国公開。
配給:KADOKAWA/スターサンズ
(C)2023「ヴィレッジ」製作委員会

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「あなたはこう思うんだね」“分かりやすさ”ばかりが求められる世界で黒木華が大事にしたいこと

関連する記事

編集部オススメ

2022年は3年ぶりの行動制限のない年末。久しぶりに親や家族に会ったときにふと「親の介護」が頭をよぎる人もいるのでは? たとえ介護が終わっても、私たちの日常は続くから--。介護について考えることは親と自分との関係性や距離感についても考えること。人生100年時代と言われる今だからこそ、介護について考えてみませんか? これまでウートピで掲載した介護に関する記事も特集します。

記事ランキング