「今すぐ会社を辞めるつもりはないけれど、いつか辞めるかもしれない」
将来のキャリアを考えると、そんな可能性もふと胸をよぎります。
いつか辞めるかもしれないなら考えておきたいのが、前回紹介した7種類のパラレルキャリアのうちの一つ、「キャリア保険型」のパラレルキャリア。ライフステージの変化などで会社員でいられなくなった時のために保険として、本業とは別に得意なことを活かして活動しておくワークスタイルです。
今回は、会社員を続けながらパラレルキャリアを実践する3人の女性を取材しました。
会社の看板に頼らず、自分の名前で働きたい
1人目はコンセプトストーリー・プランナーとして活動する浜本晴菜(はまもと・はるな)さん。浜本さんは本業で印刷会社に勤務、パラレルキャリアで実践している「コンセプトストーリー・プランナー」は、人、モノ、場所に込められた想いをターゲットに届けるための言葉をつくる仕事だそう。
——パラレルキャリアを始めようと思ったキッカケは?
浜本晴菜さん(以下、浜本):大手企業での仕事は非常にやりがいがありました。でも入社2、3年目の時に「会社の看板がなくてもこの仕事ができるのだろうか?」と不安を感じて。「○○株式会社の浜本さん」だけではなく「浜本晴菜」という名前で誰かに価値を提供できるのだろうか?というモヤモヤがずっとありました。
——モヤモヤを解消するためにどうしたんですか?
浜本:異業種転職して人生変えてみよう!と思ったこともありました(笑)。でも、同時期に24歳で結婚して、夫婦としての人生を考えるタイミングとなりました。そこで、やっぱり自分の意志だけで決めちゃいけないと思い、何度も夫と話し合いました。
——パートナーとは、どんな話をされたのですか?
浜本:転職を含めていろんな可能性を話し合いました。そのなかで夫から、「今の会社や仕事が嫌いなわけじゃないなら、続けながら好きなことをやってみたらいいんじゃない?」と言われて。その言葉が一番のキッカケとなってパラレルキャリアの活動を始めました。いつか子どもが産まれたり、夫が転勤になったりして、会社を辞めざるをえない時が来たとしても、会社の看板なしに働けるようにしておきたいという思いもあって。それでパラレルキャリアとして「コンセプトストーリー・プランナー」を名乗り始めました。
——「コンセプトストーリー・プランナー」とはどんなお仕事なんですか?
浜本:友人とチームを組んで、いつかは結婚したい女性をターゲットに、結婚式のヒントを伝えるイベントを開催したことがあったんです。その際に、イベントのコンセプトをストーリーに落とし込んで考えたことから、この仕事が生まれました。本業で食品や生活用品などのマーケティング・ブランディングをしていた経験があって、そこで得た知識やスキルを活かせていることに気づきました。
——本業では得られないやりがいなどはありますか?
浜本:素晴らしい想いやアイデアを持っているのに、それをどう言葉に落とし込んだらいいのか、どうすれば届けたい人に伝わるのかがわからなくて一歩を踏み出せない人がたくさんいることに気づきました。そんな人たちの背中を押したい!という気持ちがだんだん湧いてきて。それぞれの「想い」をヒアリングした上で、マーケティング・ブランディング視点で戦略を立て、ターゲットに響きやすい言葉を選び、世の中のニーズと結びつける。そのプロセスなら自分は得意だと感じて、本業ではなかなか関われない「人」のコンセプトストーリーを提案するサービスを始めたんです。
——パラレルキャリアでモヤモヤは解消されましたか?
浜本:今も悩むことはありますが、以前のようなモヤモヤは感じていないですね。パラレルキャリアを始めてから、精神的にいいバランスが取れていると思います。人と自分を比べたり、羨ましくなったりすることもなくなりました。これからも、世の中に届けたい想いを持つ誰かの背中を押せるような言葉づくりを続けていきたいと思います。
「人生のプランB」を見つけておきたい

ハンドメイドデザイナーとしてハンドメイドギャラリー「Joyful」を運営するtokoさん。ロザフィ・LaCheRibbonのレッスン・アクセサリー販売、クロスステッチのオーダーメイド作品の制作をしている。(photo by 忠地七緒)
2人目はハンドメイドデザイナーとしてハンドメイドギャラリー「Joyful」を運営するtokoさん。tokoさんは本業で不動産業界の仕事をしています。
——パラレルキャリアを始めたキッカケは?
