今年も残すところあとわずか。新型コロナがおさまったとは言えない状況が続いていますが、3年ぶりに“行動制限のない年末年始”とあって、今年は久しぶりに帰省しようと考えている人も少なくないのでは?
日本最大級の老人ホーム・介護施設検索サイト「LIFULL 介護」によると、例年お盆や年末年始などの帰省シーズンになると、老人ホームへの問い合わせや入居相談が増加する傾向にあるそうです。
「うちの親はまだまだ大丈夫」と思っていても、日々状況は変化するもの。そして、心づもりや準備をしておくのに越したことはありません。そこで、同サイトの小菅秀樹(こすげ・ひでき)編集長に「帰省したときにやっておいたほうがいいこと」をテーマにお話を伺いました。全4回。

「LIFULL 介護」の小菅秀樹編集長
親が元気なうちに“本人の意向”を確認する
——帰省するたびに親に対して「老けたなあ」と感じます。ウートピの読者層は30代から40代の女性が中心なのですが、そろそろ親の介護や終活が頭をよぎる人も多いと思うのですが、親が元気なうちに話しておくべきこと、確認しておいたほうがいいことがあれば教えてください。
小菅秀樹編集長(以下、小菅):大きく分けて、3つあります。まず1つ目は、「介護について、親の意向を確認する」ことです。
長年、老人ホームや介護施設の入居相談に携わって感じたことなのですが、介護が必要なくて老人ホームを選ぶ方はまだまだ少数派です。住み慣れた家で暮らしたいという気持ちも強く、また経済的な理由も含めて、在宅介護を選ぶ方が多い印象です。ただ、認知症の進行によって自宅で安全に暮らせない場合や、家族の介護疲れで在宅介護に限界が来て、介護施設に入居される方もいらっしゃいます。
これまで1,500件以上の入居相談に対応しましたが、お子さんにあたる方に「自宅か介護施設か。どこで誰に介護されたいか聞いたことはありますか?」と質問すると、みなさん一様に「聞いた事がないし親も何も言わなかった。突然介護が始まるなんて思わなかった」とおっしゃいます。そして在宅介護の限界をむかえ、本人に意思確認できないまま介護施設を選択されます。
親のほうも突然「介護施設に入居するしかない」と言われて「子供に見放された」「子供に見捨てられた」と思う方もいらっしゃいます。そのため、「実現できる・できない」の話は別にして、どのように考えているのか、親の意向は確認しておいたほうがいいと思います。
早い段階で地域の施設を見学しておく
——私たちの親の世代だと、施設に対してあまりいいイメージを持っていない人が少なくない気がします。
小菅:古いイメージをもつ方は多くいらっしゃいます。例えば、在宅介護サービスで利用者の多い「デイサービス」。デイサービスはレクリエーションや体操、食事の提供や入浴などが基本的です。そして、最近はカフェのようにシャレたデイサービスも増えてきました。また、リハビリに特化したものや、お料理教室のようなもの、温泉の湧き出るデイサービスなどもあります。
しかし、「デイサービスなんか絶対に行かない」「折り紙や塗り絵なんて子供じみたことはしたくない」とおっしゃる方もいますね。ただ、デイサービスの体験に行くと、同年代で地元も同じ方と話が盛り上がったりして、「意外と楽しいな」と思う方もいらっしゃいます。
こればっかりは経験をしてみないと本人も分からないんですよね。介護施設や老人ホームも同じです。「姥(うば)捨て山みたいな所だ」「入ったら二度と出てこれない場所」という昔のイメージを引きづっている高齢者もいらっしゃいます。
——やっぱりそう思っているんですね……。
小菅:はい。でも、「最近の施設はこんな感じだよ」とパンフレットを見せてあげると、「思ってたよりいい所かもしれないね」という方は多いです。複数の介護施設を見学して理想的な老人ホームとめぐり合えた人もいます。大切なのは古い価値観をアップデートし、もしもに備えて「選択肢をもつこと」です。
誰しも、住み慣れた自宅で暮らしたいと思う気持ちは当たり前のこと。ただ、複数の介護サービスを利用したり、地域資源を活用したりしても、在宅生活が難しい状況になった場合は、施設への入居を考えます。そのときに、施設のイメージがある方とない方では、まったく印象が変わってきます。そのため、入るかどうかは別にして、早い段階で自宅周辺の介護施設を2、3カ所くらい見学しておいてほしいですね。
——元気なうちに見学しておくことで、いざ入居するときにイメージしやすいんですね。それに、親に「どうしたい?」と聞くだけでも、「自分の意思を尊重されてる」と思いますよね。
小菅:そうなんです。老人ホーム選びの9割のケースが住む場所を子供が決めています。親自身が、「ここに決めた!」と言って選ぶケースは稀(まれ)です。というのも、多くの方が、介護の限界を迎えて子供が探し始めるからです。
持病の悪化や転倒による骨折、脳血管疾患などで緊急入院した場合も、治療が終わったらすぐに退院を迫られます。そのあとの介護を考えると、「在宅介護は無理だから、老人ホームしかない」ということで、子供が探します。
高齢者の場合、治療は終えても寝たきりや車いすが必要な方がいらっしゃいます。老人ホームの見学に来られないばかりか、認知症の進行により意思疎通が困難な方もいます。
そのため、親の希望は早い段階で聞いておく。そして、その希望になるべくマッチした老人ホームを選んであげる。それも一つの親孝行の形なのかなと思います。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)