「女は35歳からモテる」説は本当か?【小島慶子のパイな人生】

「女は35歳からモテる」説は本当か?【小島慶子のパイな人生】

恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。

第7回は、永遠のテーマ「恋愛」について。人生の経験値が上がり、人を見る目も養われているはずなのに、やっぱり予期せぬ失敗をして傷ついてしまう。そんなウートピ世代の恋愛を受け止めていただきました。

「今37なの?最高じゃん」

37歳のときに、タレントのYOUさんとラジオで共演しました。で、「今37なの? 最高じゃん、上も下もどっちも行けて。素敵な人がいっぱいいるよ」と言われました。YOUさん曰く、35歳からの女は年下にもモテるし上は青天井で、つまり老いには遠く若すぎもせず、恋愛黄金期だと。そういえば、若い頃にプレイボーイで有名だったあるおじいさんも「女は35から52ぐらいまでが最高だ」と言っていました。

まあしかし、それは若い頃からモテていた女性の話だろうな……と他人事のように聞いているうちに45歳になった私。恋なんて、この文春時代に浮かれたことを言っている場合じゃありません。そもそも周りを見てもときめきのかけらも落ちておらず、ウユニ塩湖に枯れ木が一本立っているような風景です。枯れ木って、夫ね。

テレビの仕事で人気の若い役者さんやタレントさんを間近に見る機会もありますが、彼らに関する視覚情報は脳内の異性フォルダではなく息子フォルダに分類されてしまい、「あらーこんな良い子、一体どんなふうに育てたのかしら」とむしろ母親に会いたくなる始末。もはや心が出家したらしいと、粛々と現実を受け入れつつあります。

よく、女は恋してないときれいになれないって言うけど、それほんとかいな?と思います。そりゃあ恋してると機嫌が良くなるから笑顔も多くなって、確かにすてきにはなるでしょうね。けど、恋じゃなくたって猫とか麻雀とか、なんかめちゃくちゃ好きなものがあれば誰だっていい顔にはなりますよね。

異性の視線を気にするから身なりに気をつけてきれいになるという効果もあるでしょう。けど、どっちかっていうと女の仲間の視線の方が研磨効果は高いと思うんですよ。アイラインのテクニックとか服のブランドとか、多くの男性は細かいことわかんないから。

ミスコン荒らしとオヤジ転がしで有名だったある女性が言ってました。「男には化粧もおしゃれも理解できないから、ちょっとダサ目にして奴らの脳内の女子イメージに合わせた方が効率がいいのよ」と。実際、彼女はアイラインをネームペンで引いたりしてました。化粧の習慣がない大多数の男性は、アイラインを識別できないんですね。丁寧にまつげの間を埋め、超絶テクで引いた目尻の跳ね上げも、油性ペンで思い切りまつげの上に引いたひじきみたいな線も、奴らには「なんか目がエロい」でおんなじなんです。なんなら風呂でも落ちないネームペン女子の方が高評価です。

服だって、ボーナス払いで買ったCARVENの新作ワンピースも、通販で買った1万5千円の花柄ドレスも「わー女子っぽくて可愛いなあー」で一括りです。脱がせるときにはどこから開ければ?とか、見てるのはそんなところかも。

ボーダー服は天狗の隠れ蓑?

占い師のゲッターズ飯田さんが「ボーダーを着ている女子はモテない。なぜならボーダーは男にとって女子的要素を一切感じない柄で、つまりは見えていないも同然だから」と言っていました。ボーダー=天狗の隠れ蓑説です。

とにかく男の脳の視覚野に訴える戦略をとるのがモテの早道という、ミスコン荒らし嬢の言葉とも一致する言説ですね。(シマシマ好きの皆さん、安心してください。私は大のボーダー好きで、BORDERS at BALCONYってブランドをよく着てますが、これは隠れ蓑対策がしてあり、ほどよく甘さもあるデザインのためか、打ち合わせでもちゃんと男性スタッフの目に見えているようです。

かと言って、おしゃれリテラシーが高すぎる男というのもいかがなものか。「アイライン、リキッドに変えたんだね」とか「それ2シーズン前のsacaiだよね」とか言われても嫌だし。仕事の会合で2、3度会っただけの男性から「香水変えた?」と言われたときは、警察犬かと思いました。

でも「いい香り!これどこの?」と女性に言われるのはすごく嬉しい。自分のおしゃれをちゃんと読んでもらえたのが嬉しいんです(クルジャンのプルリエルだよ!)。やはり私は女性に読まれたいんですね。その方が楽しいしね、お互い。

まあだから、別に恋をしないでも、楽しく読み合える仲間がいれば、きれいでいたいというモチベーションは十分保てる気がします。

しかし、もちろんそんなメンタル出家をする人ばかりではなく、40代でお金と権力を手に入れて、若い愛人を作る女性もいます。以前、あるパーティーで間違ってそんな集団に紛れ込んでしまい、会話の肉臭に圧倒されて窒息しそうになりました。男性も女性も、パワーが手に入ると、やりたいことは同じなんですね。

愛人自慢を恋と呼ぶのかどうかは賛否が分かれそうだけど、何が羨ましかったって彼女たちの圧倒的な自己肯定感でした。みんな問答無用の神ボディってわけじゃないし、目がくらむような美貌でもない、ごく平均的な見た目です。けど、風圧を感じるほどの自己肯定感に満ち満ちていたんです。お金と権力がそうさせるのでしょうか。それとも人並みはずれた自己肯定感の高さゆえに富と力を手に入れたのでしょうか。全身から生気がみなぎって、私の1000倍は免疫力が高そうでした。今ここにペスト菌がまかれても、発症するのは私だけだろうと思いましたよ。

最近感じた究極のエロス

心の出家をした私は、別の形で欲情するようになったみたいです。

あるエッセイを書いたとき、やたらと赤字を入れる男性編集者が担当でした。これまでご一緒した編集者はわりと皆さん放置プレイでしたので、初めての経験です。

その編集者は、原稿を見ながら細かくああしてはどうかこうしてはどうかと言い、こちらも遠慮して、はあはあと素直に聞き入れているうちに何が書きたかったんだかわからなくなり、ガイドにくっついて樹海に迷い込んでぐーるぐる回ってるみたいな状態になりました。最終的には、そもそも人さまのお目に触れるようなところにうんこのような文章を書いてはいけないのではないかとか、生きているだけで活字に失礼みたいな心境になり、やがてキーボードを叩く音が「死・ね・ば・い・い・の・に」に聞こえるように……。

そこでハッと我に返り、いかな木っ端物書きといえども書きたいことを書けばいいのだと思い直しました。というわけでその編集者は私にとって要注意人物となったわけですが、痛痒いような、マゾっ気を帯びた快楽を感じないでもありませんでした。文章に赤字を入れられるって、挿入ですからね。ついに性器ではなくて脳みそに直に挿入されたい方面に開花したのか、と意外な発見をした次第です。誰かに脳みそを明け渡すって究極のエロスで、極論すれば信仰なんてまさにそうかもしれません。

このままだとどこぞのインチキ教祖に引っかかりそうなので、大いに自戒しようと思いますが、相手と混ざる快楽という点では、肉の交わりも同じこと。だとすると、恋愛に最も近い行為は本を読むことかもしれませんね。著者の深い思考に浸ることだから。あとは音楽。これも脳みそ混ざりますから。自費出版の本とかギターを片手に近づいてくる男には、皆さんも十分ご注意ください。そうそう、やたらと書類に赤字を入れてきやがる先輩にもね。

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