免疫って何? 高めるにはどうする? 第17回・最終回

腸管免疫を活性するものは? 腸内環境に良い食生活は?【専門医に聞くやさしい免疫学】

腸管免疫を活性するものは? 腸内環境に良い食生活は?【専門医に聞くやさしい免疫学】

感染症予防の一助とするために、「免疫って何? 高めるにはどうする?」と題し、連載にて、『免疫入門 最強の基礎知識』(集英社新書)の著書がある遠山祐司医師にお話しを聞いています。

前回(第16回)の「腸には免疫細胞の7割が集まる…『腸管免疫』が頼もしい」では、腸管免疫とは何か、腸のどこで免疫はどう働いているのかについて紹介しました。続いて今回は、腸管免疫と腸内フローラの関係について尋ねます。(これまでの回は文末のンク先参照)

腸内細菌のバランスの理想とは

——前回、腸は常に外界にさらされているので、呼吸や食べものとともにウイルスや細菌が無数に侵入してくること、また、人体で最大の免疫細胞が集まっていて免疫の機能が活発だということでした。その腸管免疫は、全身のほかの場所での免疫にも影響するそうですね。

遠山医師:近年わかってきたことですが、免疫細胞のひとつで白血球の種類であるB細胞第5回・「白血球の細胞がチームプレーで闘う…『獲得免疫』の力とは」参照)は、リンパ管や血管を通じて、全身のほかの場所にいる免疫細胞たちに「〇〇の病原体が侵入してきたよ! 全身で免疫システムを発動せよ」と伝達をしています。

すると、腸以外のリンパ管や血管、粘膜などの免疫システムが発動します。つまり、腸管免疫は全身の免疫に呼び掛けて発動させる役割も持つわけです。

——免疫の巧妙な仕組みのひとつですね。では、「腸内フローラ」は腸管免疫とは関係があるのでしょうか。

遠山医師:結論から言って、腸内フローラの状態は、腸管免疫の力や発達に密接に関係する、また逆もしかりで、腸管免疫が活性していたら腸内フローラの状態も良いということが多くの研究でわかってきています。

よく知られてきたことですが、腸にはおよそ1000種類以上、数百兆個もの細菌が生息していると言われます。顕微鏡で見ると、同じ種類の植物が集まって花畑(フローラ)やくさむら(叢)のように見えることから、腸内フローラや「腸内細菌叢(そう)」と呼ばれています。

 
腸内細菌はヒトの体にとって有用なビフィズズ菌や乳酸桿(かん)菌などの善玉菌と、有害なウエルシュ菌や大腸菌、ブドウ球菌などの悪玉菌、どちらでもない連鎖球菌やバクテロイデスなどの日和見(ひよりみ)菌に分けられます。その理想的なバランスは、善玉菌が2割、悪玉菌が1割、日和見菌が7割と考えられています。ただし最近は、単純に善玉・悪玉に分けることは難しい、分けるべきではないという医学的見解もあります。

いずれにしても多様な腸内細菌のバランスのありようが、これまで紹介してきたリンパ球や顆粒球、マクロファージなど複数の免疫細胞(第4回・「感染した細胞やがん細胞を退治! ナチュラルキラー細胞とは」など参照)を刺激して活性させるといわれます。

一方で、腸内細菌のバランスが崩れると、免疫の働きが低下したり過剰になったりすることもわかっています。つまり、バランスが良い状態をキープすると、腸の状態を健康に保って、免疫を高めることになるわけです。

便秘や下痢は腸内環境の悪化のサイン

——腸内細菌のバランスがどうなっているか、自分でわかるものでしょうか。

遠山医師:便秘や下痢をしている、おなかがはる、ガスがにおう、また内臓脂肪でおなかがぽこんと出ている、メタボリックシンドローム(メタボ)や肥満症などの病気、便が硬い、色が黒っぽい、などは腸の状態が悪化しているサインです。

このようなときには食べたものを消化吸収する力とともに免疫の機能も低下していると考えられるので改善する必要があります。

腸内フローラの改善のカギは「食物繊維」

——腸内フローラを改善するには、どうすればいいのでしょうか。

遠山医師:「食物繊維」がカギとなることが多くの医学研究で明らかになっています。え、そんなこと?と、意外に思うかもしれません。それは、日本では古くから食物繊維が豊富な海藻類、キノコ類、野菜、豆類をよく食べてきたので、食習慣として当然だと認識しているからでしょう。

和食が世界的に評価されている理由は、食物繊維が豊富な食材をふんだんに取り入れていることがひとつのポイントになっています。

「栄養のバランスがとれた食事」とは、「一汁三菜」の和定食をイメージするとよいでしょう。そしてその定食の中で、食物繊維が豊富な食材から先に食べます。こうした日本人の普段の食生活が腸内フローラのバランスを良くして、腸管免疫の活性につながると考えられています。

また、腸内細菌の善玉菌を含む発酵食品の「ぬか漬け・納豆・みそ・キムチ・チーズ・ヨーグルトなど」を積極的に食べるとバランスが改善するといわれます。

一方で、脂質や動物性タンパク質の揚げものや肉類ばかりを食べる偏った食生活の場合は、悪玉菌を増やして腸内環境を悪化させるといわれます。

聞き手によるまとめ

腸管免疫は全身の免疫の活性にも影響を与え、腸管免疫は腸内フローラの状態と影響し合うこと、また、便秘や下痢、病気の場合は腸管免疫も低下していること、そして腸内フローラを改善するには食物繊維が豊富な食材をとろうということです。免疫のありようのためには、いつも腸の状態を意識したいものです。

※2023年8月現在の情報です。

(構成・文 品川 緑/ユンブル)

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