「会社の健康診断で脂質異常症と言われたけど、何のこと?」「中性脂肪やコレステロールの数値が高いので、脂質異常症だと告げられた。急なことで途方に暮れる」という読者のお悩みが届いています。そこで、糖尿病専門医・臨床内科専門医で、『糖尿病は自分で治す!』(集英社)など多くの著書がある福田正博医師にそれらについて聞いてみました。
コレステロールや中性脂肪が基準値よりはずれた状態
——脂質異常症とは、がんや糖尿病と並んで、生活習慣病のひとつとされています。どういう病気ですか。
福田医師:脂質異常症とは、血液中の「コレステロール」や「中性脂肪(トリグリセライド)」などの「脂質」が、基準値よりもはずれた状態いいます。
血液の中には数多くの脂質(油成分)が溶け込んでいます。それぞれの成分はホルモンや血管の壁を作ったり、エネルギーを貯蔵したりと、生きていくうえで重要な役割を担っているものです。
しかし、血液中に増えすぎると血管の壁にたまっていき、かたまり(プラーク)をつくりはじめます。やがて血管の内壁が硬くなり、血液が固まりやすくなって炎症が生じます。これが「動脈硬化」です。
血管壁のかたまりは、突然に破裂してその部分が完全にふさがったり、その一部がはがれたりして血栓(けっせん)となり、血液の流れが詰まります。
心臓の血管でそれが発生すると、心筋梗塞(こうそく)や狭心症の発作となります。脳の血管に発生すると、脳梗塞や脳出血が起こります。これらは命に関わる病気です。助かってもしゃべれなくなったり、手足の麻痺(まひ)が残ったりする場合も少なくありません。脂質異常症を放置すると、動脈硬化から心臓や脳の怖い病気をまねく可能性が高くなるのです。
女性は更年期から脂質異常症が増える
——日本人の死因のトップはがんで、2位・4位は心臓疾患と脳血管疾患です。それには動脈硬化が深く関係していて、その原因のひとつが脂質異常症ということですね。
福田医師:そうです。厚生労働省が平成29年(2017年)に実施した日本の脂質異常症の総患者数は220万5,000人で、女性は156万5,000人、男性が63万9,000人、つまり、女性は男性の約2.4倍になることがわかっています。
——なぜ女性のほうが多いのでしょうか。
福田医師:男女とも、血液中の脂質の量は加齢とともに増加していきますが、とくに女性の場合は更年期の前後から脂質の中でもコレステロールが増加し、高齢になるにつれてさらに増えていくことが知られています。
その理由は、女性ホルモンの「エストロゲン」の分泌量にあります。エストロゲンは脂質の代謝に深く関わっていて、コレステロールを分解する作用があります。そのため20~30代ごろの女性は、男性に比べてコレステロールの数値が低めに維持されています。
しかし、更年期の50歳前後からエストロゲンの分泌量が急激に低下するために、血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール。後述)が急に増えていきます。
女性は50歳ごろからLDLコレステロールが約20%ほど高くなり、60歳頃の平均値は男性を上回ります。また、女性の方が寿命が長く、高齢になるほど女性の比率が高くなるため、患者数全体の統計では女性のほうが多くなっています。
脂質異常症の診断基準は?
——脂質異常症と診断される基準は何ですか。
福田医師:血液検査をして、血液中の脂質の種類である「LDLコレステロール(悪玉)」「HDLコレステロール(善玉)」「中性脂肪(トリグリセライド)」の数値を見ます。動脈硬化を予防するためには、脂質の中でもこの3種類がポイントとなります。
日本動脈硬化学会は、脂質の異常を4つのタイプに分け、空腹時の血液を検査して次のいずれかの場合に「脂質異常症」と定義しています。健康診断などで脂質異常を指摘された場合は、その数値を確認してください。
悪玉のLDLの基準値は「140㎎/dl未満」と少ない方がよくて、善玉のHDLの基準値は「40㎎/dl以上」で多いほうがいいわけです。
<脂質異常症 診断基準>
コレステロールの悪玉と善玉の比率が重要
——コレステロールとは脂質の一種で、栄養成分なのですね。
福田医師:そうです。体にとってはLDLコレステロールも重要な成分です。病気の原因となるので悪者だととらえられがちですが、そうではありません。ただし、必要なものも過剰になると、血管壁にたまってかたまり、病気をまねくので悪玉と呼ばれるわけです。
HDLは逆に、血管の壁についた余分なコレステロールを回収して肝臓に運びます。血管を掃除するとも言えるので、善玉と呼ばれています。
健康にとって重要なのは、悪玉と善玉の数値のバランスです。血液検査結果の「L/H比」(LDL値をHDL値で割り算した数値)を見て下さい。2.5以上であると動脈硬化が進行しやすいとされています。1.5以下なら、きれいで健康な状態という指針もあります。
脂質異常症は、昔は高脂血症と呼ばれていました。しかし、善玉のHDLは数値が低いほど動脈硬化の原因なるので、2007年に脂質異常症と診断名が変更になりました。いまでも高脂血症と呼ぶ人も多いのですが、同じ病気です。
聞き手によるまとめ
脂質異常症とは、動脈硬化から、心臓と脳の命に関わる病気をまねく病気だということです。その診断は、血液検査のLDLコレステロール(悪玉)とHDLコレステロール(善玉)、また中性脂肪の数値などから判明します。まずは自分の数値を把握し、医師から指摘された場合は速やかにケアを開始したいものです。次回・第2回は、中性脂肪とは何かを尋ねます。
★お知らせ
福田医師が会長をつとめる「大阪府内科医会」主催のオンライン健康セミナー「第23回市民公開講座 美と健康はおなかから~腸活のススメ~」が、2021年12月12日(日)13:00~と15:00~の2回、配信されます。福田医師もパネルディスカッションに登壇します。どなたでも無料で視聴ができます(事前登録が必要です)。申し込み先:https://www.osaka-naika.jp
(構成・取材・文 藤井 空 / ユンブル)