働き女子の30代といえば、20代で種まきをしてコツコツやってきたことがやっと実を結び花が開く時期。
そんな「仕事も人生もこれから」という時期にがんを発症したら……。「仕事はどうなるの?」「生活はどう変わるの?」といった疑問が一気に湧いてくるのではないでしょうか。
今日はがんじゃないかもしれない。でも、明日がんになったらーー。
去年の6月に乳がんで亡くなった小林麻央さんの追悼番組を見ながら何気なく胸を触ったところ、しこりに気づき乳がんが発覚したという装花デザイナーの関尚美さん(34)。乳がんになったとわかってはじめに思ったのは「自分が死んでしまうということよりも、日常生活を送れなくなってしまうかもしれない」ことだったと言います。
前々回は乳がん発覚と手術について、前回は闘病生活と仕事について聞きました。今回は、「自分らしく生きること」について聞きます。
【第1回】乳がんを告知されて思ったこと
【第2回】装花デザイナーの私が乳がんになって…
病気になってわかったこと
——病気になってわかったことはありますか?
関尚美(以下、関):手術で退院した次の日のことなんですが、胸に水が溜まっちゃって、病院に行ったんです。診察が終わって帰るときにちょうどバスが来たので、うっかりタクシーではなくバスに乗ってしまったんです。でも、座席がシルバーシートしか空いてなくて……。体がしんどくて立っていられなかったので座ったらおばあさんが乗ってきたんです。
私はそのとき金髪だったのもあって場の空気が「譲りなさいよ」みたいな雰囲気になっているような気がして肩身が狭くて……。でも立ち上がるには辛くて、降りてタクシーを拾うのも、ちょっとしんどいな……と。そのときに、見た目ではわからないけれど、世の中にはいろいろな人がいるんだろうなって思いましたね。
あとは、仕事のために資材の買い出しに行かなければならなかったんですが、まだまだ傷口は治っておらず、ぶつかられたらアウトなので駅でもゆっくり歩いていたんです。人によっては「ノロノロ歩いて邪魔だな」って思う人もいるのかもしれないなと思いながら。金髪でメイクもしていたからとても病人には見えないもんなーって(笑)。
——いろいろな人がいてそれぞれの事情を抱えていて、本当に見た目や外見だけではわからないですよね。
怖かったのは「日常生活を送れなくなる」こと
——外見といえば、髪は地毛ですか?
関:いえ、これかつらなんです。
——えー! 見えない……。
関:笑。全部人毛なので、洗ったり、巻いたりできるし、カラーリングもできます。カットもできるので、春くらいになったら短くしようかなと思っています。
——すごい。カットもできるんですね。かつらがそんなに発達しているなんて知りませんでした。髪はやっぱり抜けましたか?
関:はい。私の場合、髪の毛は1回目の抗がん剤の投与から2週間ちょっと経ったころに抜け始めたんです。一瞬「ハッ」となったんですけれど、「まあいいか」という感じで。ちょうど金髪にしていたので、頭皮とのコントラストが目立ちにくくて「抜けている」という悲壮感がなかったです(笑)
なので、かつらもわざとらしいくらい明るい色にしたほうがわからないです。地毛に近づけようとか、ナチュラルにしようとすればするほど不自然になっちゃう。
——確かにそうかもしれない! そういう情報、もっと欲しいですよね。メイクは変わらずですか?
関:普通はまつげがだんだん抜けてきて、なくなるらしいです。新しいまつげが生える力がないから、だんだん顔つきも変わるし、まゆげも抜けちゃう。だから前髪を作っています。
でも、不思議なことに髪の毛はこんなに抜けてるのに、まつげは抜けなかったんです。2回目の抗がん剤を打って、全部抜けちゃうかなと思ったんですが、抜けてないので「人の体って不思議だなー」と思っています。
——髪の毛が抜けたり、まつげが抜けたり、外見が変わってしまうのはやはり不安ですよね。
関:そうですね。がんとわかったときにまず思ったのが、「死んでしまうかもしれない」というのもあったんですが、それよりも日常生活をいかに送れなくなるか、っていうことのほうが問題だったんです。私が私らしくなくなることのほうが怖かったですね。
——「外見なんかより命のほうが大事だろ」という声もあると思うし、確かに命が第一だとは思うんですが、だからと言って外見はどうでもいいってことはないと思うんです。以前、29歳で子宮頸がんを発症した水田悠子さんという女性にインタビューをしたんですが、「がんになってもキレイを諦めたくない」とおっしゃっていました。
関:私もそう思います。なので、がん患者がよくかぶっているキャップは悲壮感がありすぎてやだなと思っているんです。せっかくかわいいパジャマを着ていても、キャップだけ黒かったり、ベージュだったり、いかにも病人みたいなのは嫌だなって。
——そういえばキャップは髪の毛がないのを隠すためにかぶるんですか?
