実生活で活用したい心理学用語/第3回

ひとつ気に入るとすべてが好きになる? 「ハロー効果」という思い込み【心理学博士に聞く】

ひとつ気に入るとすべてが好きになる? 「ハロー効果」という思い込み【心理学博士に聞く】

心理学では、人の心の動きや行動を解き明かすために、科学的な実験を通した研究が行われています。その学問から生まれた心理学用語を軸に、仕事、家庭、恋愛、子育てなど実生活で活用できる知識を得ようと、心理学博士の堀越勝さんに連載でお話しを聞いています。

第3回は「ハロー効果」について、心理学的意味と実生活での活用法について尋ねます。

堀越勝氏

ひとつが優秀だとすべてが良いと判断する心理

——「ハロー効果」の意味を辞書の『広辞苑 第七版』で調べると、「ある人が一つの面で優れていると、その人が他の面でも優れているとみなす傾向。光背効果」と記されています。心理学ではどう解釈するのでしょうか。

堀越氏: まず、「ハロー」とは、こんにちはのことではなく、英語の”halo”であり、「後光」や「光輪」、「光背(こうはい)」の意味です。ハロー効果は、英語では“halo effect”と訳します。

光輪は、西洋画で聖人や天使の頭上に描かれる光の輪のことで、また、光背とは仏像などの頭上や背後に描かれる、知恵の象徴としての光をかたどったもののことです。

つまりハロー効果とは、何か特別な業績を挙げて、そうした「ハロー」があるように見える人、「後光がさす」ように見える人をあがめる心理を言います。アメリカの社会心理学者のエドワード・ソーンダイクが1920年に提唱した社会心理学用語のひとつです。

——具体的には、例えば初対面の人に、「あの人はハンサムだから、きっと優しくて仕事もできるのだろうなあ」と思うということでしょうか。

堀越氏: そういうことです。ハロー効果とは、ある人物を評価するときに、例えば、サッカーや野球などの特定の運動技術がとても優れているので、性格的にも、知的にも優れていると判断したり、また、高学歴な人なら内面も良くて仕事もできるに違いないと考えたりなど、目立つ特徴だけに注目してほかの部分の評価が偏ることです。

ノーベル賞など高名な賞を受賞した人には、ビジネスにおける能力、指導力、経済力、誠実さなど人格、運動能力もすべてが優秀だと考える傾向をいうわけです。

また、人物だけではなく、店や観光地、会社や団体、病院、テレビ番組やウエブサイトなど、接するすべてのものに対しても同じことがいえます。ヒトの心理に働くこうしたハロー効果は社会心理学で立証されています。

——その一例の、ウエブサイトを閲覧するときでは、ハロー効果はどう働くのでしょうか。

堀越氏: 見ためのデザインが自分の好みだ、掲載されているあるひとつの情報が自分にとって腑に落ちる内容であったなどの場合、そのサイトにあるすべての情報を「質が良い。信頼できる」としてとらえる傾向をいいます。

例えば、有名大学教授何某(なにがし)の監修といった肩書きや文章を読んで、あの高名な教授が言うことなら間違いないと、内容や根拠を確かめずに、正しいい情報だと思い込むといったことです。

また、ファッションデザインや音楽などで実績を上げている著名な人が、小説を書いた場合でも素晴らしいに違いないと評価する感覚も同じです。

ひとつを不満に思うと全部が嫌になる「ホーン効果」

——逆に、何かに対して気に入らないと、すべてを否定的に思うこともあります。

堀越氏: それもハロー効果です。「逆ハロー効果」「ネガティブ・ハロー効果」「ホーン効果」ともいいます。ホーンとは英語の“horn”で、悪魔の角を意味します。

ある対象の特徴的な部分に不満を覚えると、その対象の全体をダメだと判断する、否定的にとらえることをいいます。

例えば、病院で受付の人の印象が悪いと診察も治療も良くないと判断する、といったことです。

ハロー効果を日常で活用するには

——ハロー効果をビジネスやコミュニケーションに活用することができそうです。

堀越氏: ビジネスにおいては、人材マネジメント、広告、流通、マーケティングなど多種の分野で活用されています。それぞれの業界に応じて、解釈も応用も独自に構築されているようです。

企業の人事考課や面接などでは、ハロー効果は注意事項とされ、経歴や実績、スキルなどの特徴的な部分だけで判断せず、その人物の全体像を評価するようにと対策がとられているはずです。

広告やマーケティングでは、ハロー効果を利用して売り上げを伸ばそう、といった戦略がとられます。「あの俳優さんも使っている製品です」と宣伝するという具合です。

個人的なコミュニケーションでは、人と接するときは、第一印象となる身なりを整え、笑顔、マナーを心がける方が良いということになります。

また、店や会社、病院などでは、最初に一般の人が接する場所、多くは玄関や受付での対応と思われますが、それを好感度が高いように設定や訓練をしておこう、ということでしょう。

——ただ、どんな対象であっても、第一印象が良くても後から残念なことばかりが続くこともよくあります。

堀越氏: ハロー効果はずっと持続しないことも覚えておく必要があります。無理をして最初のアプローチを取りつくろった場合、後にマイナスのことが続いてその差が大きければ、相手のがっかり度は高く、さらにはだまされたと思われることもあるかもしれません。

一方で、初めは印象が悪い、例えば人相が悪い怖そうな風貌の人でも、何かの拍子に思いやりのあるふるまいを見ると、一転して「とてもいい人」という印象に変わることがあります。また、購入した商品が不良品でむっとした場合でも、店の対応が良いと、「かえっていい買い物ができた」と思えるケースもあるでしょう。

——ハロー効果の意味や実例から、学べることがありますね。

堀越氏: 対象となるあらゆることにも自分にも、目立つ特徴だけで全体を評価しないように心がけること
が重要です。

一方で自分が相手に与える印象については、自分の強みばかりを強調せずに、弱みについてもバランスよく話すほうが、円滑なコミュニケーションを持続することにつながるでしょう。

もし、ひとつの失敗ですべてがだめだと悩んでいるとしたら、先ほど話した悪魔のホーンにつかまっていると思いましょう。強みも弱みも合わせてその人らしさ、自分らしさだと再認識する機会だととらえましょう

また、「認知バイアス」という心理学用語があります。バイアスとは「偏り」「先入観」「誤解」などの意味で、認知バイアスとは「偏った認識」といった意味合いになります。会話では、「その考えはバイアスがかかっている」などと言います。

ハロー効果、ホーン効果ともに、認知バイアスがどのように生じるかを説明しています。つまりそれらは、一部の特徴を見た瞬間に全体が見えたように錯覚する認知のいたずらといえるのです。

聞き手によるまとめ

「あの人はルックスがいいから誠実で良い人に違いない」→内面まではわからない、「あの店のスタッフは対応がいいから良質な商品を扱っているだろう」→商品の質まではわからない、「このミステリードラマの犯人は、コワモテのあの俳優だ」→顔で犯人かどうかはわからない…ということのようです。こうした心理は認知バイアスのひとつのハロー効果であることを認識しておきたいものです。

(構成・文 品川 緑/ユンブル

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