『子育てとばして介護かよ』インタビュー第3回・止

「いったん“現場”から離れてみる」仕事と介護で追い詰められてた私がやったこと

「いったん“現場”から離れてみる」仕事と介護で追い詰められてた私がやったこと

妊娠・出産・子育てをすっ飛ばして、なりゆきで義両親の介護をサポートすることになった体験をつづった島影真奈美さんによるエッセイ『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)が9月13日に発売されました。

「介護」という言葉を聞いても「そういえば親が祖父母の介護をしている」「親は元気だ取りあえず今は大丈夫」と思っている20代や30代の読者も多いのではないでしょうか?

ある日、義母からかかってきた電話をきっかけに、認知症になった義両親の「介護のキーパーソン*」を引き受けることになった島影さん。最終回は、仕事と介護の両立でいっぱいいっぱいになってしまったときの対処法について伺いました。

*介護のキーパーソン:介護をしていく上で中心となる人で、医師や介護支援専門員(ケアマネジャー)などと協力する際の窓口となり、介護方針を決めていく上で重要な役割を担う人。

「仕事」「学生」「介護」という三足のわらじ

——島影さんはライター・編集者として働く傍ら、大学院にも通っているそうですね。

島影真奈美さん(以下、島影):はい。秋入学なのでちょうど博士課程の2年生に上がったところです。

——ライター・編集者だけでも忙しいと思うのですが、大学院にも通って、しかも介護をしているわけですよね? 日々をどうやって回しているのですか? 相当大変ですよね?

島影:時間のやりくりが多少大変な面もありますが、まったく別のことをやっているわけではないので助かっています。三つがうまく絡み合う部分があるというか、重なり合う部分もあるんです。

大学院では、人間の加齢による変化を身体的、心理的、社会的な側面から捉え、高齢社会の課題を解決しようとする「老年学」を専攻しています。仕事では「定年後の生活」や「介護」などシニア世代向けの記事を書くことも多く、大学院の授業や研究を通じて知ったことが役に立つ場面がたくさんあります。

その一方で、介護の現場で見聞きしたことが、仕事はもちろん、研究を進めていく上での発想のヒントになったり、議論や考察を深める手掛かりになったりもしています。

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現場からいったん離れることで冷静になれた

——本にあった「名古屋出張」のエピソードが印象的でした。島影さんが介護に追い詰められそうになったときに、名古屋で行われる学会に「逃亡」したというエピソードでしたが、強制的に介護から離れる時間を持ったことで「人にはできることと、できないことがある」ということに気付くという……。介護だけではなく、仕事や家庭など、大変な思いをしている人にも参考になる話だと思いました。

島影:渦中にいると“無理をしている自分”に気付けなかったりもするんですよね。仕事でもそうだと思うのですが、「無理です」と白旗を揚げるのは、案外難しい。無責任に途中で放り出すぐらいなら我慢したほうがいいと思ってしまうこともあるし、背負いこんでいる自覚もないまま、「とにかくやらなきゃ」と思い詰めちゃうこともたくさんあると思います。

私自身もそうでしたが、いくら頭で「無理は禁物」「冷静に対処することが大切」と思っていても、目の前のことに一生懸命になっているとブレーキが利かないことがあります。

介護が始まると、「いつ何が起きるか分からない」という状況が延々続くので、考えたくないと思いながら、いつも介護のことを考えてしまう。ウンザリしながらも、いつでも対応できるようにしなくちゃと思っていたりもする。「親に何かあったら」と思うと怖くてたまらなくて。

——ちょっと前まで、私は仕事でも同じことをやってしまっていました。実家に帰るときも旅行に行くときもパソコンを持って、会社用のスマホでしょっちゅうメールチェックをして、すぐに対応できるようにしていました。

島影:介護の場合、「何かあったら」と想像する範囲の中に、「親の死」という不安要因も加わるので、さらに身動きが取れなくなりやすいのかもしれません。自分がモタモタしているうちに、親が大変なことになるかもしれない。もしかしたら死んじゃうかもしれない。そんなことにならないよう、駆け付けなければ! って。すでに言ってることがムチャクチャなんですけど、不安と焦りでいっぱいだとその論理破綻にも気付けなかったりしますね。

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——そして「自分だけが」大変な思いをしていると思ってしまう。

島影:「私ばかりがどうして!?」と怒りが湧いてきたら、その時点で警戒警報がガンガン鳴ってる状態ですね。私自身も「夫の生活は変わっていないのに、私ばかりが大変な思いをしている」「自分の親なのに!」としょっちゅう腹を立てていたし、そんなふうに思ってしまう自分もすごく嫌でした。

やりたくないのならやめればいいのに、「やめたい」と言わず、黙って被害妄想じみたドロドロした感情を抱え続けている自分って何なの!? って。

今でも、介護にまつわることで対応しなくてはいけないことが急に増えたり、義父母が心身の調子を崩したりすると、「どうして私ばっかり!」がフワッと湧き上がってくることがあります。でも、今はそのネガティブな感情が、単なる怒りではなく、余裕を失っていることの副産物だと分かるようになりました。

以前は夫に「無理をしなくていいよ」と言われるたびに、はらわたが煮えくり返る思いをしていましたが、実はそれこそが大正解。ヘトヘトに消耗している状態で頑張り続けるより、適当にサボって、自分に充電してから対応したほうがうまくいくんですよね。そう気付けたのは、あのとき名古屋出張で「まあ、できないことってあるよね」と腹落ちしたおかげなんだと思います。

介護に限らず、いっぱいいっぱいになる瞬間は誰にでも起こり得ることだと思います。責任感が強くて、頑張っちゃう人ほど、「私ばっかり」の罠(わな)に落ちやすいのかもしれません。

だからこそ、チラッとでも頭をよぎったら、歯を食いしばってでも目の前の大変な“現場”から離れる時間を持つことをおすすめします。自分の「ノーマルな状態」と「テンパっている状態」を再確認することで、突破口が見えてくるかもしれません。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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