キャリア、資格、貯金、語学習得……これらは自分が努力をすれば、なんとか結果は出てくるもの。ノウハウも正解もあるので、途中で苦しくとも立ち上がりゴールに向かって歩く気力も湧いてくる。でも恋愛や結婚となると、どうしていいかわからない。セオリーどおりにするほど、自分の幸せが遠のいたり、自分の幸せを追求すると、迷宮に入り込んだり……気づけば「こんなはずじゃなかった」と不安と後悔に押しつぶされそうになる人も増加中。
ここでは、正解がない時代に、人生の迷路にハマっている人のために、東大卒の恋愛コラムニスト・ジェラシーくるみさんと、人生のプロ・川崎貴子さんが道案内していきます。苦しくて、悲しくて、不安で、どうにもならない人に効く“読む薬”。1回目は「いい子」の呪縛を解く方法、2回目は「恋愛下手」の目からうろこの改善方法。3回目は「パートナー選びの方法」について紹介します。

ジェラシーくるみさん(左)と川崎貴子さん
恋人関係になれないと悩んでいる人に足りないこと
川崎貴子さん(以下、川崎):最近、出会いはあっても、恋愛関係にならない人は多いと感じます。
ジェラシーくるみ(以下・ジェラシー):どっちつかずの状態にというか、「ごはんを食べに行く人(異性)はたくさんいる」という人も目立ちます。その人とは居心地がよく、話も弾むのに、恋愛関係にはならない。
川崎:付き合うとなると、お互いの関係を軌道に乗せるために、いろいろな条件を詰めなくてはいけないという問題も関わっているような気がするんですよ。20代半ばころまでの情熱と勢いは消えて、アラサー期になると結婚を想定した価値観と日常のすり合わせになるから。それに、魅力的な人は結婚しているし、皆がいいと思うシングルの人には、ライバルがたくさんいる。
ジェラシー:そうなんですよね。ここでは女性に向けてアドバイスをします。魅力的な男性と付き合うには、相手に献身して、自己犠牲して……と言うのは絶対にダメ。
「あなた以外にも遊ぶ人はおり、友達関係も趣味も仕事も忙しい。決して暇ではない私が、あなたと一緒にいる」というスタンスを貫くことが重要なんです。
川崎:そのスタンスはとても重要。「あなたのためなら何でもする」という匂いがしたら途端にパワーバランスが崩れますからね。では、例えば女性から「あなたと付き合いたい」と告白し、交際が始まった後は、どうすればいいのでしょう?
ジェラシー:まずはフラットにお互いの将来観を話し合うことだと思うんです。例えば「これから私は結婚を考えています。もちろん仕事は続けたいです。〇歳には子どもがほしいな〜とイメージしていますが、あなたは何か将来のイメージはある?」というように。論理立てて話すと、男性は耳を傾けると思いますよ。
川崎:そうですよね。「なんとなく」とか「そういう気分」というフワッとした内容よりも、理路整然とした話のほうが頭に入ってくる男性は多い。女性も、感情をいったん排除して相手との人生のスケジューリングができるのはいいですね。
ジェラシー:私の知人の男性の話です。彼はまだ結婚を遠い将来のことと考えていたにも関わらず、彼女から「妊娠した」と言われたんです。彼は感情的に話されるのかと身構えていたら、彼女は「話し合いをしよう」と切り出し、今の自分の状態、不安とその解決方法、これからどうしたいか、そこにあなたが必要で、どのように関わってほしいかを淡々と話したのだそうです。
その結果、知人は彼女のことを自分の奥さん・子どもの母親として本気で考えるようになりました。「感情的だと思っていたけれど、とても頭がよくて、対等に話せる子だ」と尊敬の念さえ芽生えたそうです。二人はすぐに結婚し、その後、本当にいい家庭を築いているんですよ。恋人関係になれないと悩んでいる人は、ちょっぴり真面目なトーンでの理知的なディスカッションを試みるといいかもしれません。
「女社長」「東大卒」と言った瞬間に空気が変わる
川崎:アラサーからの恋愛は結婚につながるケースも多いから、尊敬の念は必須。何度も繰り返しているけれど、対等な関係を築いていないと難しい。でも、人の差別意識は根深いし、自覚しにくいもの。私も起業した当時は「女社長!?」と驚かれ、「パトロンは誰ですか?」「資本金はいくらですか?」などとその場での序列を決めるような質問をされたものです。結局、そんな質問を一切してこなかった夫と結婚しました。
ジェラシー:違和感に敏感になることは大切です。私の場合は学歴で、「東大卒」だと知られると、場の雰囲気が変わる。
そんな私自身も、かつて先輩社員に対し、無自覚に「結婚せず、プライベートを犠牲にしているからあの人はキャリアを極められるんだ」などと思っていました。
話を戻すと、相手と対等という意識は大切。「私を雑に扱ったら、即別れる」くらいは伝えたほうがいいと思います。なぜなら、恋愛関係において、自分に好意の矢印が向いたら、相手をないがしろにする傾向はあるから。「私を雑に扱うな!」という気概は持っていたほうがいいですよ。
「SとMの使い分け」うまく行っているカップルの共通点
川崎:恋愛は勝ち負けではないけれど、全ての人間関係において「なめられたら駄目」ですね。
ジェラシー:「あなたが浮気をしたら、私も浮気をするよ」「あなたが風俗に行くんだったら、私も東京秘密基地(女性向け風俗)を利用する」などを最初の段階で言っておく。本当にそうするかどうかは、別の話ですが。
