『ソロエコノミーの襲来』刊行記念トークショー・第1回

「女は数学が苦手」のウソ “ステレオタイプ脅威”に惑わされないで【荒川和久×中野信子】

「女は数学が苦手」のウソ “ステレオタイプ脅威”に惑わされないで【荒川和久×中野信子】

「精神的に自立した価値観を持つ人=ソロ」と定義し、ソロで生きることに対して前向きな意見を発信し続けている独身研究家の荒川和久さん。最新刊『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックス)では、独身者を中心とした経済社会(ソロエコノミー)について、徹底分析しています。

同書の刊行を記念して、6月に東京都内で、脳科学者・中野信子さんをゲストに迎えたトークイベントが開催されました。「ソロの生き方」をテーマに、孤独との向き合い方や本当の自分について、熱く語り合ったイベントの模様を3回にわたってお届けします。

成長する「ソロ活市場」…孤独との向き合い方は?

荒川和久さん(以下、荒川):これまでの日本は、主婦が買い物を仕切っていた「家族市場」が中心でした。それが今後、独身や一人での消費行動をする「ソロ活市場」が6割に達する見込みです。既婚者でもソロ活的な消費が、ものすごく増えているんですね。だから、状態としては独身者の市場と、既婚未婚関係なく一人で消費するソロ活市場、その両方が増加します。

国が推計した人口構造や消費システムから考察すると、2030年には、「ソロ活市場」が「家族市場」を抜くんです。また、この「ソロ活市場」には、親元にいる独身者も含まれています。最近は、“親元未婚”が増えていて。一人暮らしの家賃を払うより、親元で暮らすほうが安くて合理的なんですね。ニートだの、パラサイトだの言われていますが、むしろ賢いんです。

そこでここからは中野さんと、「日本はみんな孤独になるか?」というお話をしたいと思って。日本には孤独を怖がっている人が、たくさんいますよね。「孤独は、お酒やタバコと同じくらい健康に悪い」みたいな。

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中野信子さん(以下、中野):孤独という言葉には、「寂しい」、「かわいそう」という、ネガティブなイメージがありますよね。でも、人と会うと気を使うし、体力やエネルギーも使います。余計なエネルギーを使わずに、一人で癒やすことが大事なときもあります。

しかしながら、人間関係の中で癒やされる場合も当然あるわけです。ラットの実験では、愛情ホルモンと呼ばれているオキシトシンを投与した個体のほうが傷の治りが早いという研究結果が出ています。おそらく人間においても同じで、また体組織が成長するための役割を果たしているようだとも言われています。

このことから、「誰かと一緒にいることは健康にもいい」と主張している人もいます。ただ、実際にはどちらのエビデンスもある状態で、なかなか結論が出ない。健康のためには、一人が良いのか、多数が良いのか分からないのです。その上、自分はどちらが向いているのか、個体によっても違ってくると思います。

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荒川:例えば、ソロの人は、シェアハウスが嫌いなんですよ。明かりがついていて、暖かくて、にぎやかなところに帰るより、真っ暗で寒くて誰もいないところに帰りたいんです。

だから、おっしゃる通り、向き不向きはあると思います。世間では、「結婚しないと孤独死する」と言われていますが、よくよく考えてみると、今、孤独死しているのは、高齢になって一人暮らしをしている元既婚者ですよね。だから、結婚しても孤独死する可能性があります。

「女は数学が苦手」のウソ

荒川:また、「ソロ活市場」は、“一人で行ける率”にもつながっています。例えば、水族館や動物園、海外旅行などは、女性のほうが一人で行ってるんですよね。一方の男性は、おじさんになると、国内旅行に一人で行きたがるらしいです。

中野:女性の性格とされる資質も、昔に比べてずいぶん変わってきたなと思います。「女性は仲間を求める」という言説がありましたけど、案外そうでもない。

荒川:女性の特性だと言われていたものが、当てはまらないことが多いですよね。

中野:非常に良い傾向だと思います。というのは、みなさん、血液型などで性格診断をしたりしますよね? その診断結果で言われた性格に無意識に寄せちゃう結果、不都合が起きるといった現象のことを「ステレオタイプ脅威」と言うのですが。血液型と性格は相関関係がないと分かっているのに、A型は几帳面、神経質と言われると、自分がそうであると思い込んでしまい、自然とそのように振る舞ってしまうんです。

「ステレオタイプ脅威」は、男女の性別の差についても多々見受けられます。例えば、頭の中で地図を回すことができるかという「メンタルローテーション」のテストをやると、確かに女性は男性よりも平均点が低いんですね。しかしそれは、事前に性別を女性に意識させる操作をしたためであるとされています。女性であることを意識させただけで、本来取れたはずの点数よりも下がってしまうということが分かっているんです。

女性はこういうものだと思わされ、「数学はできてはいけない」、「数学ができたらモテない」などと、いわば自分で自分に呪いをかけるのが「ステレオタイプ脅威」です。でも、昨今のデータを見ると、そんな「ステレオタイプ脅威」から、女性が自由になりつつあるのかなという印象を受けますね。

荒川:逆に、男性のほうが「ステレオタイプ脅威」から抜け切れない感じがします。

中野:そうですね。男性のほうが呪いが深いかもしれません。「女性を守らないといけない」、「女性よりも強くなければならない」という、責任感とか使命感、プライドがあって、なかなか自分を許してあげられないという苦しみがあるのかなと思います。

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「男性脳」も「女性脳」も存在しない

荒川:「女性は直感で選び、男性は理屈で選ぶ」ということも、よく言われていますよね。

中野:本当に迷惑してるんですよ(笑)。「脳科学は、女性脳と男性脳で語れるんでしょ?」と来られてしまう。

例えば私がテレビに出演するときは、ある種サイエンスコミュニケーターのような役割を担っていると思うのですが、盛った言い方をしなければカットされて使ってもらえず、そもそも肝心の内容を伝えてもらえないことがありますから、かなりデフォルメして話している場合も当然あります。だけど、「それは盛り過ぎでしょ!?」と思う内容ばかりが、切り取られてしまったりもして……。

女性脳と男性脳については、「ありません。全部ウソです」と言いたいくらいですね。「ステレオタイプ脅威」に誘導してしまいかねないので、リテラシーが高いとは言えない現状では本当に厳しいと思います。確かに、カロリンスカ*でジェンダーによる差異についての研究を進めている研究者もいるんですよ。けれども、実は、性差よりも個体差のほうが大きいんです。
*スウェーデンのカロリンスカ研究所

例えば、一人の個人に着目した場合、ある女性よりもある男性の方が、一般的な女性よりも女性らしい数値を持っていたり、その逆のこともあるわけです。身長を例にするとより分かりやすいのではないかと思いますが、158cmの男性もいれば、180cmの女性もいる。性別による有意差がないわけではないが、個人差のほうがより重要である。そういう理解が正しいと思いますよ。

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※次回は9月6日(金)公開です。

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