芸能活動のかたわら6年半に渡り実母を介護してきた新田恵利さん。その体験をつづった著書『悔いなし介護』(主婦の友社)には、急に要介護となった母親の変化に戸惑い、手探りながらも介護に一から向き合った様子がつづられています。
17歳で父親を亡くして以来、母親を支えて歩んできたという新田さん。「共依存の関係だった」というほど仲の良かった母親が要介護になり、意外にも「気持ちが楽になった」と明かします。家族に生じた変化とは……? 新田さんにお話を伺いました。
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「母のため」に頑張ってきたけれど…
——著書を読むと、アイドルとして多忙な日々を送っていた10代の頃から、お母さまとはとても仲のよい親子だったことが分かります。介護生活の6年半は、お二人にとってどんな時間でしたか?
新田恵利さん(以下、新田):本当に仲のいい親子でしたが、でもその分、「共依存」とでも言える関係だったと思います。17歳の時に父親が亡くなり、何も財産を残さず、年金も加入年数が足りなくて下りなかったので、兄と私で母を経済的にも見ていかなければいけなかった。私がお仕事で苦しい時に頑張れたのも、「母のため」という気持ちがありました。でも、17歳からずっとその状態だったので、精神的にも経済的にも、だんだん負担が大きくなっていたのは確かです。
そして、母の介護をすることになった時に、普通だったら「大変」「負担がもっと重くなる」と思うじゃないですか。ところが体の大きい兄と一緒に介護をするとなった時、母の精神的な私への依存が、3分の1ぐらい兄のほうに移ったんです。最終的には、半分ぐらい兄だったでしょうか。
兄は独身なので、二世帯住宅の母の居住スペースに一緒に住み、面倒を見ていました。それに、体の小さい私に支えられると母は怖いらしくて、私が車椅子を押すことさえ嫌がっていたんです。「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と言って、どんどん、そばにいる兄のことを頼るようになったので、私は気持ち的にすごく楽になりました。
——寂しいという気持ちになりませんでしたか?
新田:肩の凝りが取れたようでした(笑)。やはり女同士ということもあるので、母にも私に対する不満がある。母はそれを兄に愚痴っていましたし、兄に対する不満は私に愚痴るという具合に(笑)、いろんなバランスが家族間で取れるようになった。母の介護で大変な部分も増えましたが、精神的にはすごく楽になりました。
傷つけ合いそうになったら、とりあえず離れる
——例えば親と折り合いが悪い人や、親元を離れて暮らしている人など、親と疎遠になっている人も多いと思います。いざ、介護に関わらなくてはという時に、ちゃんと関係を築いていけるか不安だという声をよく聞きます。
新田:関係性がよくないのに「実の親だから」と頑張ってしまうと、こじれてくると思うんです。親が老いてきていることを受け入れられず、「もっとしっかりしてよ」と叱ってしまう。今までの親の姿を求めてしまうのかもしれません。
私も相手が義理の母の時は、感情が先走らず、冷静に接することができるし、イライラもしません。例えば、自分の母が靴を履くことに時間がかかると、「なぜ、こんなことも、できなくなったんだろう?」って正直イライラする時もあったんです。でも義理の母だと、「お義母さんが靴を履いているなあ」とただただ現実を見ていられる。イライラしないんですよ。本当は手伝ったほうが“いい嫁”かもしれないけれど、自分の母の介護を通して学んだので、やれるところは自分でやってほしい。それがある意味、リハビリでもあると考えています。
もし親子関係が希薄で、仲があまり良くなければ、きっぱりシャッターを下ろして接すればイライラはしないかも。嫌な言葉を言われたら、とりあえず距離を置いてどこかへ逃げましょう。お互いを傷つけ合わないためにも。
介護の話しがしづらい……。週1回会話のすすめ
——知識も準備も何もないうちに、急に介護に奔走することになったそうですね。振り返ってみて、まだ親が元気な今からやっておけることは何だと思いますか?
新田:私の場合は、病院選びを間違えてしまったがために、母が寝たきりになったので、まず病院選びでしょうか。
離れて暮らしている場合は親御さんの体調を把握できているようで、できていないかもしれません。親は子供を心配させないように、「どう?」と聞いても「大丈夫」と言うだろうし、はっきり不調を口にする人は少ないと思うんですよね。ですから、今の親の体調を把握しながら、持病が悪化した時、どの病院にお世話になるか、早めに話し合っておいたほうがいいと思います。
退院後、一人で生活できなくなったとき施設なのか? それとも在宅介護なのか? 後々、誰が近くで面倒を見ていくのかなど、決めておくといいですね。
——なかなか話題にしにくいという人も多いですよね。
新田:そういう方、本当に多いんです。だから何でだろう? とよく考えました。盆暮れ正月くらいしか会わないから言い出しづらいのでは? 週1回でも「今週どうだった?」という会話があれば、違ってくると思います。その週1回の会話の中で、「最近、会社で(友人と)親の介護する人が増えてるんだけれど、お母さんはどうしたい?」って、聞いてみれば良いと思うんです。今はSNSで済ますこともできるし、そんなに話すことがなければ「寒くなるから気をつけて」だけでもいい。週1回くらいは連絡をとってみるといいかもしれません。
(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘)