「健康診断で、中性脂肪の数値が高いから『脂質異常症』ですと言われてとまどっています」という人が増えています。そこで、糖尿病専門医・臨床内科専門医で、『糖尿病は自分で治す!』(集英社)など多くの著書がある福田正博医師に連載で詳しいお話しを聞いています。
第1回の「脂質異常症って何? 女性は男性の2倍超」では、脂質異常症はどういう病気か、患者数は女性が男性の2.4倍であること、脂質異常症の診断基準、コレステロールについてお伝えしました。今回は、もうひとつの診断基準となる「中性脂肪」について尋ねます。
中性脂肪は内臓や皮下に溜まる肥満のもと
——前回、生活習慣病のひとつ、脂質異常症の原因として問題になる血液中の「脂質」には、悪玉と呼ばれる「LDLコレステロール」と、善玉の「HDLコレステロール」、「中性脂肪(トリグリセライド)」があるということでした。また、医学的な基準値よりも「悪玉が多い」「善玉が少ない」「中性脂肪が多い」と脂質異常症と診断されること、脂質異常症は動脈硬化を引き起こして心筋梗塞や狭心症、脳梗塞や脳出血など命に関わる病気をまねくとも教えてもらいました。
悪玉コレステロールは血管の壁に溜まってかたまりをつくり、善玉はその悪玉を掃除する役割があるとのことですが、では、中性脂肪とはどういうものなのでしょうか。
福田医師:中性脂肪は脂質の一種で、主にエネルギー源となり、体の皮下の皮下脂肪やおなかの中の内臓脂肪に蓄積されます。運動中など、体内でエネルギー源のブドウ糖が不足すると、血液中に送り出されてエネルギー源として燃焼する役割があります。それに、体温を一定に保つ働きもあります。
しかし、食べ過ぎなどで過剰に摂取すると、代謝されずに、内臓や皮下、血液中に溜まっていくのです。それが脂質異常症の原因になります。
——「太って脂肪が増えた」という状態ですね。
福田医師:中性脂肪には、食べたものの脂肪分が腸で吸収されて血液中に取り入れられた「外因性」と、一度は肝臓に取り込まれた脂肪が再び血液中に放出される「内因性」の2つのタイプがあります。
中性脂肪は脂質異常症の直接的な原因となります。また、内臓の周囲にある腸間膜(ちょうかんまく)や腹膜(ふくまく)の脂肪組織につきやすい特徴があります。血液中の中性脂肪が内臓脂肪や皮下脂肪として蓄積されるとメタボ(メタボリック・シンドローム)や肥満に、血液中で増え過ぎると糖尿病の要因に、また肝臓で増え過ぎると脂肪肝という病気の原因にもなります。増え過ぎるとさまざまな病気をまねきます。
脂質異常症はまったく症状がない
——脂質異常症になると、どういう症状が現れるのでしょうか。
福田医師:実は、症状はまったく現れないのです。どこかが痛いとか違和感があるなどのサインがあれば気づいて病院に行く、セルフケアを心がけるなどアクションを起こすことができるのですが。
自覚がないままにじわじわと血液がドロドロになっていくので、「心臓発作や脳出血の症状が現れて初めて脂質異常症に気づいた」と言う人はとても多いのが現実です。これが脂質異常症の怖い点でもあります。
——それでは、血液検査をしてみないとわからないということですね。
福田医師:そうです。ただし、検査をして脂質異常症だと指摘されたとしても、症状が現れないために、「ふーん、どこも痛くないし、まあそのうちに」と治療をしない人が多いことも問題になっています。心臓や脳に障害が起こってからでは取り返しがつかないことがあるからです。
やせている人にも多い
——前回のお話しでは、女性は更年期の世代から急に患者数が増えるということでしたが、そのころに太ってきたら注意、ということでしょうか。
福田医師:それはひとつの目安にはなりますが、一概には言えません。やせている人にも脂質異常症の人は多いからです。女性は、更年期に女性ホルモンのエストロゲンが減少することで悪玉のLDLコレステロールや中性脂肪が増えて脂質異常症の要因となるわけです。
男性の場合は、「隠れ肥満」「隠れメタボ」と言って、手足は細くてスリムに見えても、おなかが突き出て内臓脂肪が蓄積している体型では、脂質異常症や糖尿病になる確率が高いことがわかっています。
また、遺伝的要因による家族性高コレステロール血症もあるので、生活習慣が良いから、太っていないから大丈夫ということにはなりません。健康診断を受けて自覚することが重要です。
——脂質異常症になりやすいケースはありますか。
福田医師:ほかの病気が原因ではない場合は、食べ過ぎや飲み過ぎの傾向にある、運動不足、ストレスが溜まっている、更年期以降の女性、肥満、メタボ、糖尿病、高血圧などがあります。
聞き手によるまとめ
脂質異常症の診断基準のひとつとなる中性脂肪が増え過ぎると、内臓脂肪、皮下脂肪、メタボ、肥満などの原因になること、症状は全く現れないままにじわじわと血管が汚れていくこと、やせている人にも多いこと、また食生活など生活習慣の乱れ、ストレスの蓄積はこの病気になりやすいということです。次回・第3回は、その食生活をどうすればいいのかについて尋ねます。
★お知らせ
福田医師が会長をつとめる「大阪府内科医会」主催のオンライン健康セミナー「第23回市民公開講座 美と健康はおなかから~腸活のススメ~」が、2021年12月12日(日)13:00~と15:00~の2回、配信されます。福田医師もパネルディスカッションに登壇します。どなたでも無料で視聴ができます(事前登録が必要です)。申し込み先:https://www.osaka-naika.jp
(構成・取材・文 藤井 空 / ユンブル)