『私だってするんです』小谷真倫さん 第1回

カジュアルに性トークができる人も沈黙しがちな“オカズ”の話

カジュアルに性トークができる人も沈黙しがちな“オカズ”の話

他人のオカズを調査し、「オカズ大辞典」の完成を目指す高校生男女のキャラクターを通し、これまであまり大っぴらに語られることのなかった女性の性事情について、ギャグを交えつつも骨太な漫画に落とし込んだ『私だってするんです』(新潮社)。

元SKE48の加藤智子さん主演の実写化も決まった今、作者である小谷真倫さんに女性のマスターベーションにまつわるお話をうかがいました。

主人公(左)と、作中に登場する女性たち

主人公(左)と、作中に登場する女性たち

“オカズ”の話になると口をつぐむ女性たち

——『私だってするんです』は、女性のオナニーや性欲に真正面からぶつかっていった作品ですが、読者は男女どちらが多いですか?

小谷真倫さん(以下、小谷):男性ですね。男性読者の方からは「知らなかった!」という反応がすごく多くて、そもそも男性に女性の性のリアルを伝えたかったので、その反響はうれしかったです。

——アイデアはいつから温めていたのでしょうか。

小谷:連載を始める2年くらい前なので……2015年くらいです。

——何かきっかけがあったんですか?

小谷:女性のマスターベーションって、男性向け漫画でも少女漫画であってもリアリティがない描き方のものばかりなんですよ。もうちょっとリアリティがあるものを読みたいなと思ったときに、「じゃあ自分でつくるか!」と。

あと、性的なこと、たとえばどんな男性と寝たとかこういうセックスをしたとか、そういうことを臆面もなく話す人が、マスターベーションの話になるととたんに口を閉ざしてしまうというのを目の当たりにしまして。「あれ? なぜそこはダメ?」と疑問に思ったのが一番のきっかけかもしれません。

——カジュアルに性トークができる人たちでさえも黙らせるのが、女性の“オカズ”話なんですね……。じゃあ、ネタ探しにはだいぶ苦労されたのでは?

小谷:はい……むちゃくちゃ大変でした! まず、自分なりのマスターベーションの方法を教えてくれる人を探すのも大変だし、教えてくれる人がいたとしても、「じゃあそこにどういう快楽があるのか? どんな気分なのか?」ということまではしゃべってくれないんです。だから、かろうじて入手したネタを自分で実験して、「あっなるほどね、こんな感じなのね」という実感を漫画で表現していったんですよ。

——人体実験かつドキュメンタリーじゃないですか! たとえば、高層ビルで行う「天空オナニー」が衝撃的だったんですけど、あれも自分で試されたんですか?

小谷:はい。新宿ゴールデン街のママさんから聞いたネタだったんですが、実際に高層ホテルに泊まって自分で実験してみたら「……オーウ!」ですよ! 「私がこの街を支配してる!」みたいな感じ(笑)。

——そういう経験を小谷さんご自身が自分から開示していくことで、「実は私も……」とノッてくる女性がいたりします? 漫画を読んで、「私の経験もネタにしてください」と連絡がきたとか。

小谷:これが、全然ノッてこない(笑)。漫画の巻末に「みんなの秘密のオカズを教えてね」って書いても、送ってきてくれたのは2人だけ。しかもそのうちの1人は男性で、「スパッツもいいですよね、でも……」みたいなフェチの話でした。

人それぞれ違うし、あれもこれも素晴らしい

——本書を読んでいると、オカズひとつとってもこんなにバリエーションがあるんだって驚かされます。家の中でするもの、ベッドでするものという固定観念がくつがえされましたし、そういえばほかの人の“オカズ”って想像したこともなかったなと思いました。

小谷:「みんな、何を考えてやってるんだろう?」とか、私はそこにめちゃくちゃ興味を持っているんですね。自分とまったく違うものを見つけたいし、読者の方がこの漫画を通してそれを見つけてくれたらすごくうれしい。「わかるわかる」という共感はする必要がなくて、人それぞれ違うし、あれもこれも素晴らしいなって感じられたらいいですよね。

——共感する/しないではなく、「私はこうだけど、あなたはこうなんだね」という、あの感覚。それは本当に必要だと思います。

小谷:そうなんです。私は、この人とは理解し合えないかも……という人と喋っていても、「もしかしたらこの人はもう1人の自分だったんじゃないか?」と感じることがあるんです。だから、わからないから受け入れられない、ではなく、わからないけど素晴らしいんじゃない? みたいな感覚でいたいですね。正解はないですし。

——たしかに、正解もなければ絶対もない。白黒つけないことも必要ですよね。

小谷:たとえば、最高のセックスとか喜ばせるセックスのHOW TOみたいな情報がありますけど、それでうまくいかなかったら、「自分はできないんだ」って自己否定が生まれてしまう。そういうのには、ちょっと違和感ありますね。

比較対象もないし、人には喋れない

——ご自身がオナニーやセックスに関してコンプレックスに感じていたり、モヤモヤしていたことがあれば教えてください。

小谷:幼稚園くらいからマスターベーション的なことをやっていたんですが、母親に見つかったときに「何やってんの!」「体に悪い!」「将来、赤ちゃんができなくなるよ!」みたいなことを言われたんですよ。

——やめさせるためのとっさの嘘ですね。ちなみに、当時はどんなマスターベーションを?

小谷:やわらかい毛布とセックスしてました。それに「ミチコ」っていう名前をつけてたんですけど(笑)、そこからしばらくしたら木造の机——これは「ノリコ」っていう名前です——に浮気しました! あと、森の中でいい感じの根っこみたいなのがあったので、それに「リリ」と名付けてセフレにしたこともありました。リリはちょっと西洋的なイメージですね。それで、「今日の気分はミチコかな~」みたいな感じで、セフレをループしてました。

——浮気者じゃないですか!(笑)

小谷:セフレがいっぱいいたんです(笑)。

——で、親御さんに見つかってしまった。それでオナ禁とかはしなかったんでしょうか。これはやっちゃいけないことなんだ、自分はおかしいのかなって思ったり。

小谷:いや、それが、丁度、生理が来てそれに地続きの妊娠出産などグロテスクな変化に恐怖していた時期だったので「子供ができなくなる? そっちの方がいいじゃん」みたいな感じでなおさらすごいやってましたね。でも、中学生とかになると、やっぱり自分の性欲って“普通”じゃないのかなとか、そういうことも一応悩んではいたんですけど、比較対象もないし、人には喋れない。

——悩んでも誰にも言えない。そんなときにこの漫画があればよかったですよね。

小谷:読者の方で、マスターベーションをしていることについて、悪いことをしているんじゃないか、自分は病気なんじゃないかって考えてた方もいらしたので、やっぱり不安なんだろうなぁと思いましたよね。

——「人と違った自分のことを、自分で大事にしよう」という主体性を持ったメッセージを発信されているのが素晴らしいですよね。中高生くらいのときにこの作品に出会っていれば、「人と違ってもおかしくない」と思える気がします。

第2回は1月30日(木)公開予定です。
(取材・文:須田奈津妃、編集:安次富陽子)

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