関:それもあるんですが、「頭皮も弱っているから保護のためにかぶってください」と先生に言われました。ありとあらゆる部分が弱るそうで。
そして、例えば寒い日におなかを急に触られるとヒヤッとしますよね? 髪がないとああいう感触が頭にある感じなんです。ちょっとしたときに、家の中でも帽子をかぶっていたいなあというのはよくあります。
あと、常にかつらをかぶっているのは疲れるんです。圧迫されているから長時間つけているのはきつい。なので、本当に頭に何かをつけているかつけていないかわからないくらいの圧迫感がない帽子があるとすごく楽なんです。「ジェラート ピケ」のような素材で作ってくれたらうれしいですね。
——かつらが圧迫感があるというのも知らなかったです。
関:普通に暮らしていればわからないですよね。あと、もみあげ問題が出てくるんですよ。もみあげもなくなってくる。そうすると、かつらに違和感が出やすくなるんです。
今、私まだもみあげが残ってるからいいんですけど、かつらのもみあげ問題についてもうちょっとがんばる人いないのかなって。がんを経験した友人ともそれについては話が白熱しました。
毛が付いてるニットキャップもあるんですが、いかにもがん患者という感じでその上、可愛くない。
——なるほど……。もみあげって大事なんですね。
関:そうですね。もうちょっともみあげがナチュラルに演出できるかつらが欲しいです。キャップをかぶる場合は、ベースになるネット状のインナーキャップ、その上にかつら、さらにその上にキャップという順でかぶるんですが暑いし頭が圧迫されるんです。
なので、インナーキャップに直接かぶれるような襟足だけついたキャップがあればラクだなあと。実は、襟足だけつけたニットキャップを自分で作ってみたのですが、最近はそればかりかぶってます。これは、インナーキャップも必要なく直接、サッとかぶれて、本当にラクです。
——繰り返しになりますが、いかにも「病気っぽい」のはダサいですよね。
関:うん、欲しいと思えない。なぜあの形状になっちゃうんだろう? いかにも「病気の人」向けではなく、キャップを販売しているブランドから脱毛に悩む人向けの製品が出てくるとありがたいなって思います。
今回の件で、やっぱりオシャレを想定していないというか、若い人ががんになるということが想定されてないということがすごくよくわかりましたね。
私ががんのことを発信する理由
——関さんは今回取材を受けてくださったり、がんのことを隠したりしないで発信されていますが、抵抗はないですか?
関:私はなぜがんを隠すのかわからないんです。言ったほうがまわりも理解してくれる。病気である自分を恥じる人もいるかもしれないけど、私は夫に言われたように虫歯みたいなものだと思っている。
体は1人に1個しかないんだから、その体とどう付き合っていくかを考えていかなきゃなって思うんです。再発するかも、死ぬのかも、と不安に思って日々を暮らすよりも、自分の感情を殺して生きることのほうが嫌なんです。楽しくなくて生きてるほうが、私にとっては苦しい。やりたいことはやりたいし、できないことはできないし、感情は殺さないようにするのを続けています。
関:もちろん、落ち込むことや弱ることもあります。感情のフタが外れそうなとき、まわりの人に助けられて本当に感謝をしています。私の場合は話していくうちに気持ちの整理がついていくタイプみたいで。それに、話してみるとたくさんの人がそれぞれ大変な思いをしていろいろな経験をしているということを知りました。人ってこんなに優しくて、愛にあふれているんだなって思いました。
病気になったからと言って、嫌なことばかりではありませんでした。幸せをちゃんと感じることが増え、自分のこれからの生き方も明確になりました。
検査したからと言って、100%安心というわけではないけれど、早期発見は早ければ早いほどよい。命が救われるのだから。この私の発信が、どこかの誰かの元気でいられるきっかけになれたらいいなと思っています。
撮影協力:「モンブラン」〒152-0035 東京都目黒区自由が丘1丁目29−3
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)