『縁切り上等!―離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル―』インタビュー・後編

「何でも一人で背負うのは自分を過大評価してるのかも」売れっ子作家が気づいたこと

「何でも一人で背負うのは自分を過大評価してるのかも」売れっ子作家が気づいたこと

ドラマ化した小説『元彼の遺言状』や『競争の番人』などで知られる作家の新川帆立(しんかわ・ほたて)さんによる最新作『縁切り上等!―離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル―』(新潮社)が6月29日に発売されました。

北鎌倉にある縁切寺の住職の娘で、離婚弁護士として活躍する松岡紬(まつおか・つむぎ)が、次々と舞い込む「離婚」や「縁切り」に関する相談事を解決していくストーリーで、弁護士時代の新川さんの経験も生かされています。

「縁切り」や「離婚」について伺った前編に引き続き、後編では「プロや周りに頼ること」をテーマにお話を伺いました。

「すぐにプロに頼っちゃう」

——物語は夫のモラハラと浮気に耐えられなくなった聡美が、北鎌倉の縁切寺「東衛寺」に駆け込むところからスタートします。読者の「こうだろう」という思い込みや期待を“いい意味で”裏切るストーリー展開もさることながら、具体的な離婚の手続きについても勉強になりました。法律問題に限らず、やっぱりプロに任せるって大事なことだなと思いました。

新川帆立さん(以下、新川):弁護士目線で見ると「もう少し早く言ってくれればどうにかなったのに」という事例もあるので、厄介な案件というか任せられることは弁護士に頼んだほうがいいと思います。プロだからこそできるアドバイスもあります。

——病気になったら医師に任せるのと同じようにプロに任せる。そして自分しかできないことにリソースをさく。一人でなんでも背負う必要はないのだなと思いました。

新川:私のいち消費者としての意見なのですが、20代の頃は物欲全開だったのですが、30歳を超えて自分の体力が落ちてくると、モノにお金をかけるのではなくて、楽することにお金をかけたいモードに入ってきました。すぐにタクシーに乗っちゃうし、お掃除サービスを使っちゃう。すぐプロに頼っちゃう。お金を払って楽をするというのを覚えました。ふと「ダメな大人だな」と思うのですが、でも本当にそうかな? 楽をするのを「ダメな大人」と捉えなくてもいいのでは? と最近は思っています。

——対価を払ってプロにお願いするのは決してダメなことではないし、責められることではないですよね。と言いつつも「今日も自炊しなかったな」と後ろめたく思う日もあります。

新川:日本は特に手作り信仰が強いから……。私は家に炊飯器がない時期があったのですが、職場で「うちはレトルト米ですよ」と言った瞬間、場が凍ったことがあります。

何でも一人で背負う=自分を過大評価?

——楽することに罪悪感があるのかもしれないですね。ウートピでも読者の方に「家事の外注に抵抗があるのはなぜ?」と聞いたことがあったのですが、「自分でできるのにお金を払うことに罪悪感がある」とおっしゃっていました。

新川:最近気づいたことなのですが、それって自分を過大評価しているんじゃないかって。結局、自分は「できる」と思っているわけですよね。

——自分がちょっと無理すれば「できる」と思っている。

新川:でも、おそらくできていないわけですよ。やろうとして疲れたり、心が狭くなったりしている状況は「こなせていない」ということなんですよ。だったら「できない」と思ったほうがいいなと私は思いました。意外と自分はできることが少ないし、1日の中でできるタスクというのはここまでと気づいてからちょっと楽になりました。

——確かに……。自分を過大評価しているという視点はなかったです。新川さんがそれに気づいたのは?

新川:おそらく爆発的に仕事が忙しくなったからだと思います。たくさんの仕事の依頼を受ける中で、最初はできると思っていたけれど、忙しさが爆発してできないと気づきました。そしてもう楽しようと思いました。

——弁護士時代と比べても忙しいですか?

新川:弁護士時代は、そもそも弁護士の仕事が自分に向いてなかったんです。業務がすごく細かくて、細かい作業があまり自分に合っていなかった。向いていない作業をするストレスのほうが忙しさよりも先にきてたんです。でも、小説は自分が好きなことなので書くこと自体は全然ストレスでも何でもない。それでも量が多すぎるとしんどくなったので、そのあたりから自分の限界を知って、多少はお金がかかっても楽をするというかタスクを減らそうと思いました。

悩んだらおいしいものを食べて寝る

——頼れるところは外部に頼って……。

新川:そうですね、今は海外に住んでいるのですが、最近は月に1回は心療内科のカウンセリングを受けています。毎月50分間、ひたすら話を聞いてもらうのですがすごくスッキリします。それに先生が私の様子を見て「危ないな」と思ったら止めてくれるだろうから。そんなふうに利用しています。友人に話を聞いてもらうというのもあるかもしれないですが、ずっと愚痴を聞いてもらうのも申し訳ないし、定期的にというのは難しいと思うので。

——日本では占いをそういう場所として使っている人もいますね。では最後に、今回の小説に登場する人たちのように、悩みながらも奮闘している読者に向けてメッセージをお願いします。

新川:私の場合は、悩みがあるときって8割方睡眠不足です。小説を書いていても続きが書けない時やアイデアが思いつかないときがあります。そんなときはおいしいものを食べてとりあえず寝ます。それで10時間くらい寝て起きると解決していることもある。だから何かに悩んでいたり調子が悪いときはとにかく寝てって周りにも言っています。小説の内容と全然関係なくてすみません(笑)。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「何でも一人で背負うのは自分を過大評価してるのかも」売れっ子作家が気づいたこと

関連する記事

編集部オススメ
記事ランキング