ひとり旅とカメラをこよなく愛する編集者兼ライターの宇佐美里圭(うさみ・りか)さんの旅エッセイ、今回の旅先はスペインのバスクです。世界屈指のグルメ都市は、まさに「食べること」を中心に生活が回っていて、歩いているだけで心もおなかも満たされる幸せな場所だったそうです。
食べることへの情熱があふれる街
「悲しみもよろこびもテーブルで分かち合う」
世界一の美食都市として知られているスペイン北部、サン・セバスチャンにはそういう言葉があるそうです。また、バスク地方ではスポーツが盛んだと言われていますが、その理由はズバリ「おなかをすかせるため」。会議やプレゼンをする時は必ず食べ物が出てくるそうですが、それもやっぱり「食べ物がないと話せないから」……。
とまあ、バスクにまつわるグルメ話は山ほどありますが、真相やいかに。数年前に実際行ってみると、なるほど噂通りのグルメ都市でした。ビスケー湾をぐるりと取り囲む、風光明媚なこの美食都市の住民たちは、とにかく食べることにかける情熱が尋常じゃありません。
旧市街にはびっしりとバルが並び、どこのお店も高レベル。というか、まずいお店がない?! 老いも若きも(ベビーカーの赤ちゃんから車いすの老人まで)バルに集い、一杯飲んではさっと立ち去り、何軒もハシゴしていました。
面白いのが、この地方独特の伝統、“美食倶楽部(Sociedad Gastronomica)”の存在です。主に男性たち(若者もおじいさんも)がみんなでお金を出し合って部屋を借り、そこに集まって料理を作って遊ぶのです。そういう倶楽部がこの街には公式のものだけで100以上存在するとのこと。
このシステムが本当にすばらしい。とかく男性は仕事場と家の往復になりがちですが、こういう“第三の居場所”を持つことで仕事以外の人脈が広がり、退職したおじさんたちもみんな顔が生き生き。今日はあれ作ろう、明日はあれ食べよう……頭の中で段取りを考えるだけで、ボケ防止にもなりそうです。
料理はお金がかからないのに、みんながハッピーになるエンターテインメント。たとえ料理ができなくても、準備係、片付け係など自分ができることをすれば大丈夫です。このシステム、高齢化社会の日本でも導入できたらどんなにいいことでしょうね。
ちなみに、美食倶楽部は“女子厨房に入らず”、つまりキッチンは女性立ち入り禁止の場所がほとんど。というのも、女性が入ると妻たちが夫に口出しし始め、喧嘩になるからだとか(笑)。平和にのびのび料理を楽しむには、男性だけの方がいいようです。女性にとっても、男性が美味しいものを作ってくれれば最高ですよね。