2024年から新NISAがスタート! 正直FPに聞く“神改正”の背景は?

2024年から新NISAがスタート! 正直FPに聞く“神改正”の背景は?

投資で得られた利益に対する税金が非課税になる「NISA(ニーサ)」。2024年からは、新たな少額投資非課税制度「新NISA」がスタートします。非課税枠が年間360万円まで拡大するほか、つみたて投資枠と成長投資枠との併用可能、非課税期間が無期限になるなど、投資する人にとって魅力が格段にアップした“神改正”といわれています。

『日経マネーと正直FPが考え抜いた!迷わない新NISA投資術』(日経BP)では、「新NISA」の活用法を紹介。ファイナンシャル・プランナーの菱田雅生(ひしだ・まさお)さんと「日経マネー」発行人の大口克人(おおぐち・かつひと)さんの2人が、今やるべき投資について分かりやすく解説しています。

そこで今回は、金融・保険商品を一切売らない“正直FP”として知られる菱田さんに、新NISAスタートの背景や資産形成のポイントについて伺いました。前後編。

“神改正”の背景「資産所得倍増計画」とは?

——新NISAは“神改正”といわれていますが、改正の背景を教えてください。

菱田雅生さん(以下、菱田):背景としては、実は20年ぐらい前から、「貯蓄から投資へ」という言葉が使われるようになっていたのですが、実際はそれほど進んでいませんでした。そこで、岸田政権では、「貯蓄から投資へ」を体現する令和版の「所得倍増計画」を打ち出しました。

高度経済成長期の1960年代に、池田勇人首相が行った「所得倍増計画」では、物価も上がっていましたが、給料も2倍以上に増やすことができました。人口もどんどん増えていましたし。しかし、現在は、人口がどんどん減っていく中で、日本経済の規模自体をもっと大きくしていかなければ、所得を倍増させるのは難しいですよね。

そこで、私の想像ですが、令和版の「所得倍増計画」から「資産所得倍増計画」に方針を変えたのではないかと。金融庁の資料にもありますが、ここ20年の間に、アメリカやイギリスでは個人金融資産が2倍~3倍に増えています。日本の場合も、この20年で個人金融資産が2,000兆円超に増えた*のですが、それでも1.4倍程度です。つまり、欧米に比べると、たいして増えてはいません。

その要因の一つが、日本の場合は、個人金融資産2,000兆円のうち半分ほどが預貯金であること。これは、戦後の国民性もあるかもしれません。第二次世界大戦中は、戦費を調達するために、貯金をすることが奨励されていました。「投資よりも貯蓄」が、国にとっても便利だった時代があるんですね。でも、本来ならば、戦後の高度経済成長期で、今以上に「貯蓄から投資へ」を実践して、どんどん投資していたほうがもっと儲かったはずなんです。しかし、貯蓄の割合のほうが高い状態が続き、平成バブル崩壊で株価が下がっていく中で、投資していた人たちは大損してしまった。投資から離れていく人たちが、より増えていきました。

*「資金循環統計(23年1-3月期)~個人金融資産は2043兆円と過去最高を更新したが、家計は資金不足に転じる」

——そういう歴史があるんですね。

菱田:そこで、岸田政権では、個人金融資産2,000兆円の半分を占めている預貯金が、多少なりともマーケットに流れれば、日本経済全体にとってプラスになるのではないかと考えたのでしょう。例えば、株式投資一つとっても、企業に出資するのと同じことですよね。投資先の企業が出資に基づいて伸びていくのであれば、企業が儲かっていく。結果的に、日本経済全体も伸びていって、投資をした一般の人たちにも増配や株価上昇によって、その波及効果が渡っていく。さらに、一般の人たちの給料が上がっていくという流れにもつながるわけです。企業が伸びれば、給料も増えますからね。

ただ、「所得倍増計画」と言われると、「とにかく給料を増やしましょう」という印象があると思います。一方で、「資産所得倍増計画」では、資産の所得を増やしていく。つまり、投資をして、株価が上がったり、配当金や分配金をもらったりすることで、投資した資産から得られる所得を増やそうという考え方なんです。投資先の企業が儲かれば、多くの人たちがその恩恵を受けることができます。そうすることで、日本経済全体をもっと力強く伸ばしていこうという意図があるのではないかと思います。

『日経マネーと正直FPが考え抜いた!迷わない新NISA投資術』より=日経BP提供

新NISAの“神改正”で損する人はいる?

——現在、NISA口座を持っている人は、どのくらいいるのでしょうか?

菱田:今は、NISA口座を持っている人が、日本国民の6人に1人ぐらいです(2023年3月末現在)。ようやく少しずつ増えてきているところですね。これには、見方が2つあって、「6人に1人しか持っていない」とも言えるし、「6人に1人も持っている」とも言えます。でも、NISA口座を開設するのは無料ですし、利益や配当金に対する20%の税金がかからない制度なわけですから。投資をするのであれば、利用したほうがいい仕組みだと思います。そういう意味で、個人的には、まだまだ少ないのかなと感じています。

——2024年からスタートする新NISAで、損することはないのでしょうか?

