ワコールによる「『CW- X』ランニング&トークイベント by Be a better you For WOMEN」が3月上旬に東京都内で開催され、元陸上競技選手の福士加代子さんと、スポーツドクターで産婦人科医の高尾美穂医師が登場。前編に引き続き、後編では、「月経時にスポーツをする女性への接し方」や参加者から寄せられたお悩みに福士さんと高尾医師が回答しました。
少しでも不安があったら産婦人科へ
高尾美穂医師(以下、高尾):このアンケートの話題に関しては、今、過渡期に入ったと思いたいですね。月経に関することは女性の課題であることに間違いはないのですが、今は「みんなでどうにか解決していこうよ」という時代。何を求めたいかというと「男性にもざっくりと知っておいてもらいたい」ということです。
男性も、ざっくりと女性は調子が悪くなる時期があるということを知っておいていただければ、福士さんのように、監督に「今日は調子が悪いから、理解してほしい」ということを伝えられる。そうなると、「そうか今日は本人が調子悪いと思っているから、自分なりに練習メニューを決めてもらおう」といった方針になっていくこともあるわけです。
とはいえ、いつでも「たくさん走ればタイムが縮むだろう」とか、「筋トレすれば、筋肉がつくだろう」という考えの指導者がいる可能性もまだ高い。それが今、良い方向に変わっているときなのではと思います。
福士加代子さん(以下、福士):うちのチームは言っているほうですね。監督やコーチが選手たちのお父さん世代なので、言いやすいし(笑)、なんでも相談できる関係性があって、なんでも言える感じです。
高尾:プロのアスリートを指導する皆さんに対しては、東京オリンピックまでの6年間に、スポーツドクターである私たちから、結構お話しさせていただきました。だから、競技レベルが高い方たちの指導者は、月経やそれに伴う体調についても知ってくれている時代になっていると思います。一方で、部活レベル、学校スポーツ、そのあたりが残された課題だなと、正直思っています。
福士:私はワコール所属だったので、健康保険組合もあって、定期的に女性の体に関する勉強会もやってもらっていたのは良かったですね。近くに専門家がいたので、生理の周期がおかしいときには相談したりもできましたし。ネットでも答えてくれたりしますよね?
高尾:自分の診断を専門家にして、それに対して答えが返ってくるのであれば、ネットでも、心配ないですが、ネットにあるたくさんの情報から自分が必要とする回答を探しにいくとなると、その方に100%マッチした答えでない可能性もあります。そこだけは、気を付けたほうがいいですね。
福士:体についての悩みだけで、産婦人科に行っても大丈夫なんですか?
高尾:もちろん!
福士:えっ! 妊娠してなくても行っていいんですね?
高尾:もちろんです! とくに生理周期の悩みとか、ホルモンが関わっているような悩みだったら、産婦人科がいいですね。
福士:そうなんですね! じゃあ、これからはもっと気軽に軽い感じで聞きに行きます。
参加者から寄せられたお悩みは?
イベントの終盤では参加者からの質問に福士さんと高尾先生が回答。日々の生活の中で役に立つアトバイスを聞くことができました。
体調がいまいちの日のルーティンは?
【質問1】二人とも元気いっぱいですが、体調がいまいちの日や疲れた日は、どのように過ごしていますか? ゆっくりする日のルーティンを教えてください。
福士:私は朝1回走ったら、あとは、ずっとNetflixざんまいです。雨の日は気分が乗らないので、家にいて身近なことをして過ごすなど、その時の気分で過ごします。以前、メンタルの先生から、仕事で頭を使う人は、ランニングしたり筋トレしたり体を使うと、ストレスが調和されると聞きました。私は体を動かすのが仕事なので、本を読んだりしたり、脳を使うといいのだと思います。
高尾:すごくいいですね。やっぱりバランスですよね。
福士:先生もお忙しいと思いますが、どうされているんですか?
高尾:私は忙しいという感覚がないかな。「ストレスありますか?」と聞かれると正直ないんですね。やらなきゃいけないことがやりたいことになっているから、幸せだと思います。
運動を始めるなら…高尾医師のおすすめは?
【質問2】運動を始める最初の一歩を踏み出すコツと、継続のコツを教えてほしいです。運動イコールきついという思い込みがあるので、楽しみながら続けたいです。
高尾:何か今までにやったことのない種類の運動にチャレンジしたらいいと思いますよ。私がよくすすめるのは、フラダンス、フラメンコ、キックボクシングです。小さい頃みんながやっていない運動だと、大人になってもそんなに差がついてないじゃないですか。だから、ちょっとやる気が出るし、楽しいと思えて続くんです。
あくまでも一般論ですが、男性は、数字や記録を追いかけやすいですが、女性はそれより、そこに行けば誰かに会えたり、みんなで発表会に出たり、その運動にまつわるコミュニケーションが楽しいことが、続けるために大切な場合が多いですよね。
福士:そうですね! 運動というと激しいことをすると思いがちですが、そういう楽しみを見つければいいのかもしれませんね。いいですね、フラダンス! 今度、ぜひチャレンジしたいです!
