『45歳からの「やりたくないこと」をやめる勇気』インタビュー・第1回

「いい年だからちゃんとしなきゃ」はちょっとしんどい…昼スナを始めて思ったこと

「いい年だからちゃんとしなきゃ」はちょっとしんどい…昼スナを始めて思ったこと

「昼スナブーム」の火付け役としても知られている木下紫乃さんによる『45歳からの「やりたくないこと」をやめる勇気』(日経BP)が2020年11月に発売されました。

2016年に「40代、50代のミドルシニア向けキャリア支援」を掲げて「ヒキダシ」という会社を設立。会社以外の場所で気軽に本音で話せる場所が必要との思いから、昼間だけのスナックをオープンした“紫乃ママ”こと木下さん。

同書には、「自分の存在価値が見いだせない女性」や「アピール下手でつい被害者意識にとらわれてしまう真面目な女性」「出世コースから外れて呆然(ぼうぜん)とする女性」などさまざまな悩みを抱える女性が登場。そんな彼女たちに「どこに出しても恥ずかしい人生でいい」と言い切る“紫乃ママ”にお話を伺いました。全3回。

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昼スナに来る人ってどんな人?

——昼スナックでこれまで「約2000人の背中を押してきた」と書かれていましたが、昼スナにはどんな人が来るのでしょうか?

木下紫乃さん(以下、紫乃ママ):男女ともさまざまな方が来てくださいます。悩みを抱えて来る人もいますけど、だいたいは「ここに来たら面白い人がいるんじゃないか」とか、ちょっとした期待を持って来てくれる人が多いです。

3年半前、昼スナの看板を掲げた当初は「45歳以上でモヤモヤを抱えてる人に限る」と条件をつけていたのですが、やってるうちに「私、30代ですけど行ってもいいですか?」とか「モヤモヤがないけれど行ってもいいですか?」と聞かれることも多くて条件を取っ払いました。

——いろいろな人が訪れているんですね。

紫乃ママ:昼スナをやってみて分かったのは「いろいろな人と話してみることで自分の悩みって意外と大したことないんだな」とか「自分にも良いところがあるのかな」というのが見えてくるってこと。

今はコロナ禍なので積極的に来てくださいとは言えないですが、前は赤ちゃんを連れてくる女性もいたんです。「家に乳児と2人きりでいると虐待してしまうかもしれない」と。隣に座っているおじさんに赤ちゃんを預けてビールを飲んで一人の女性に戻る時間を持つ、ママと赤ちゃんが3組来たりした日もありましたよ。

——みなさんやっぱり場を求めているのでしょうか?

紫乃ママ:家でもない、会社でもない、ある意味あと腐れはなく話せる人のいるちょっと温かさもある場所を求めているのかもしれないですね。そこでは誰にも否定されたり、拒絶されたりすることがないという場所。私自身もそういう場にしたいと思っています。

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「男が弱音を吐くなんて情けない」という呪縛

——本では「45歳からの〜」とありますが、40代、50代向けに本を書いたのはなぜですか?

紫乃ママ:私は52歳なのですが、同世代を見ていると「私はどうせ女だし」とか「もういい年だから」と自ら作った枠にハマって、チャレンジを諦めてしまってる人が多いなと思って、でもそういうのってもったいないな〜って思ったんです。みんなそれぞれ経験や培ったものを持ってるのに。しかも、一度しかない人生なのに。だからそんな「諦め」になりがちな私たちの世代をチアアップするような仕事ができないかと思ったんです。

最初はセミナーや研修でとか考えていたのですが、自分のお金でセミナーなどの真面目な場所に来ることって我々の世代にはハードルが高いんですね。どうしたら私ら世代の人たちが集まってこれからのこととかを前向きに話せる場ができるかな? と考えた時に「そうか、うちらはセミナーではなくてスナックだ!」と思ったんです。それで知人がやっているバーを昼間に借りて昼のスナックとして始めたのがきっかけです。スナックとは言っても昼間なのでソフトドリンクだけって人も多いです。

——男女比はどのくらいでしょうか?

紫乃ママ:半々くらいかな。傾向的には、男性は年齢を重ねることに対するぼんやりとした悩みの方が多いんですが、女性は実は自分の中で決めていることがあって「どう思います?」「やっぱりやっていいですよね?」「やめてもいいって言ってください、ママ」と最後の一押しをもらいにくる人が多い気がします。

——本では社会学者の田中俊之さんも登場して男性のしんどさについても触れられていました。お客さんと日々接する中で男性の生きづらさについて思うところはありますか?

紫乃ママ:男の人のほうが与えられている役割が大きいというか選択肢が少ないですよね。当たり前のように「働く」という一本道なので、悩みを吐露する場所がない気はします。「会社を辞めたい」なんて簡単に言えないし、家でそんなことを言おうものなら家族が不安になる。やり場のないお悩みを抱えている人が多い気がします。

——お悩みを話すこと自体ができないですよね。

紫乃ママ:男性が弱音を吐くなんて情けないという呪縛がすごくある。しんどいだろうなと思います。

——男性の生きづらさや呪縛ってどう解いていけばいいと思いますか?

