アラフィフ作家の迷走生活 第62回

仕事で女には会うのに、私とは会わないんだね

仕事で女には会うのに、私とは会わないんだね

コロナウイルスの影響で、大切な人と会うことさえ難しい世の中。しかし、仕事等で外出せざるを得ない人もいます。今回は「大好きだから、会わないよ」と「必要だから、会うよ」の差に疑問を投げかけます。森さんがおそれている、会う、会わないのもっと先の世界とは?

*本記事は『cakes』の連載「アラフィフ作家の迷走性(生)活」にて2020年5月2日に公開されたものに一部小見出しなどを改稿し掲載しています。

「大好きだから、会わないよ」

そんなキャッチコピーをインターネットやSNSで目にする。いわゆるコロナウイルスに感染させないため、大好きな人だからこそ今は会わないようにする、という心組みだ。おかげさまでというか、私は先月から今日まで、友人知人はもとより仕事の関係者にも、母や姉にも会っていない。電車にも約2ヶ月乗っていない。こんなご時世だから、別にいいのだ。皆が我慢していると思えば、私だって耐えられる。

これって実に日本人的じゃないか?

しかし、ふと不思議に思うことはないだろうか。在宅勤務やテレワークやリモートワークが増えたとはいえ、会社勤めの方で出勤がゼロになった方は、おそらくいない。やはり会社でなければできない仕事や、同僚や上司、または取引先の人に会わないとできない仕事はあるだろう。そんな時に発生するルールが、

「必要だから、会うよ」

だ。

「大好きだから、会わないよ」と「必要だから、会うよ」の差って何だろう。この微妙でいて大きな違い。これって実に日本人的じゃないか? と私は首を傾げたのである。こと、これが外国の方(どこの国とは限定せず、あくまでイメージですが)だと、「仕事だし、必要だけど、今は会わずして何とかこなそうかな」になるような気がするのだ。会社員生活とはとんとご無沙汰な私が指摘するなんて、とてもおこがましいのだが、「会わずして何とかなる」仕事も、あるにはあると思うのだ。

勿論、どうしても直接会わないと進行しない案件なんだよ! という職務だってあるだろう。でも、これは実際に知人から聞いた話だけど、「上司に印鑑を押してもらうだけで出勤しなければならない」とか。電子印じゃダメなの? と私は突っ込んでしまった。そういうのって、日本独特のような気がするんだけど。どうでしょう?

前回も書いたが、結婚していて、夫婦で、一緒に暮らしている(内縁関係や同棲も可)、といった、守られた関係ならいい。しかし、お互いがひとり暮らしの恋人同士が「大好きだから、会わないよ」のルールというか縛りを架せられてしまうと、ついつい「仕事で女には会うのに、私には会わないんだね」と思ってしまわないだろうか。逆も然りで、「仕事で男に会うくせに、俺には会わないわけだ」とか。まあ、わかっていますよ、仕事は大事だし、仕事をしないと生活できない。重々承知している。でも、あまりにも「会わない」に縛りつけられてしまうと、普通の精神を持ち合わせた人でも、普通の感覚じゃなくなってくる。

街中は閑散としているのに、ラブホテルは満室

いつもなら「仕事と私、どっちが大事?」なんて口が裂けても言わないし、比較すべき問題じゃないってわかっているのに。会うことすら許されない世の中になってしまうと、タブレットやスマホで「ああ、×××。どうして私達は会えないの?」みたいな、ロミオとジュリエットかよ? 的な会話をするようになってしまうのだ。あげく誰かを殺したり、仮死状態になってまで結ばれようとしたり。ということはないけれど、「ちっ、仕事が目的なのか、女と会うのが目的なのか。どっちなんだかな」とか、やさぐれたりしないだろうか。

風俗もそうだ。これも知人に聞いたのだが、街中は閑散としているのにラブホテルは満室だというのだ。つまり「大好きだから、会わないよ」ではなく「必要だから、会うよ」が成立してしまっている。内情は、恋人とは会わないけれど、後腐れない人(男女とも、その手の職業の方)とは会うよ、って感じか。勿論、全部が全部そうとは言わない。恋人同士でしっぽり、って方々だっている。とはいえ、これはしかたないのかな、と私は思うし、特に否定も肯定もしない。ただ、しかたないな、とうっすら切なくなるだけだ。

