6月22日に全世界配信がスタートする前から注目されていた、Netflixシリーズ「離婚しようよ」(Netflix独占配信中/全9話)。日本で「今日のTV番組」1位を獲得したほか、台湾や香港など世界でもトップ10入りを果たすなど国内外でヒットしています。
結婚も離婚も個人の自由であるのに、なぜ主人公たちは“離婚させてもらえない”のか、本作について、ライターの大山くまおさんにつづっていただきました。
離婚を阻む、ふたりを取り巻く環境
私たちは自由だ。どこに住むのも自由、どんな仕事をするのかも自由。誰を好きになるのも自由だし、好きになった人と結婚するのも自由。それなら離婚だって自由なはず。
いまや結婚したカップルの3組に1組が離婚する時代。離婚はポジティブなものではないかもしれないが、もはやネガティブなものでもなく、フラットなものになった。いわば、新しい人生を歩むためのスタート地点に戻るようなもの。でも、世の中には自由に離婚させてもらえない人たちがいる。それはいったいなぜなのか。
松坂桃李、仲里依紗主演、大石静、宮藤官九郎共同脚本のNetflixドラマ『離婚しようよ』は、離婚をしたくてもできない夫婦が一致団結して離婚まで突っ走るコメディー。
主人公は、女性にだらしない、世間知らず、バカの三拍子揃った地方の三世議員・東海林大志(松坂)と、朝ドラ『巫女ちゃん』で大ブレイクした「お嫁さんにしたい女優No.1」の黒澤ゆい(仲)の夫婦。結婚5年目で子どもはおらず、大志の不倫スキャンダルが発覚して以来、夫婦仲は冷めきっている。会話があるのはYouTubeの生配信のときぐらいなのだが、なぜか配信のときだけは息が合っているのが今っぽい。
離婚を決意した二人は、それぞれの弁護士(古田新太、板谷由夏)を通じて話し合いを始めようとするが、話がまったく前に進まない。すべては二人を取り巻く環境のせいだ。
大志は父の地盤を継いだ地元・愛媛でほとんど知名度がない。その上、度重なる失言、国会での居眠り、とどめに不倫発覚で人気はからっきし。選挙になれば、愛媛が舞台の『巫女ちゃん』に主演した妻・ゆいの人気と知名度におんぶに抱っこ状態になる。そして離婚の一番の難敵は、東海林家を守ることしか頭にない大志の母・峰子(竹下景子)だ。政治家は清廉潔白なイメージを守る必要があり、嫁は跡継ぎさえ産めば仮面夫婦でいいという信念を持つ彼女は、息子夫婦の離婚を絶対に許さない。
ゆいにも事情がある。6社にも上るCMは「良妻賢母」のイメージで出演しているものばかり。夫の浮気が原因の離婚なら慰謝料は発生しないが、CM降板は免れない。ゆいの所属事務所のやり手社長・阿久根(池田成志)も「離婚はやめてくれ」と頭を下げる。ゆいが妻役で出演するCM契約を勝手に決めてきているし、次々と舞い込んでいる嫁(妻ではない)役のオファーも全部受けるつもりでいる。さらに、色気ダダ漏れのパチアーティスト・恭二(錦戸亮)との恋愛がバレたら莫大な違約金も発生してしまう。
“理想の夫婦像”は多数派の夢?
当人同士の合意があれば自由に離婚できるはずなのに、芸能界と政治の世界で生きているふたりはがんじがらめで身動きがとれなくなっている。どちらもイメージで縛られているからだ。大志は政治家としての実力がないから良き夫、良き家庭人のイメージで補う必要があるし、ゆいは女優として実力があっても良き妻、良き嫁というイメージ次第で仕事が増減してしまう。
では、そんなイメージを求めているのは誰なのか。政治家に良き家庭人のイメージを求めるのも、女優に良き妻のイメージを求めるのも、すべては我々一般大衆である。政治家の妻が選挙で土下座すれば拍手喝采し、清純派の女優が不倫をすれば容赦なくバッシングする。前者は選挙の時期なら日本全国で見る光景だし、後者は毎日のようにネットの話題になっている。
「多様化の時代」と言われていて(大志は応援演説で17回も連呼していた)、夫婦や家族のあり方は結婚だけじゃないとみんな気づきはじめているのに、地方の政治家一家とCMの中には、夫に妻がかしずくような昔ながらの「理想の夫婦像」がまだ根強く生き残っている。その二つの中にあるということは、日本全体に生き残っているということでもある。日本酒のCMを演出する監督(平子祐希)は「夢が欲しい」と言っていたが、昔ながらの理想の夫婦像はきっと日本にいる多数派の「夢」なのだ。
なんだか息苦しい話をしてしまったが、クドカンが携わったドラマだけあって小ネタが随所に散りばめられている。『巫女ちゃん』は宮藤の代表作『あまちゃん』を彷彿とさせるし(ちゃんと似たような音楽が流れる)、決めゼリフの「かしこみ、かしこみ~」は脳裏に焼き付いて離れない。ゆいが主演する劇中ドラマ『愛とか恋とかおいといて君の雑炊が食べたい』は某韓国ドラマそっくりだし、大事な話し合いなのに大志が女性の二の腕ばかりに目が行く「ノースリーブ選手権」やライバル候補者・想田豪(山本耕史)のテンションが上がると大胸筋がピクピクするくだりも思わず笑ってしまう。
怒涛の選挙戦に突入する後半からは、ストーリーが二転三転して目が離せない。大志の選挙の結果、大志とゆいの夫婦の行く末を気にしながら、ラストまで一気見必至だろう。
タイトルの元ネタは72年にリリースされた吉田拓郎の大ヒット曲「結婚しようよ」である(ちゃんと吉田本人に使用許可も取っている)。それまで結婚は「家と家のもの」だったけど、これからは個人と個人が自由にできるようになったんだよ、と時代の変化を軽やかに歌った曲だ。『離婚しようよ』は、離婚は家と家のものでもなければ、誰かの理想や考え方に縛られるものでもない、個人が幸せになるために自由にできるものなんだと伝えてくれるドラマだといえるだろう。
(大山くまお)
Netflixシリーズ「離婚しようよ」は配信中