紫乃ママ:私には問題解決なんて壮大なことはできないけれど、個人的に思うのはまずは人に話してみる時間をつくることかな。私に話してくれてもいいし、たまたま隣に居合わせたお客さんに話すのでもいいし。

要はフラットに自分の考えていることを言葉にしてみること。相談までいかなくても、ただぼやいたりするだけでもいいのかなと。抱え込んでいる限りは絶対に解決にはつながらないだろうし自分がしんどいから。他の人に視点を変えてもらえることもあるかもしれないですよね。

そうそう、例えば「仕事を変えようと思っている」という人に「奥さんに相談したの?」と聞くと「いやいや、こんなこと絶対に言えない」と答えるんですよ。「なんで?」と聞くと「きっと反対するだろうし、心配かけるだろうし」って言うんだけど、全部妄想なんですよね。「1回試しに言ってみたら?」と言うんだけど、やっぱりその一歩がなかなか踏み出せない人が多いから「取りあえず話してみたらいいじゃん」とそっと背中を押してくれる人がまず必要なんだと思います。

——前段階なんですね。

紫乃ママ:そう。男性の場合、女性が一歩進む間に5段階くらい段階があるって感じ。前にお店に来てくれた方が再び来られて、以前話していたことが前進しましたと報告してくださる方が時々いるんですが、女性の場合は「あのとき転職に悩んでましたが背中押してもらえて転職しました。だから次にこんな挑戦しようかと……」とどんどん進んでいる状況を教えてくれるのですが、男性は「あのとき相談していたことなんですが、ようやくやってみようと本気で決めました」という報告。「あれ、で、まだ何もしてないの?」と。段階がめっちゃ小刻みなんです。そういうのを見ていると男の人のほうが「変化」に対してデリケートな気がします。

——男性を取り巻く状況がそうさせているのかもしれないですね。

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「大人だからしっかりしなきゃ」はしんどい

紫乃ママ:今は女性の社会進出も進んでいるので、女性もその環境に近づいてきている気がしています。女性も社会的な地位がないとダメみたいな、いい会社で働いてないとダメみたいな。働き方も多様になっていいはずなのに、もともと男性がつくってきた働く世界に女性が寄せていっている感じがします。

——それって両方ともしんどいですよね?

紫乃ママ:そう思う。日本人は世間体を気にしすぎるとよく言われるけれど、今いる会社やコミュニティが社会の全てと思ってしまって「ここでポジションを取れなかったら自分はもうダメだ」と思うとしんどいです。外に出てしまうと「なぜそんなことを気にしてたのか」と思うけれど、それは外に出てみないと分からないんですよね。

——本にも「10年ぶりに役職ナシを言い渡された46歳」が登場しますが、まさにちょっと前のおじさんの悩みですもんね。

紫乃ママ:肩書なんて勝手に会社がつけたもので一歩世の中に出たら通用しないって分かるはずなんですけれどね。そういう人には自分の肩書に関係なく、自分らしくいられる場をもっと増やしたら? という話はしますね。

——自分らしくいられる場の一つが紫乃ママの昼スナだと思うのですが、どんな場所にしていきたいですか?

紫乃ママ:そうですね。誰もが肩書を気にせず気軽につながれる場所であり、誰もが主役になれる場所かな。4年近く他人の店を昼間間借りしてスナックをやってたんですが、昨年10月に自分のお店を持ったんです。それはその「場」を使っていろいろなことをいろいろな人が“お試し”できるといいなあと思ったからなんです。

ママをやってみたい人は1回ママをやってみたらいいと思います。気軽に始めて、向いてなかったらやめてもいい。語弊があるかもしれませんが、ある意味遊び半分でやれるような場所があるといいなと。世の中は「やるなら真剣勝負で!」というのが多いからちょっとしんどいと思ったんです。

——「やるなら本気でやりましょう!」とか。やるからにはちゃんとっていうのは分かるんですが……。

紫乃ママ:でもそんなふうに思っていたらいつまでたっても「準備ができてない」って言って始められないですよね。ある程度準備したら早く始められたほうがいいし、違がったら改善したりやめたらいいじゃない。そういう繰り返しできる場所があればいいなと。

どうしても年を取れば取るほど「もう50代だし、ちゃんとしなきゃ」とか「いい年した大人だし」とか思っちゃうんだけれど、自分がとらわれているものから自由になって、どんどんやりたいことを始めて生きている大人がたくさんいるほうが年下の世代から見ても気が楽になると思うんです。

年を重ねるほどちゃんと(=コンサバになる)しなきゃっていうのは思い込みだし、後ろの世代に対してもしんどい感じを与えちゃうなとずっと思っていたので、スナックひきだしがそんなとらわれから自由になれる場所の一つになればいいなって思っています。

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第2回は2月12日公開です。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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