だから前回、私はアダルトグッズを推奨したわけだけど、でも悲しいかな、人は人肌を求めてしまうし、アダルトグッズでは限界が出てくる。もし、私の大切な人が、私以外の誰かを求めてしまったとしたら、そこは怒れないなと肩を落とすだけだ。案外、こういう事例は多いんじゃないだろうか。

他の人と濃厚接触をしてしまったら

もし、あなたの性欲がアダルトグッズでは物足りず、かと言って「大好きだから、会わないよ」の例にのっとって恋人には会えず、どうしようもなくて他の女性(男性)と濃厚接触なり濃厚な性交をしてしまったら、あなたはどうするだろう。間違っても恋人には打ち明けないでほしい。そして突然にコロナウイルスが終息したとしても、政府が「明日から大好きな人に会ってセックスしましょう」とアナザー緊急事態宣言(?)を出したとしても、2週間はセックスしてはいけない。「なんでできないの? 政府がOK出したのに」と質問攻めになっても、うまくいいわけをしてほしい。「自粛している間に股間が委縮してしまった」とか、しょうもないギャグでかわしてください。勘のいい、いや、勘がよくなくても「2週間できない」と言ったら恋人は、「あ、こいつ、やったな」と悟るだろう。悟ったとしても、おそらく、怒らないんじゃないだろうか。前述したように、しかたないな、とうっすら切なくなる。それだけだ。

原因は、暴れまくった性欲でも、あなた自身でもない。コロナウイルスのせいでもない。

じゃあ、何のせいにすればいいのだろう。苦しまぎれに言ってしまえば、言葉のせいのような気がする。「大好きだから、会わないよ」。言い得て妙だと思う。わかりやすいキャッチコピーだと感心こそすれ、一抹の残酷さが含まれている。「大好きだから、本当に大好きだから、とっても会いたいんだよ。会いたいって思っているってことをわかって! やりたいって思っていることをわかってー!!」くらい長い言葉ならいいんじゃないだろうか。余計にわかりづらいかもしれないけれど、会えないからこそ言葉って大事で、今こそ、しっかりと使うべきだし、伝えるべきだ。今まで照れくさくて言えなかった言葉を、このさい言いまくって(オンラインデートでもLINEでも何でも!)、仕事で女性(男性)に会わなくてはいけない時も「平気だよ、俺(私)でっかいマスクしていくし、相手に顔がわからないし、俺(私)も相手の顔なんかマスクで見えないし!見たいのはあなたの顔だけなんだから!」って、力いっぱい叫んでほしい。

会う、会わない、のもっと先の世界

「必要だから、会うよ」は、本当にどうしようもないことだ。上司に印鑑をもらうだけだとしても、仕事なら出勤しなければならない。上司が異性だとしても、それはあなたにもあなたの恋人にもどうにもできない。たった数分、書類に印鑑を押してもらうだけで、異性と濃厚接触しなければならない。だって「必要だから、会うよ」のルールだから。印鑑を押す、なんて、セックスだって似たようなものだろう。でも、今はできない。だって「大好きだから、会わないよ」のルールだから。必要と大好きの間には、永遠に交わらない川でも流れていそうだ。

さて、実は私がおそれているのは、会う、会わない、のもっと先の世界だ。会わな過ぎると、会いたいという感覚が廃れてしまう。「会わなくても、ま、いっか」と思ってしまうほうがこわいのだ。だって、感情がなくなるってことでしょう。外出自粛、緊急事態宣言の影響で、人間らしい感情がじょじょに消え去り、大好きだったはずの恋人と自然消滅(それこそコロナよりも先に終息)してしまうなんて、悲しすぎる。だから今はなんとか、「会いたい!」って気持ちの賞味期限をのばしてほしい。のばす工夫をしてほしい。そのためにも、「会いたくて会いたくてたまらないし、やりたくてやりたくてしかたがないんだよ!」と恋人に言いまくり、自らのモチベーションもキープしてほしいのだ。

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