仕事は順調、それなりに毎日充実もしている。
だけど、「恋愛だけはうまくいかない……」そうお悩みの女子は多いよう。
というわけで、「私たちの恋愛がうまくいかない理由」を独身研究家で『超ソロ社会「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)の著書もある、荒川和久(あらかわ・かずひさ)さんにお聞きするシリーズ。
第3回目は、恋愛と結婚の関係について聞きました。
第1回:独身研究家に聞いた「私たちの恋愛がうまくいかない理由」
第2回:「私たちがデートでつまずくワケ」
「恋愛がしたい」は間違い
——はー。荒川さん、第1回、第2回と「私たちの恋愛がうまくいかない理由」を聞いてきましたが……。結局どういう人を選んだらいいんでしょうか?
荒川和久(以下、荒川):最初の話に戻るんですけど、「そもそも恋愛したいんですか?」って話ですよ。
「パートナーがいないと寂しいから」「パートナーがいないと惨めだから」っていう観点で、「ひとりよりも誰かいたほうがいい!」って思ってませんか?
恋愛は「したい」っていってするもんじゃない、そもそもね。
——ハッ! 恋は落ちるものってことですよね!?
荒川:そう。「恋愛したい」って願望がそもそも間違ってませんか? っていう。
——具体的な相手はいないけど、「恋したーい」「彼氏ほしいー」っていうのは違うってことですか。
荒川:「結婚したい」はね、まだわかるんですよ。結婚は感情の話ではなく、現実の生活の話なので。
——ほう。
荒川:子どもがほしい、家族がほしい、そのためにも安定した生活を確保したい、だからパートナーは経済力のある男じゃないと嫌だ……。そういう「結婚」という「現実の生活」をロジカルに突きつめた上で「こういう男性と結婚したい」というのはすごくよくわかる。でも、「恋愛したい」はわからない。恋愛をしたいとホントに思ってますか? っていう。
——(えええ!)
「恋愛の先に、結婚がある」は幻想です
——いや、ちょっと待ってくださいよ! ここはモノ申させてください。だって、「恋愛の先に、結婚がある」と思いたいじゃないですか。「大好きな人と恋愛して、ゆくゆくは結婚して家族になりたい♡」だから「いいパートナーを見つけたい♡」って思うじゃないですか!
荒川:恋愛の先に結婚があるって思ってること自体が間違いなんじゃないですか。
——え? あ、ハイ?
荒川:恋愛の先に結婚がある人もいるでしょう。恋愛関係を継続した結果、結婚した人もいるでしょう。でもすべてがそうではない。
例えば、1960年代ぐらいまでは、世のカップルはほぼお見合い結婚で結ばれてたわけですよ。昔は「結婚しなさい」って決められて、結婚する時代だった。でも、あの時代の夫婦のほうが、離婚率が低い。
——なぜですか!?
荒川:恋愛の先に結婚があるのではなく、結婚があって、そこから愛を育んでくものという考えだったからです。さっきも言ったように「結婚」というのは現実であり、生活であり、経済共同体なんです。
だから、結婚相手っていうのは、そうした経済共同体を一緒に運営していくパートナーなわけです。その中で芽生えてくる「愛情」というものがあるわけですよ。
——え、ちょっと待ってください。「恋愛結婚は幻想」ってことですか?(困惑)
荒川:というより「恋愛と結婚は別」ということですね。「恋愛の延長線上に結婚がある」という価値観は、日本人の本質ではなくて、非常に西洋的な考えに感化されている気がします。
——でも、20代後半〜30代になると「自然と」結婚を意識する人は多いですよ!?
(いや、そうに違いない……!)
「恋愛」なんて昔はなかった
荒川:多くの人が「そもそもの日本人」というものを勘違いしていると思うんですね。例えば「恋愛」という言葉は明治以降に生まれた造語なんですよ。明治以降に、“LOVE”の翻訳としてできたものであって、そもそも日本に「恋愛」なんて言葉はなかったんです。
——え、じゃあ何だったんですか。
荒川:もちろん、「恋」という言葉や「愛」という言葉は昔からありました。今で言う「恋愛」が意味する好き嫌いの感情も昔からありました。けれど、「恋」と「愛」とは別の概念だったんです。そもそも、“LOVE=ROMANCE”という概念が持ち込まれたのも明治以降ですから、それまでなかったんです。
——え、ロマンチックなこと自体も幻想ってことですか?
(さらに困惑)
荒川:いわゆる「愛」という概念は「愛おしみ、慈しみ」のこと。子どもに対して愛おしんだり慈しんだりする概念なんです。もっと言うと、日本人にとって、小さいものや自分より下のものを可愛がるってことが「愛」だったわけです。
——愛……。
荒川:「恋」は万葉集にも出てきますが、「孤悲」という当て字にも見られるように片思いな感じを意味していました。あと、おもしろいのは、江戸時代でいうところの「恋」というのは「浮気」ってことなんです。
——え? え? え?
(頭が追いつかない)
「恋は浮気」ってどういうこと?
荒川:浮気とは「浮ついた状態における気持ち」を指します。
今のように、パートナーがいるのに他の人にちょっかいを出すのを「浮気」と言うのではなくて、本人の気持ちが浮ついて地に足がついていないフワフワしたことを「浮気」って言っていたんです。だから、恋は浮気なんです。
——恋は浮気!
