『トラックドライバーにも言わせて』インタビュー・後編

日本の#MeTooへの違和感 ブルーカラーの現場で働いていた私が思うこと

日本の#MeTooへの違和感 ブルーカラーの現場で働いていた私が思うこと

フリマアプリやオンラインショップでの買い物など、日頃からお世話になっている宅配便。最近は新型コロナウイルスの感染・拡大で自宅で過ごす時間も多くなり、ますます宅配便を利用する機会も増えているのではないでしょうか? 指定した時間通りに自宅の玄関まで荷物が届くのは“当たり前”と思っていたけれど――。

「日本の貨物輸送の9割超がトラック」と言われ、消費者への商品をはじめ、さまざまな荷物を運ぶトラックドライバー。そんな彼らの本音や事情、業界が抱えている問題点を紹介した『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)が3月に発売されました。

著者の橋本愛喜(はしもと・あいき)さんは、元トラックドライバーで20代前半から断続的に約10年間、中・長距離トラックのハンドルを握っていたといいます。「『送料無料』や『時間帯指定』のもとで働くトラックドライバーたちのことを知ってほしい」と力を込める橋本さんに話を聞きました。前後編。

【前編】トラックドライバーだった私がコロナ禍の今、伝えたいこと

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圧倒的に男性が多い業界で大変だったこと

——トラックドライバーに占める女性比率は2.4%(約2万人)と、まだまだ圧倒的に男性が多い業界です。本では、トイレ問題や生理のときのエピソードなど「女性として」苦労したことも書かれていました。橋本さんが一番大変だったのはどんなことですか?

橋本愛喜さん(以下、橋本):そうですね、トイレなど女性が使える環境が整っていないのも大変ですが、何か困ったことや悩んだことがあったときに相談できる女性がいないのが一番しんどかったです。

学生時代の友達に相談すると言ってもオフィスで仕事している子がほとんどだったんですよ。いわゆるホワイトカラーの職種に就いている子ばかりだった。

唯一、いとこのお姉さんが私と同じような環境で働いていたのですが、困ったことがあっても「しょうがない」とか、「男社会だから仕方ない」ってマルをつけちゃうんですよね。我慢するのが前提みたいな。

私は我慢が嫌いなので。言いたいことを言っちゃうし、我慢できなかったら行動しちゃう。男性社会なので、勇気を振り絞らなければいけないこともありました。

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——人手不足の業界とも言われていますが、女性をもっと増やしたほうがいいと思いますか?

橋本:増やせるんだったら、増やすべきだとは思います。ただ、増やす前にやることあるでしょと。本にも書きましたが、2014年に国土交通省が立ち上げた「トラガール促進プロジェクト」*もアホちゃうかと思いました。

*トラガール促進プロジェクトは、国土交通省が元気に活躍するトラガールを社会に広く発信することで、トラガールを目指す女性の道しるべとなるとともに、経営者や荷主に新しい視点を提供し、業界のイメージ改革を図るための取り組み。

——HPには「業界に華やぎを与える女性ドライバー(トラガール)が増えてきました」とありますね。女性ドライバーは仕事をするためにトラックに乗るのであって「華やぎ」を与えるために働いているわけではないと思うのですが……。

橋本:トラックに乗る女性を「トラガール」としても業界のイメージが改善されるわけではないし、女性だからといってキャンペーンHPをピンクで飾るのも「ブルーカラー」の現場で働く女性たちの実態や本質に目を向けない、現場の人間からしたら決して気持ちのいいものではないですね。

それよりもまずは国交相の人がトラックに乗ってほしい。女性がトラックに乗るのがどんなに大変なことかというのをまず体験してほしい。現場の働く環境を整えたうえで、女性の業界進出は促してほしいですね。

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日本の#MeTooへの違和感

——女性ドライバーへのセクハラについても綴(つづ)られていました。2018年頃から日本でも#MeToo運動が盛り上がってきましたが、橋本さんはどう見ていますか?

橋本:ニューヨークでも国際女性デーやLGBTQのイベントなど、ジェンダーに対する取材をしていた身からすると、日本に帰って来たときの感覚としては正直違和感だらけでした。

というのも、例えばニューヨークで地下鉄に乗っていて、男性が隣に立っていた女性にぶつかったとする。そんなときに「Don’t touch me」と言える女性ばかりという土壌があってこその#MeTooなんです。

一方、日本はと言うと、勤務中ですら下ネタで笑いを取ろうとする男性、それに素直に笑って取り繕ってしまう女性が今でもいる。アメリカと日本では、性差問題の環境が全く違うんです。こうしたジェンダーを考える際には、その国や地域の文化的背景やこれまでの性差の歴史、深度をくむ必要がある。

日本で#MeTooが盛り上がるのは大賛成だし、間違っていないし、やるべきというのは声を大にして言いたいんですが、やるなら日本なりの#MeTooを展開していかなければいけないと思います。

そして何より経験上、日本で盛り上がる#MeToo運動に抱く違和感が、ホワイトカラーメインの視点です。

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——どういう意味ですか?

橋本:現在、日本の#MeToo運動は、ホワイトカラーの女性たちが中心となっているけれど、そこに現場を生きるブルーカラーの女性たちの声が入っているかというとそうではない気がしていて、正直共感できない部分があります。ちょっと一歩引いて見てしまう部分があるんです。

例えば、ホワイトカラーにとって「トイレ」は、用を足し、化粧を直し、身だしなみを整える場所。でも、現在の日本のブルーカラーの「トイレ」は、油まみれになった手を洗うところだったり、工具すべらせ作った手の切り傷の血を流すところだったり、男性ばかりの現場からの一時逃避場所だったりする。下手したら現場に女性専用トイレがないこともあります。現在の#MeTooには、こうした女性ブルーカラーが入る隙があるように思えないんです。

——もっといろいろな立場にいる女性の声をということでしょうか? 

橋本:そうですね、私がすごく思うのは、女性の中にもいろんな女性がいるということ。ディズニーランドが好きな女性もいれば、私のように興味のない女性もいる。先ほどの「トラガール」もそうですけど女をひとくくりにするんじゃないよっていう。確かに中には「トラガール」を名乗っている女性ドライバーさんもいらっしゃる。でもそれがすべてじゃないんだよ、と思います。

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違うことが当たり前だから意識しない

——「多様性」という話にもつながってくると思うのですが、ちょっと言葉が抽象的というか大きすぎる気もしていて。橋本さんにとって「多様性のある社会」ってどんな社会だと思いますか?

橋本:「ニューヨークの地下鉄」で例えるのが分かりやすいと思うんですが、ニューヨークの地下鉄に乗って周りを見渡すと全員個性があるんですよ。スキンもそうだけど、ファッションの違いとか。違うのが当たり前だからもう意識しないというか気にしていない。

そういう意味で、「他人を意識しなくなること」が一番の多様性だと私は思います。周りを意識するということは、自分との違いを意識することだから。そこで「私とこの人との違いは個性」で終わればいいのですが、それが同調圧力の働く社会では「浮く」と表現され、他人どころか自分自身にさえ違和感を持つようになる。「あの人たちはこうなのに、なぜ自分は違うんだろう。変なのかな」って。

みんな違うことが当たり前ならば、他人なんて意識しない。それが私が考える多様性のある社会ですね。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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