菱田:今回の“神改正”は、ドラゴンボールで言うと、孫悟空がスーパーサイヤ人になっちゃったレベルなんですよ(笑)。ただ、2024年の“神改正”で損をする人はいます。ズバリ、これからもずっとNISAをやらない人です。でも、やらない人は、やっていないことで損をしていることに気づかないでしょうね。

話を少し広げると、昨年あたりから、物価上昇がどんどん進んでいます。物の値段が上昇しているということは、お金の価値が下がっているということ。また、円安によって、相対的に円の価値が下がっているとも言えます。つまり、見た目にはお金が減っていなくても、減っているのと同じ状態になっている。そこに早く気づいて、お金を守るための運用をしてほしい。資産運用は、お金を増やすためだけでなく、守るためにも重要なんです。

——円高・円安はNISAに関係あるのでしょうか?

菱田:そもそも、NISAとは“箱”のようなものです。NISA口座という“箱”の中に、どんな商品を入れるかという仕組みのこと。だから、NISA口座であるかどうかに関係なく、円高・円安といった為替相場の影響を受けるのは外国の資産です。つまり、外国に投資をした場合は、円安になると価格が上がり、円高になると価格が下がる。あくまで円ベースで考えると、そういう影響を受けます。例えば、1ドル100円のときに円に転換すると100円に、1ドル150円のときに円に転換すると150円になる。外国に投資した1ドルは1ドルなのですが、円安になったほうが、円に転換したときにお金が増えるということになります。

インフレと円安で、実質的&相対的にお金の価値が下がっている

——同書には、今すぐにでもNISAを始めてほしいと書かれていましたが。

菱田:間違いないですね。なぜかというと、今後、資産形成をしていくためには、預貯金だけではますます通用しなくなりそうだからです。その理由は2つあって、1つ目は、インフレ(物価上昇)です。さきほどもお話ししたように、物価が上がった分だけ、お金の価値は下がってしまう。例えば、昨年の物価上昇率は2.5%*だったので、モノの値段が平均して2.5%上がったわけです。しかし、預貯金は少しも増えていません。そうすると、実質的にお金が目減りしたことになるんです。それから、預貯金だけでなく、働いている人たちの給料も増えていないとすると、給料も実質的に減っているということになる。そのため、インフレに備えておく必要があるわけです。

物価がどんどん上がっていった昭和の時代、お金持ちの人たちは、預貯金だけだとインフレで実質的に目減りしてしまうので、預貯金だけではなく、資産を株式や不動産にも分けていました。株式や不動産は、お金よりもモノに近いので、モノの値段が上がっているときはモノを持っていたほうがいいわけです。逆に、お金で持っていると、モノの値段が上がったときに、価値が下がってしまう。そのため、「財産三分法」といって、資産を守るために、預貯金と株式と不動産に分けて資産を持っていたそうです。

今まさに、昭和の時代と同じくらいの物価上昇が起きているので、昔と同じように株式や不動産にも財産を分けたほうがいいと言えます。もちろん、今後、10年、20年と物価上昇が続くかどうか分かりませんが、資産を守るためにも、モノに近いものを持っていたほうがいいと思いますね。

*2020年基準 消費者物価指数 全国 2022年(令和4年)平均

——もう一つの理由は何でしょうか?

菱田:2つ目の理由は、円安です。インフレの場合は、実質的にお金が目減りしていきますが、円安の場合は相対的に円の価値が目減りします。ここ最近でいうと、1年半ほど前は1ドル110円台だったのが、昨年は1ドル150円台になり、一時的に130円台になりましたが、また140円台になり、150円台に近づいている。単純に言っても、1ドル110円台から150円台になるということは、円の価値が相対的に3割~4割下がっているわけです。つまり、円で持っている資産の価値が目減りしているのと同じです。

日本の場合は、自給自足できる国ではないので、さまざまな原材料や製品を外国からの輸入に頼っています。そのため、円安が進めば進むほど、輸入品の値段が上がりますし、原材料価格が上がることで製品価格も上がっていく。さらに、海外旅行の費用も高くなる。逆にいうと、外国の人からすれば、円安で日本に安く行けるし、日本国内の物価も安い。それこそ、今アメリカでラーメンを食べようとすると、2,000円~3,000円もするらしいので、「日本では、たった1,000円で食べられるの?」とビックリしているかもしれませんね。

——インフレと円安に備えることが大事なんですね。

菱田:そうですね。今後も、モノの値段が上がっていく、円の価値が下がっていくという事態に備えておく必要があると思います。持っているお金(現金や預貯金)は見た目には変わりませんが、実際は、そのお金の価値自体が日々変化しているのです。将来のお金の価値の目減りに備える意味でも、投資をしたほうがいいと思いますね。「NISA」という“箱”に入れる分には、儲かったとしても税金がかからないわけですから。例えば、通常は100万円儲かったら約20万円の税金が取られますが、NISAならそれが非課税になる。約20万円の税金を払わなくていいというのは、結構大きいですよね。

——月々10,000円積み立てている人も、金融機関に預貯金として預けるより、NISA口座に入れたほうがいいと。

菱田:かつて定期預金の金利が6%だった時代*には、約12年でお金が2倍に増えました。でも、今のメガバンクの定期預金金利は年0.002%程度ですから、2倍になるまで、なんと3万4658年かかる計算になります(笑)。

*野村アセットマネジメント「お金を育てる研究所」

(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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