実生活で活用したい心理学用語/第1回

「吊り橋効果」で恋愛感情が盛り上がる? 日常で役立てるには【心理学博士に聞く】

「吊り橋効果」で恋愛感情が盛り上がる? 日常で役立てるには【心理学博士に聞く】

心理学では、人の心の動きや行動を解き明かすために、科学的な実験を通した研究が行われています。その学問から生まれた心理学用語を軸に、仕事、家庭、恋愛、子育てなど実生活で活用できる知識を得ようと、心理学博士の堀越勝さんに連載でお話しを伺います。

第1回は、恋愛感情を盛り上げるという「吊り橋効果」について、心理学的意味とその活用法について聞きます。

堀越勝氏

心拍数の上昇を恋愛のドキドキと勘違いする現象

——恋愛に関する記事やコラムを読んでいると、「吊り橋効果」という言葉が出てきます。具体的にどういう意味なのでしょうか。

堀越氏:「吊り橋効果」は1974年にカナダの心理学者のダットンとアロンが実施した「生理・認知説のつり橋実験」から検証された心理効果を示す学説です。

吊り橋を渡るときのように、恐怖、緊張、不安、ドキドキを感じているときに、一緒にいる相手に恋愛感情を抱きやすくなる現象を言います。

心理学では、吊り橋効果のほかにも多種の「〇〇効果」という用語があります。例えば、「ピグマリオン効果」「バンドワゴン効果」「ハロー効果」などです。(編集部注:今後はこれらの用語に関する記事を配信していきます)それらの意味は、実験の結果から導き出されたものです。研究者たちは、普段の生活の中で「この現象とあの現象には関係があるのでは」という疑問からスタートし、偶然ではなく意味のある関係が存在すると仮説を立てて実験を行います。

——つり橋実験はどのような実験だったのでしょうか。

堀越氏:18歳から35歳までの独身男性を対象に行われました。無作為に2組に分けて、1人ずつに、「高く揺れる吊り橋」と「低く安全なコンクリートの橋」を渡ってもらいます。

橋を渡る男性に、女性が「簡単なアンケートに協力してもらえませんか」と声をかけ、「結果が聞きたい場合は連絡してください」と電話番号を渡します。後日、女性に電話をかけた男性は、揺れる吊り橋では18人中9人、安全なコンクリートの橋では16人中2人でした。

この結果から、危険な吊り橋を渡る不安感でドキドキし、心拍数が上がる反応を、一緒にいた相手への恋愛感情と誤解する可能性が高いことが報告されました。

お化け屋敷、ランニングでも起こり得る

——ドキドキを勘違いするのですね。そのような場面なら、吊り橋以外でもありそうです。

堀越氏:ドキドキ、つまり恐怖や不安などの強い感情を味わう、お化け屋敷、ホラー映画、ジェットコースターなどが挙げられます。これらのシーンはデートで人気のシチュエーションですね。

またランニングなどの運動で心拍数が上昇してドキドキする場合も、吊り橋効果と同様の現象が起きやすいという説もあります。恋愛では「ハートがときめく」、「顔を赤らめる」というような、高揚感や興奮、身体的、また感情的な変化が生じるので、心拍数が上がるような「身体的な興奮=恋愛感情」と誤解しやすくなるということです。

好みのタイプでなければ吊り橋効果は起こらない?

