コラムニストのジェーン・スーさんが会いたい人と会って対談する企画。今回のゲストは、能町みね子さんと「夫婦(仮)」として共同生活を送り、最近は『私みたいな者に飼われて猫は幸せなんだろうか?』(著:能町みね子、写真:サムソン高橋)も上梓したゲイライターのサムソン高橋さんです。全3回。
「結婚しないと一人前じゃない」という呪い
ジェーン・スーさん(以下、スー):時代が変わったと前回おっしゃってましたが、体感として何が変わりましたか?
サムソン高橋さん(以下、サムソン):『弟の夫』とか描いてる漫画家の田亀源五郎さんが女装家のブルボンヌさんと話をしてまして。ブルボンヌさんが、田亀さんの『僕らの色彩』がとてもいいと。若い子に向けてすごく優しい目線で描いていると言ったら、今57歳くらいなのかな、田亀さんいわく、自分が若かった頃、上の世代のゲイが本当にひどかったって。どうひどいかというと、結婚して子供がいて、表では立派な身なりで立派な仕事でお金も稼いでいるゲイが若い田亀さんに「ゲイ漫画家なんてやっちゃいけない」とか、「ちゃんと結婚して子供をつくりなさい」とか説教してきたって。
スー:それは残酷ですね。若い女がかけられる呪いと一緒じゃん。
サムソン:そういう年上のゲイを見てきたから、田亀さんは若い子に呪いをかけたくないって話してました。
僕自身老け専で20代の頃に40歳くらいの人と付き合っていたけど、たしかに今還暦超えたあたりのゲイはほぼ結婚してましたね。ちょうど僕くらいの、50から下くらいが結婚しなくてもやっていけるようになった感じがあります。
スー:男も女も、性指向に関わらず、結婚しないと一人前の大人として社会で認められない時代がたしかにありました。地域によってはまだあるし。その後、「非婚時代」が来て、今は「同性婚」を俎上(そじょう)に乗せるところまで来てます。
サムソン:今から考えたら、社会的には立派な既婚のゲイの人は不幸だったと思うんですよね。自分を正当化したいために、若い子に呪いをかけるという。
スー:子供のために自分のやりたいことを諦めてきた親が子供に呪いをかけるのと一緒ですね。同じ呪いがゲイのあいだにもあった。
サムソン:私くらいの世代から会社とかなくてもフリーで生きていけるようにもなって。そうなると、私たちが一人ぼっちで老後と対峙(たいじ)しないといけない最初の世代ですよ。同年代のゲイと話すと話題は老化と親の介護ばかり。
スー:独身女と同じです。直面している問題は独身の男も女も同じ。
サムソン:一寸先は闇よ。10年前と比べたら、なんで自分はここに来たのって思うこと、スーはない?
スー:ありますよ。どうしてこうなった?って。私の場合、最初に本を出した時はアラフォーで、今アラフィフですけど、「未婚」という冠がついたニュータイプのように見られたので最初の5年くらいはそれでご飯が食べられました。でもそうやってニュータイプのフィギュアのように見られてしまうことにも違和感を覚えるので、今はそこからなるべく外れていこうとしてます。