『生理終了!~恋愛マンガ家が50歳になったら人生こうなる~』をコミックサイト「ウーコミ!」で公開中の漫画家・安彦麻理絵さんと、『生理用品の社会史』(角川ソフィア文庫)、『月経と犯罪 “生理”はどう語られてきたか』(平凡社)などの著作をもつ歴史社会学者の田中ひかるさんの対談。
安彦さんと田中さんはほぼ同年代。ということで、 “麻理絵ちゃん”“ひかるちゃん”の間柄で、閉経と更年期についてざっくばらんに語り合っていただきました。
閉経や更年期なんてまだ先の話、と思うかもしれません。
しかし、生理に関する情報がアップデートされていく昨今、閉経や更年期のことだって事前に知っておくことで、気持ちがラクになることだってたくさんあるはず。連載の最終回です。
「閉経したら女じゃなくなる」って何??
——安彦さんは去年閉経、田中さんは閉経までカウントダウンということでしたが、親や知人など、周りの人から閉経に関する体験談を聞いたことはありますか?
安彦麻理絵さん(以下、麻理絵):そういえばママ友に「私、閉経しちゃった」って言われたことある。46歳くらいでストレスで月経がとまっちゃったんだって。「医師に『この注射打っても月経が始まらなかったら、もう閉経したと思ってね』とか言われてさー」って、閉経したとわかったら、うまくいってなかった夫とあっさり離婚してた。
田中ひかるさん(以下、ひかる):私はママ友じゃなくて仕事関係の人からはぼちぼち聞いてはいたかな。ホットフラッシュとか多汗とか。でも、私にとって閉経は、面倒なことがなくなりラクになるっていうイメージのほうが大きい。
——「閉経したら女じゃなくなる」と懸念する方がいますが、そう言われたら何とこたえますか?
ひかる:「女じゃなくなる」ってなんなんでしょうね。じゃあ女って何? 妊娠できるのが女ってこと? 違うよね。
麻理絵:以前、アラフィフ女性誌雑の取材を受けたんですが、閉経に対するアンケートをとったら「女じゃなくなる」とか、割とネガティブなイメージが多かったみたい。
ひかる:『「オバサン」はなぜ嫌われるか』でも書いたんだけど、女性に対する年齢差別を突き詰めると「女は産んでナンボ」という考え方にたどり着くんだよね。「産めなくなった女は価値がない」「人間以外のメスは子どもを産めなくなったら死んじゃうのに、無駄に生きてるのは人間の女だけだ」とか。
さすがに最近はあからさまに言う人は少なくなっているけど、そういう考え方は確実に残っていて、女性が歳をとることに対するネガティブな思いをつくりあげている。そういう社会的な空気を内面化している人ほど、閉経を気にするんだと思う。
84歳のAV女優
麻理絵:最近友達に教えてもらったんだけど、小笠原祐子さんっていう84歳のAV女優がいるの知ってる? 80歳を過ぎてからAVデビューしたんだって。
ひかる:へえ~、知らなかった! それまで何してた方なんだろう。
麻理絵:59歳で夫に先立たれて、60代でスナックを始めて、81歳でAVデビューだって。岩井志麻子さんとの対談記事があったので読んでみたら、56歳の志麻子先生が小娘に見えるくらいすごいのよ(笑)。
——「閉経したらもうセックスとも無縁なのかな?」という素朴な疑問に、強烈なアンサーをぶちかましてくれますね(笑)。
ひかる:閉経どころか80代! 年齢の規範なんてどこへやら。素敵です。
——歳をとるのが怖くなくなるといえば、安彦さんが『ババア☆レッスン』で取材していたDJ SUMIROCKもパワフルでしたね。
麻理絵:すごかったわね~! 高田馬場で餃子屋を営みながら77歳でDJデビューして、私が取材したときは81歳・現役DJ。彼女が出演する深夜イベントを観に歌舞伎町のクラブにお邪魔したら、親友の36歳のフランス人男性と一緒にシャンパンあけてくれたのよね。何もかもがすごかった。今、85、6歳かしら。
ひかる:そこまでハジけられるのは、若いころにいろいろ我慢してきた反動?
麻理絵:いや、若いころから好き勝手やってきたらしい(笑)。好きなことやってると更年期ないわよ、なんておっしゃってた。
女じゃなくて、最高の人間になる
——「更年期」という言葉が、女の人を傷つけるために使われることがあります。そのことについてはどうお考えですか?
麻理絵:「更年期だろ、オマエ」みたいな言い方ね。「〇〇さん、更年期だから気をつかってあげて」みたいな婉曲な使い方もありそう。ヒステリーと更年期がイコールでつながってる感じ。
ひかる:「更年期」という言葉が女性にダメージを与えると思ってるのかな。
麻理絵:私、「更年期障害」って言葉が嫌なんですよね。「障害」ってつけるから誤解しやすいんだと思う。女性の月経がとまることに対するネガティブなイメージが強すぎて、更年期とか閉経って言葉自体がネガティブに響いちゃうから、そこを変えればいいんじゃないかな。
ひかる:さっき、「閉経したら女じゃなくなる」っていうお話がありましたけど、そういうときの「女」って何なんでしょうね。とことん考えてみるのもいいと思います。
麻理絵:「女じゃなくなって、最高の人間になるんだ、私は」と思えばいいんじゃない? いいきっかけになるかも。
——なるほど、閉経は「女って何?」って考えるきっかけでもあり、「女という枠組みにとらわれずに最高の人間を目指せばいい」と考えるきっかけにもなる、と。
ひかる:生理で苦労してきた人にとっては、閉経して生理がなくなるのはほんとにうれしいことじゃないですか。
麻理絵:別に「障害」じゃないよって言いたい。
——これから更年期に向かう私たち世代の人に。
ひかる:更年期の不調にも個人差ありますが、重い症状も、今はコントロールしやすくなっています。そういう情報を周知したり、交換したりするためにも、「更年期」や「閉経」について語りやすい社会になるといいですね。
麻理絵:自分の経験から言うと、子宮に対して「お疲れさんでした」みたいな感じ、もう充分使いましたって感じはあったけど、喪失感はなかったな。そういえば私、「初潮にお赤飯」じゃないけど、「閉経で臭豆腐パーティー」やったわよ(笑)。何やってるんだろう? でもそれくらい振り切ったほうが更年期は絶対楽しいよ!
(構成:須田奈津妃、編集:安次富陽子)