免疫って何? 高めるにはどうする? 第16回

腸には免疫細胞の7割が集まる…「腸管免疫」が頼もしい【専門医に聞くやさしい免疫学】

腸には免疫細胞の7割が集まる…「腸管免疫」が頼もしい【専門医に聞くやさしい免疫学】

免疫の重要性を痛感する日々にあって、適切な情報を得て実践していきたいものです。そこで「免疫って何? 高めるにはどうする?」と題し、『免疫入門 最強の基礎知識』(集英社新書)の著書がある遠山祐司医師に連載にてお話しを聞いています。(これまでの記事は文末参照)

今回・第16回はここ数年でよく耳にするようになった、腸の免疫機能である「腸管免疫」について尋ねます。

消化器官の粘膜は外界にさらされている

——近ごろ、「粘膜免疫」や「腸管免疫」という言葉を見聞きします。どういう働きなのでしょうか。

遠山医師:「ヒトの口からのど、食道、胃、小腸、大腸、肛門までの消化管は、実は体の外側にある」という考えかたがあります。食べものは口から入ってこのルートを通って体外へ排出されるので、消化器官の粘膜は常に外界にさらされているととらえます。

それゆえに、ヒトの体は「ちくわ」の形状だとも言われます。

我々は常に呼吸をして、毎日数回の食事をしているので、空気や食べものとともに、ウイルスや細菌が呼吸器や消化器官には無数に侵入してきます。それらに対抗する免疫システムが、自然免疫(第1回参照)の「粘膜免疫」です。

第1回・第2回で話したように、粘膜にはウイルスや細菌を撃退する物理的なバリアが備わっているためにそう呼ばれます。

ウイルスや細菌は、口、のど、食道、胃などの免疫を突破した場合は、小腸に進みます。小腸とは飲食物を消化・吸収する部位ですが、近年、免疫のシステムが働いていることがわかってきました。

その仕組みを簡潔に述べると、まず、自然免疫の働きとして、粘膜から流れ出る腸液がウイルスや細菌に対抗します。

次に、それも突破したウイルスや細菌は、獲得免疫第5回参照)によって撃退されます。こうした腸に備わる免疫の働きを「腸管免疫」と呼び、研究が進んでいます。

腸管免疫のカギは「パイエル板」

——腸には多くの免疫細胞が集まっていると聞きます。

遠山医師: 胃に続く小腸の粘膜には、前回(第15回)紹介した「のどの扁桃(へんとう)」と同じように、リンパ球が集まった組織がたくさん存在します。中でも、小腸の後ろの5分の3ほどを占める回腸の粘膜には、「パイエル板」と呼ばれるリンパ組織がパッチワークのように点在しています。

「パイエル」とは発見者のスイス人医師の名前で、「板」は滑らかな形状を示すために名付けられました。このパイエル板が腸管免疫のカギであり、中心的役割を果たします

小腸の粘膜にはひだが無数にあり、その表面はさらに「絨毛(じゅうもう。「柔毛」ともいう)」と呼ぶ微小な突起で覆われています。これらで小腸の内壁の表面積を広げ、栄養分の吸収にあたっているわけです。

そして、パイエル板の部分だけは絨毛がなくて平坦になっていて、それが20~30個あるとされています。そのパイエル板と小腸のリンパ組織を合わせると、人体最大のリンパ組織になり、腸には免疫細胞の半分以上が集まっている、いや7割にのぼるなどの報告があります。
 

病原体を引きずり込む「M細胞」

——腸では、獲得免疫はどのように働くのでしょうか。

遠山医師: 腸管免疫のもうひとつのカギは、「M細胞」です。M細胞はパイエル板の最上部に存在し、ウイルスや細菌を発見すると即座に捕らえてパイエル板の内部に取り込みます。引きずり込むとイメージしてもいいでしょう。

そこには、これまで話してきた、白血球の種類であるリンパ球、樹状細胞、顆粒球、マクロファージなどの免疫細胞が集結しています。これらがネットワークをつくって取り込んだウイルスや細菌を攻撃、排除にかかります。

まず、マクロファージなどの食細胞が敵を食べて殺し、次に免疫細胞の精鋭部隊のT細胞やB細胞が連携して、抗体の「免疫グロブリンA(IgA)」という物質をつくり、次に襲来するウイルスや細菌に備えます。

登場する免疫細胞の種類、いわばキャラクターが多いので混乱するかもしれませんが、腸管免疫は頼もしい存在と言えるでしょう。

聞き手によるまとめ

腸といえば消化・吸収のための臓器だと思っていましたが、免疫機能も発揮しているということです。腸には免疫細胞が体全体の7割も集まり、小腸の内壁にはパイエル板などのリンパ組織が集結、腸管免疫として病原体と格闘するとのことで、腸をいっそうと大事にケアしたくなりました。

次回・第17回は、腸管免疫の状態を左右するという「腸内フローラ」について尋ねます。

(構成・文 品川 緑/ユンブル

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