川崎:先に釘(くぎ)をさしておくことは大切ですね。これは、今後の長い結婚生活を快適に過ごすための必須事項ですね。
編集部:とはいえ、強い女性ばかりではありません。「男性から守られたい。リードされたい」と思う人もいます。
ジェラシー:人間としての強さとは別問題なんですよ。「かわいくて、リードされる私」でいいんです。それは、言ってしまえばプレイなのですから。大切なのは基本が対等であること。よく、S(人をリードする)とM(受け身でついていく)と分類されますが、私の知る限り、多くの人はM。相手に任せたほうが圧倒的に楽ですから。
川崎:いい関係が続いているカップルは、このSとMの役割分担がフレキシブル。家事は妻がSで、人生プランは妻がS、子どもの進学も妻がSで、休日のキャンプの準備は夫がSというように、得意なことを相手に任せきりにしています。
ジェラシー:それでSはMがいい働きをすると、よく褒める。「こんなに部屋がきれいになって快適。よくやったね」とか、「このキャンプ飯、最高!天才じゃん!」とか。Mの献身は、Sのほめ言葉で報われる。SとMがリバースする関係は、うまくいっていますね。
川崎:子育てが始まると、このSMリバース関係は真価を発揮する。タスクが膨大になるので、得意なほうがイニシアチブを取って行動できるから。
幸福とは、可能性を削ぎ落としていくこと
川崎:ジェラシーさんは、新刊『そろそろいい歳というけれど』(主婦の友社)には、卵子凍結にも踏み込んでいました。凍結保存をしている人は多いのですか?
ジェラシー:30代前半までの卵子のほうが、将来妊娠を望んだときに受精卵になり、着床の可能性が高まることが知られるようになり、パートナーがいる人の中には、凍結保存している人もいます。
ただ、採卵や保管料は高額ですし、凍結した卵子が別のクリニックに運べるかどうかなど、不透明な部分も多いので、見送っている人も多いです。それに、出産や育児には、女性にかなりの負荷がかかる。キャリアを優先するために、産まないと決めている人もいます。
もちろん、20代のうちに産んでいる人も少なくありません。
一番しんどいのは、今は仕事にも振れないし、子どもが欲しいかもわからない。でもいつか産みたくなるかもしれないというどっちつかずの状態です。
川崎:それはつらいですね。「いつかは、いつ来るのか」問題。それで、40代になってから、本格的な不妊治療に取り組んでも、なかなか結果が出ない。生殖医療が進み、保険適用の範囲が広がったとはいえ、妊娠には未知な部分が大きい。
編集部:そのときに「卵子や受精卵の凍結保存をしておけばよかった」と思っても、時すでに遅しなんですよね。
ジェラシー:卵子凍結まで踏み切れなくとも、少なくとも、自分の体質(子どもができやすいか・できにくいか等)は検査で知っておいたほうがいいと思います。
川崎:今、アラフィフになって周囲を見渡してみると、子どもを産もうが産むまいが、人は幸せに生きていくと感じます。
ジェラシー:なるほど。幸福とは、親の愛や相手への期待、結婚するかどうか、子どもを持つか・持たないかも含めて、可能性を削ぎ落としていくことだと感じました。
私自身も、昼夜問わず仕事をしてバリバリ稼ぐという可能性を遠くにやってから、とても楽になりました。友人たちとの時間もでき、健康的な生活ができています。
編集部:「何を手に入れたか」より「何を手放したか」のほうが重要なんですね。
川崎:たくさんの正解が提示されていても、自分の幸せに結びついていないなら、本当の正解ではないんですよ。結婚相手も、自分自身も、仕事も、子どもも……削ぎ落としていくから、身軽になり生きることも楽になる。
ジェラシー:将来の理想に向けてがんばるよりも、最低ラインを決めたほうが考えやすいかもしれません。「今のこの仕事だけは続けなきゃ」とか「この人を大切にして関係を維持しよう」とかとか。
川崎:すごい説得力に鳥肌が立ちます。私から上の世代は、より稼いで上に上がると幸せになれると信じ込まされていた。車、家、お金……たくさんのモノを持つほうが幸福だったんです。今はおしゃれ上級者の「引き算の美学」の世界。
ジェラシー:だから、友達をうらやましいと思ったり、嫉妬したりする感情は捨てたほうがいいです。新刊で「あちら側」と「こちら側」について書きましたが、分断しないほうが絶対に幸せなんですよ。
川崎:そうですよ。私の80代の母を見ていると、子どもを産もうが、独身だろうが、キャリアを極めようが、みんな等しく“独身のおばあちゃん”なんです。
つまり、分断が全くなくなっており、サプリメントや健康情報を教え合い、助け合いながら、日々を楽しく暮らしている。
ジェラシー:そうですよね。その姿を見たら、今の悩みがばかばかしくなる(笑)。
川崎:結婚したり、子どもを産んだ友達には、「今は会いにくいかもしれないけれど、時間がたって落ち着いたらまた会おうね」という感覚を持つといいかも。この健やかな精神性こそ、幸福の源泉かもしれませんね。
ジェラシー:ですね! 最後はみんな、おばあちゃんになっていくのですから。
(構成・執筆:前川亜紀)
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