tokoさん(以下、toko):普段は会社員ですが、本業にはやりがいを感じています。でも、一生この会社でこの仕事をしていくのかと考えると、必ずしもYes.とは言えなくて。いつか訪れるかもしれない「今の仕事を辞める時」に、私はこれができると言える何かが欲しくて「人生のプランB」を探し始めました。
——「人生のプランB」とはどういうことでしょうか?
toko:会社とは別に軸を持つことですね。「人生のプランB」とは、「私、こんなこともできる!」と可能性と自信を与えてくれる選択肢だと考えています。
——tokoさんの場合、「人生のプランB」はどうやって見つけたんですか?
toko:ひたすら「やってみたい!」と思うことに1年かけて挑戦しました。そこで見つけたのが、刺繍の一種であるクロスステッチでした。いくらやっても飽きなくて、毎日やりたいし苦痛なことが何もない。幼稚園の頃から手芸は好きだったので、好きなことに辿りついた形です。
——どういう経緯で、クロスステッチの作品を販売し始めたのですか?
toko:Pinterestでおしゃれな刺繍の画像などを集めているうちに、赤ちゃんの誕生記念に名前、出生日、体重を刺繍した「バースアナウンスメント」と呼ばれるものがあることを知り、自分でつくって友人にプレゼントしました。それをキッカケに、温かな雰囲気のある記念品が欲しい人は結構いるのでは?と思うようになり、Creema(ハンドメイド品のマーケットプレイス)でネット販売を始めました。これからはプレ花嫁さんに向けた「ウェディングアナウンスメント」や、プレママさんに向けた「クロスステッチキット」も販売していく予定です。
仕事を理由に人生の選択肢を狭めたくない
3人目はフラワーアレンジメントデザイナー、講師として活動する刈間真悠子(かりま・まゆこ)さん。本業では商社美容商品のバイヤーをしながら、パラレルキャリアでは「フラワーショップ&レッスンMy flower closet」主宰者として、ウエディングやギフトオーダー品を販売しています。
——パラレルキャリアを始めたキッカケは?
刈間真悠子さん(以下、刈間):ハワイで結婚式を挙げる予定だったので、結婚式で使うブーケや花冠などのアイテムを手づくりしようと、28歳の時にフラワーアレンジメント教室に通い始めました。式が済んでから祖母にフラワーギフトを贈ったところすごく喜んでくれて、もっとフラワーアレンジメントを上達させたい!と考えるようになりレッスンを継続、講師の資格まで取得しました。
——結婚式の準備として始めたことに、思いのほかハマってしまったんですね。
刈間:自分が思い描いたイメージを形にしていくことが面白くて、熱中していました。せっかくここまでできるようになったのに、と教室をやめるのが名残惜しくなっちゃって……。
——趣味がパラレルキャリアに変化した経緯は?
刈間:夫の転勤や出産などで今と違う生活をしなければいけない状況になった時、家族を優先できる自分になりたいと考えました。仕事を理由に人生の選択肢を狭めたくないんです。会社員じゃなくなっても自分のアイデアで勝負できるようになりたくて、フラワーアレンジメントを趣味にとどめず「仕事」と言えるレベルまでもっていこう、と。
——パラレルキャリアを始めてみて、どうですか?
刈間:本業でバイヤーとして働いている時は、お客様から面と向かって「ありがとう」と感謝される機会がないんです。それはパラレルキャリアでしか体験できないこと。自分の生活にもう一本の柱ができたおかげで、本業が大変な時も自分に自信を失ったり取り乱したりせずに済みますね。今はSNS経由でのオーダーがメインですが、今後はライフステージに合わせて子どもと楽しめるワークショップなども開催していきたいです。
「辞めたい」と思った時にスパッと会社を辞められるようにしておく「キャリア保険型」のパラレルキャリア、いかがでしたか? 本業もパラレルキャリアもさまざまな3人でしたが、共通して「保険」があるからこその軽やかさが感じられました。次回は「自己実現型」のパラレルキャリア実践者を取材します。
(構成・写真:成瀬夏実/ワードストライク)