どうせ嫉妬するなら徹底的に!【小島慶子のパイな人生】

どうせ嫉妬するなら徹底的に!【小島慶子のパイな人生】

「「πな人生を生きていく。」」
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恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。

第16回のテーマは「嫉妬」。10代、20代、30代といろんなことに嫉妬しては嫌な気持ちになって「嫉妬してもムダ」と自分に言い聞かせながらも、結局また嫉妬してしまう……。はたして「嫉妬」には終わりがないものなのか? 小島慶子さんに聞いてみました。

これまでで一番嫉妬したのは…?

今回のお題は「嫉妬」。

両方女偏ですからね、見るからに女しかしないものという偏見が込められている感じですが、当然男もするわけで。男性が多い職場で働いていると「僕は優秀な女性にはどんどん活躍してほしいと思っている」という男性の先輩なんかに出会って感激することもあるけど、女性が本気出して成果あげると手のひらを返したように押さえ込みにかかったり足を引っ張ったりする場合もあるので油断なりません。女性だろうが男性だろうが、人の心の動きには大差ないんでしょう。

これまでで一番嫉妬したのっていつだったかなあ。

何しろ最初の恋愛が屈折していたもので、嫉妬を悲しみに変換する妙な習慣がついてしまっているのですよ。最初に付き合ったのは、3歳年上の大学の先輩。失恋したばかりで、しかもその相手というのが私と同じ高校出身の3つ上の超有名な美人の先輩で、みんなの憧れの女性だったんです。

その後釜に座れたのが嬉しいというすでに始まりからして卑屈な初恋だったんだけど、何しろその男が元カノを引きずりまくってて、デートは全部思い出の場所巡りだし、車の中で聴く曲も彼女が好きだった曲だし、初体験の後も、なんと元カノとの初体験の話を聞かされるという……で、初めてというのは恐ろしいもので、恋ってそういうものなのかな、と適応してしまったんですね。だんだん彼氏に感情移入して、私まで元カノのことを若干好きになってしまい、フラれ気分で一緒に泣いたりしてました。アホか!!

なもので、結局その後も、好きになった人に恋人がいても、悲しいけど受け入れる、みたいな心境になりがちでした。いや、嫉妬しますよ、相手のこともネチネチ調べたりしましたよ(当時はネットはなかったけど)。でもどっちかっていうと憑依してしまうのです。彼氏と、その彼女に。二股男に本命彼女のことを色々聞いては、だんだん本命彼女に感情移入して、その彼女を好きな彼にも感情移入して、二人の気持ちを味わいながら幽霊みたいに俯瞰(ふかん)している自分が悲しくて。でもこの悲しみって悪くないんですよね。

恋愛で嫉妬しない体質

人の気持ちはどうにもならないと初めから諦めているからでしょうか。もう、しょうがないよね、好きならさ。しかしだな、思い返せばその手の男はみんな、まあーよく本命彼女のことをペラペラ喋って聞かせやがったな。「お前には本気になるつもりないからよろしく。こっちはあくまで彼女いるんで」という意思表示だったのか、無意識にそうしていたのか、とにかくまあ、浮気する奴ってのは必ず本命の話をしますね。

中には嫉妬させようとして話した奴もいるかもしれないけど、こちとら憑依型なんで、聞けば聞くほどどんどん彼と彼女の気持ちになっちゃう。で、悲しいんだけどそれがちょっと楽しい。だからあんまり相手の女を憎いと思ったことがない。そりゃなんの屈託もなく彼女やってるのは羨ましいし妬ましいけど、なぜかちょっと親しみを感じてしまう。なぜって私の中には、そんな彼女を好きな男の目線がビルトインされてしまっているので。なんなら彼女がもし彼の子どもを出産したら、生まれた赤ん坊を抱かせてもらいたいような気持ちなのですよ。向こうは大迷惑だろうけど。

てな恋愛遍歴なもので、嫉妬に狂って男を追いかけてついには大蛇になりました、的なことはなかった。今の所は。

コツは一度「徹底的に嫉妬すること」

仕事での嫉妬は結構しんどかったなあ。20代の頃は、なんであの子があんなに
評価されるの?とか、どうして私じゃなくてあいつなの?とか。不当だ!!っていう一方的な怒りですごく苦しかった。世間は私を正当に評価していない!そしてあの子を贔屓(ひいき)している!って、全世界を憎んでました。でも堪え性がなくて、疲れちゃうんですよね。莫大なエネルギー使うでしょう、嫉妬って。

3日とか、長くて30日ぐらいすごい集中力で嫉妬すると、火が消えたみたいにふとどうでもよくなっちゃう。ああもう疲れた、しょうがないじゃん、私がどんだけ怒ったところで状況が変わるわけじゃなし、他人の人生を生きることはできないのだから、せいぜいこの冴えない人生をなんとか愉快にするべく考えよう、という気持ちになるのです。コツは、一度徹底的に嫉妬すること。そのことばっかり考えて考えて考え続けると飽きますから、必ず。

我ながら興味深いのは、元カレの成功への嫉妬です。別れた後に仕事がうまくいっているのを人づてに聞いたりすると、すごく面白くない。結婚したとかは割とどうでもよくて、成功しているのが気に食わなかったんです。「私より出世するの許せない」とか思ったりして。でも40代になってから、それよりは戦友を称えるみたいな気持ちが強くなりました。30代までは上昇し続けなくてはみたいな強迫観念があったんですが、40代にもなると健康で穏やかに暮らせればそれでいいとか思いがち。だから白髪の増えた元カレがそれなりに活躍しているのを見ると、おお、お前さんも苦労したんだね、お互いよく頑張っているな……という慰労モードに。

嫉妬は体力を使うから、40代には向いていない?

多分嫉妬って体力を使うから、40代には向いてないんじゃないかと思います。仕事がめちゃくちゃ忙しくて子育ても大変で、嫉妬に振り向けるエナジーがないもの。子供の手が離れた50代くらいから、もしかしたらまた他人に嫉妬する余裕も生まれるのかもしれません。

30前後は一番苦しい時期ですね。30代は、結婚や出産やキャリアで差がつき始めるお年頃。つい人と比べて「自分の方がイケてる」と確認したくなる不安な年代なんです。そんな時は、一回思い切り嫉妬してみてください。日記に書いてもいいし、葉っぱの裏に書いて川に流してもいいから、気持ちを言葉にして、自分の嫉妬心てやつをじっくり観察してみてください。どうせこの先もお付き合いする相手ですから、よく知っておくに越したことはありません。

克服しなくちゃいけないものでもないと思うんですよ、嫉妬心て。上手に同居すればいいんじゃないでしょうか。多分私の憑依癖も、まともに嫉妬する負荷を減らすためのものだと思うし、みんな無意識のうちにうまく他のものに変換して上手に同居しているのだと思います。

そんな嫉妬の隠れ蓑(みの)を時々ぺろっとめくって「みーつけた」ってやるのも、面白いかもしれませんね。

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