生理の日に毎回頭痛がするなら、頭痛専門外来の受診を
【質問3】月経4日目から、頭痛が激しくなりました。月経中は運動を控えているから冷えるのかもしれませんが、何か対策があれば教えていただきたいです。
高尾:生理周期に伴って、頭が痛くなる女性は一定数います。今回ご相談された方は生理の終わりかけとのことですが、排卵日あたりと生理が始まる前、その2カ所は、タイミングとして、頭が痛くなる女性がいてもおかしくない時期です。このときはホルモンの変動があり、排卵日はエストロゲンが最も多くなり、生理前はエストロゲンが少なくなっていく。そのホルモンの変動に関連して頭の血管の拡張があるため、月経関連頭痛と呼ばれる頭痛が起こりやすくなります。
そのような痛みに対して、痛み止め薬を試して自分に合うのであれば、それでいいと思いますが、一度、頭痛専門外来に行ってみることもすごく大事。だいたい12カ月のうち10回くらい痛みがあるのであれば、絶対専門家に相談したほうがいいですね。
福士:頭痛専門科というのがあるんですね!
高尾:そうなんですよ。実は、月経時の「おなかが痛い、腰が痛い」には私たち婦人科医はすごく強いんですけれど、「頭が痛い」と言われると婦人科医はちょっと弱くなるんです。なぜなら、頭痛に対してはホルモン治療が若干しにくいんです。まずは、専門家のアドバイスを聞いてホルモン治療ができるかどうか考える。両方から支えることが必要かと思います。
福士:頭痛外来ってどこにでもあるんですか?
高尾:日本頭痛学会(https://www.jhsnet.net)というのがあって、そのHPに専門医の先生が載っているので、お近くで探してみるといいですよ。
初潮を迎える前の女の子に大人が伝えておきたいこと
【質問4】発育期の女の子に対して、ナプキンやタンポンの扱いの伝え方を教えてください。
高尾:生理がくることをどうやって伝えるかということは、社会の中でも課題だと思います。女性にとって、ある日突然、血が出る、という出来事は、めちゃめちゃインパクトのあるショッキングな出来事のはず。その初潮の1年以上前から何が起きるかというと、体つきが丸みを帯びてきます。脂肪量が増えることによる変化で、おっぱいが大きくなって、お尻が大きくなって、くびれが出てくる。そして、脇やおまたに、少し薄い毛が生えてくる、こういった体つきの変化があって、その後に起きるのが初潮ですから、体つきの変化が始まったら、この先、どんなことが起きるのかをあらかじめ伝えることがすごく大事だと思います。繰り返し伝えていけば、初潮がきたとしても「お母さん、これのことを言っていたんだ」となるはずです。
出血というショッキングな出来事の前に、今、体が変わってきているよね、そのあとにこういう事が起きるのよ、という順番を話すことが、すごく大事。そこで本人が興味を持ってくれてから、ナプキンの使い方などを紹介してあげればいい。ファーストブラを選ぶときも、一緒にお店に行って、親の意見だけでなく「プロ(下着の販売員)の意見を聞いてみる?」という流れで促すと、納得して選べ、愛用できるのではないでしょうか。
更年期世代、太りやすくなったと感じたら…
【質問5】更年期になり太りやすくなりました。更年期の女性におすすめの運動や習慣はありますか?
高尾:更年期ですべての女性が太るわけではありません。ただ、更年期世代になると消費量が落ちていくので、そもそも何もしなかったら、筋肉量が減り、基礎代謝も落ちます。食べることによるエネルギー摂取と、動くことによるエネルギー消費の差で、結局太るか痩せるかが決まるので、運動量を増やせばいいですが、そんなに運動できないとなると、食べる量を減らすのが一番いいと思います。夜の食事の後は、そんなに動かないのが一般的ですから、夜の食事を調整すれば、ずいぶん違うと思いますよ。あとは、飲み物の糖分も結構大きいと思います。飲み物を、甘くないものに決めるなどの調整もいいですね。
長年トップアスリートとして活躍されてきた福士さんと、的確かつ愛のあるコメントでメディアに引っ張りだこの高尾医師。満面の笑顔が似合う二人による約1時間のトークショーは、笑いが絶えず熱気を帯びたまま終了しました。
体調やからだは人それぞれ。決して無理をせず、自分のコンディションを周りに伝え、自分らしくいられる環境を整えていく。今回は、運動時の話でしたが、職場や家庭にも共通する内容で、大いに参考になりました。