(なんだか歴史の授業みたいだぞ。)
荒川:例えば、江戸時代、「恋の手本」とされたものに近松門左衛門の「曽根崎心中」があります。実話を元にした町人と遊女の恋物語で、最終的に二人は死んでしまうわけですが、現実的に考えれば二人は決して結ばれない。現実とは「金」や「別の人との結婚」が絡むからです。しかし、二人は恋を貫いた。現実と折り合いをつけず、浮世の気持ちに殉じたから心中しかなかったわけです。恋とはそういうものだったんです。
——恋は実らないのが普通だったんですね……。せ、切ないですねぇ(泣)。
荒川:そう、一方で、江戸の庶民の性意識はかなり奔放で、自由でした。肉体関係になることを恋と定義するなら江戸の人たちは恋の上級者です。ですが、それらはあくまで「いつか覚める夢」という意識があったわけです。だからこそ「浮気」、つまり「浮ついた状態に身をゆだねる」ことが恋であり、まさに受け身の感情だったんですよね。日本人が恋に受け身なのは、今に始まったことではないんです。
そして「結婚」は現実の生活だから、そこに「浮気」、つまり「恋」は必要ない。だから、結婚と恋というのは昔からまったく別物なんです。
——(なんてこったーい!)
恋愛ドラマは疑似浮気?
——じゃ、じゃあ、「恋愛の先に結婚」……って考えてること自体が間違いってことですか!?(泣)
荒川:間違いではないですが、たかだか明治維新後、150年ぐらいの歴史しかない輸入品だということです。何千年ずっと続いていた日本の「愛」とか「恋」とか概念は違っていたということを知っておいてほしいですね。
——でも恋愛の先に結婚があるって思いたい! 希望があるって信じたいじゃないですか!(泣)
荒川:仮にですが、恋(浮気)の状態を現実の生活(結婚)にあてはめると、恋(浮気)の状態がまたどちらかに起こる。そして、破綻する。そう思いませんか?
——(その発想はなかったー!)
荒川:それって結婚じゃなく、ずーっと浮気なんです。だから、恋(浮気)の延長線上に結婚があるって考え方を別に否定しませんが、そもそも不倫や浮気に苦しむ一生を送ることを選択するってことですよ。
——じゃあ私たちはどうしたら……(瀕死)。いずれは好きな人と結婚して、子どももほしい、幸せな家庭を築きたいって思ってる私のようなタイプの人たちは……。
荒川:「恋愛したい」という感情を僕は否定しないけど、結婚とそれとを同一線上で考えるのはちょっと無理があるかもしれませんよ。「結婚したい」じゃなくて「恋愛したい」の?
——だって、恋愛って楽しいじゃないですか。キュンキュンしたいじゃないですか。女性が恋愛ドラマや映画が好きなのは、フィクションの中でもそういったワクワク感が好きだからじゃないですか!
荒川:あれは、「疑似浮気」なんですよ。現実の世界とは違う、それこそ浮世の世界でキュンキュンした感情に浸って、一時の癒やしを味わうっていう。だからそういう意味で言うと、あなたたちは恋はしてると言えますね。恋愛ドラマを見てキュンキュンするのも恋だし、アイドルにワーワーキャーキャー言ってるのも恋ですよ。
で、目の前にいる生身の人間と結婚するってなったら、それはもう恋じゃないから。生活であり、現実だから。それを実現させるのは、日本の法律上、結婚なんですよ。
——(ラブコメ見て楽しんでたのが浮気だったなんて!)
「恋愛していない」状態は苦しいの?
——じゃあ、処方箋をください(泣) 恋愛したいけどできない苦しさ、もどかしさを感じている女性への処方箋を……!
荒川:う~ん…。もし、そこに苦しさを感じている女性がいるとしたら、恋愛していない状態が不幸だと思うのはやめた方がいいと思います。それは、「いい学校に入れば」「いい会社に就職すれば」「いい相手と結婚すれば」幸せが手に入るという間違った思い込みです。幸せとは、個人個人の心の持ちようであって、決して状態に埋まっているものではありません。そういう状態依存から脱却した方がいいですね。
——(間違いない。)
芸能人の「不倫」が流行る理由
荒川:ちなみに現代でいう「浮気」に関して言わせてもらうと、第1回目で、世の中の能動的な2割の男しか恋愛していないって話をしましたよね。
世の中で不倫が流行るって言っても、その2割を超えることは絶対にない。だから、2割の人が、何回も恋してるわけですよ。
——え、2割のギラギラ系が浮気や不倫をしていると?
荒川:能動的な人っていうのは男女ともにモテる人なわけですよ。モテるってことは、容姿とかコミュニケーション能力とか優れてる人たち。そういう人たちの中の、ピラミッドの頂点が「ザ・芸能人」。
だから、芸能界にいる人が浮気や不倫、つまり、能動的な恋多き人が多いっていうのは当たり前なんですよ。それを世間があーだこーだいうのはおかしいでしょ。そもそもそういう人たちなんだから、何の不思議もないわけですよ。
——そっか! 荒川さん、なるほどですねっ☆(なんだか納得☆)
第4回に続く。
(ウートピ編集部・北村なりこ、写真:宇高尚弘/HEADS)