——一方で、吊り橋効果を「いちがいには言えない」と否定する見解もあると聞きます。

堀越氏:吊り橋での実験内容に批判の声があります。「男性があとから女性に電話をかける行為」が、すなわち「恋愛感情を抱いている」ことにはならないのでは、また、声をかけた女性が「魅力的かそうでないか」によって結果が異なるのでは、などです。

これに関連して、1981年にアメリカの社会心理学者、グレゴリー・ホワイトらが検証実験を行っています。対象者の男性に、心拍数を上げるためにランニングをしてもらうのですが、その前に2種類の女性の映像を見せて、それぞれの魅力度に点数をつけてもらいます。その映像とは、「それなりに身なりが整っている女性」と、「わざと魅力的でないように髪型、化粧、服装を雑にした女性」です。

次に、ランニング後に、同じ2種類の映像を見せて点数をつけてもらいます。すると前者の女性の点数は上がりましたが、後者の女性は下がるという結果になりました。

つまり、当初から魅力を感じていない相手には、勘違いの恋愛感情を抱かないことや、逆効果であることを示しています。これは、心拍数が上がったからといって、相手に必ずしも恋愛感情を抱くわけではないことを示したとされています。

吊り橋効果を普段の生活、人間関係に活かす

——堀越先生は、吊り橋効果の意味合いについてどのように考えますか。

堀越氏:一般には、女性に会う(出来事)→魅了されてドキドキする(出来事の解釈)→恋に落ちる(感情)の順に感情が変化するとされています。吊り橋効果とは、それに対して、何でもない女性と一緒にいても、何らかの状況でドキドキしたら(感情の高揚)、結果的に誤った考え(恋に落ちる)に導かれるという仮説に対する実験結果から生まれた用語です。

つまり、あらかじめ魅力的だと思っていなくても、身体的、感情的に揺さぶられると、誤って相手を好きになってしまうことを証明したかったということです。

——この実験結果に何かの法則が存在すると理解した場合、吊り橋効果を自らの普段の生活や人間関係に役立てることはできますか。

堀越氏:まず、自分への応用を考えましょう。自分のハートがときめくように行動すると感情に変化が起こり、自らの考えかたに影響するというわけです。

実際に、「行動活性化」と呼ばれる心理学的な手法で、落ち込んでやる気が出ない場合、気持ちが変わるのを待つよりも、生活の中に楽しい活動を増やすことで気分が改善することがわかっています。つまり、無理にでも楽しい活動を少しずつ増やして、うれしかったり、達成感を増やしたりしていくと、結果的に気分が変わってやる気を起こすことも可能なのです。

次に、人間関係への応用として、吊り橋効果を誰かとの関係の改善に役立てることが可能でしょう。恋愛関係、夫婦関係はもちろん、やる気のあるチーム作りなどにも応用できるのではないでしょうか。

一緒にエキサイティングなことをして、喜びや達成感を共有すると、好きな気持ちややる気が蘇ってくる、あるいは新たにポジティブな感情が生じるかもしれません。誰かに注文や不満がある場合、まずは、ともにランニングをしたりジェットコースターに乗ったりして、心拍数があがる行動を共有すると、お互いに良い面が見えるかもしれないということです。

一方で、吊り橋効果への批判意見のように、ドキドキする状況では高揚感を恋愛感情だと誤解しやすいということなので、状況や情報をよく考えて行動しないと、吊り橋効果にだまされかねないとも言えるわけです。

例えば仕事で難しいプロジェクトに取り組んで、誰かとともにドキドキ体験を共有したときなどは注意が必要です。いろいろな誤解が生まれやすいことを肝に命じておき、「待て! その恋愛感情、勘違いでは。吊り橋効果かも」と自問して冷静になりましょう。

人間関係の中で起こる、こうした心理的なトリックを見抜けるようになると、コミュニケーションにおけるトラブルを減らせるかもしれません。

聞き手によるまとめ

吊り橋効果は、心拍数の上昇を恋愛感情と勘違いするという実験結果から提唱されたものであり、異を唱える意見もあるということです。そうした効果や法則、また批判をも理解しておけば、普段の生活で活用することができそうです。ドキドキ体験を誰かと共有したときの感情の高揚と勘違いを見つめながら、職場、家族、友人知人らとの円滑なコミュニケーションに役立てたいものです。次回・第2回は「ピグマリオン効果」について尋ねます。

(構成・取材・文 藤原 椋/ユンブル)

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