アナ雪、#MeTooを経てラブコメはどう変わった? 新しいラブコメのかたち

アナ雪、#MeTooを経てラブコメはどう変わった? 新しいラブコメのかたち

コラムニストのジェーン・スーさんと、音楽ジャーナリストの高橋芳朗(たかはし・よしあき)さんによる対談エッセイ集『新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない』(ポプラ社)が、12月8日に発売されました。

ラブコメをこよなく愛する2人が、12のテーマごとにおすすめの映画を語り尽くした対談エッセイ集。恋愛や結婚、キャリア、年齢、ジェンダー、家族などの視点から34本のラブコメ映画を掘り下げています。

ジェーン・スーさんと高橋さんに最近のラブコメを巡る状況やラブコメ映画の見方について伺いました。

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トレーラーを見てから読むと楽しめる

——『キューティ・ブロンド』や『プラダを着た悪魔』など、多くの人が一度は見たことがあるであろう有名な作品も、この本を読んで「こういう見方もできるんだ」と発見がたくさんあって面白かったです。

高橋芳朗さん(以下、高橋):やっぱり、本数を見ているからこそ話せることがいっぱいあると思います。

ジェーン・スーさん(以下、スー):ゾンビ映画とかホラー映画もそうだと思うんですが、ジャンル映画って本数を多く見ていると見方が変わってくると思うんです。でも、ラブコメって、なぜかないがしろにされがち。もちろん、男性でもラブコメが好きな人はたくさんいるんですけど、なんとなく“女子供のもの”と思われているきらいがある。女性でも、「恋愛至上主義が馬鹿馬鹿しいからラブコメは見ない」という方もいますし。

高橋:そもそも、ラブコメ映画が真っ当に批評される機会自体少ないんですよね。ジャンルとして軽視されているところは確実にあるのではないかと。

スー:でも、物語の構造なんかを理解するにはこれほど明快なものはないと思います。

——34本ものラブコメを紹介されていますが、この本のおすすめの使い方はありますか?

スー:自分が見ていない映画だったら、必ずトレーラーを先に見てほしい。そうしないと、「主人公が~」って言われても、どんな映画なのか全然分からないと思うので。まずは、公式の予告編を見て、それからこの本を読んで、本編を見て、またもう一回本を読むとかなり楽しめるかなと思います。

——同書は『GQ JAPAN』と『WEB UOMO』のウェブ連載がもとになっています。取り上げる作品はどんなふうに選んでいったのですか?

高橋:お互いずっとラブコメ映画を定点観測で追い続けてはいるんですけど、詳細を覚えていないものも多くて。ぼんやりと良い印象を抱いていた作品でも、改めて見返してみると「あれ? こんな感じだったっけ……」と愕然(がくぜん)とすることが結構頻繁にありました。

僕らはジャンル映画としてラブコメを愛しているから文句を言いつつも基本なんでも楽しめちゃうんですけど、広くおすすめできる作品となると話は変わってきますよね。先ほどもお話ししたようにただでさえ軽んじられている風潮があるジャンルなので、作品の選定は慎重に行いました。せっかくの機会ですし「やっぱりラブコメ映画はつまならない!」なんてことになったら逆効果なので。

スー:改めて見返してみると、「これで喜んでた自分にゾッとする」っていう作品もあったし。この本にも載せましたけど、『プリティ・ウーマン』なんかはそうですよね。それと、見たんだけど対談すらできなかった『メリーに首ったけ』とか。

高橋:ファレリー兄弟が撮った一連のラブコメディはいま見ると厳しいものが多かったですね。

スー:『メリーに首ったけ』は、「批評的に見るというより、全部悪口になっちゃうからやめよう」って言って、対談すらしなかったんですよね。あとは、『40歳の童貞男』なんかも、ホモソーシャルの描き方が本当に醜悪で……。当時は笑って見てたけど、私たちの意識もアップデートされているから、今見返してみると「何も面白いことないな」って。でも、そういう作品もちゃんと見たほうがいいとは思いますけどね。

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#MeTooとの関係は? ラブコメが少なくなった理由

——最近は、ラブコメ自体が減っているような気がします。

高橋:リアリティ路線を推し進めた『セックス・アンド・ザ・シティ』がひとつの臨界点を示したのではないかと考えています。『セックス・アンド・ザ・シティ』のドラマシリーズは2004年に完結していますが、映画版が公開された2008年ごろを契機にラブコメ映画は減少の一途をたどっているんですよね。

スー:確かに(笑)。

高橋:劇場でラブコメ映画がかかること自体貴重になってきました。現状では年に数本あるかどうかですよね。

スー:「恋愛して好きな人に選ばれることが女の子の幸せ」みたいなことが、世の中の流れで「そうじゃないでしょ?」と変わってきてるのが大きいですね。そのあとに出てきたラブコメにはそれ以外のことをテーマにしたバリエーションもあるんですけど、まだまだ数が少ないのが現状です。

高橋:2013年には旧来型のプリンセスストーリーを覆した『アナと雪の女王』が公開されていますが、そういう時代の中でラブコメ映画が果たす役割を模索していたのがこの10年だと思っていて。それが近年の#MeTooやボディポジティブといったムーブメントの台頭でようやく語るべきテーマが明確になってきたと。

スー:ラブコメのフォーマットを使って、『軽い男じゃないのよ』みたいに社会問題を浮かび上がらせる方法もあるし、『プラダを着た悪魔』みたいにお仕事ムービーをラブコメ的な見方で鑑賞することもできる。フォーマットを知ると、物の見方のバリエーションが増えますよね。

高橋:ここ10年で減少傾向にあったのは学園映画も同様なんですけど、最近になって『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)や『ハーフ・オブ・イット』(2010年)のような時代に即したエポックな作品が登場しています。ラブコメ映画も近い将来に決定的な一本が現れるかもしれませんね。

必ずしも「王子様と結ばれる」ことがゴールじゃない

——この本にも取り上げられている『ロマンティックじゃない?』(2019年)や『アイ・フィール・プリティ!』(2018年)は、新しい時代のラブコメだと感じました。

高橋:ボディポジティブやセルフラブを題材にした『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』、ラブコメをメタ視点から捉えた『ロマンティックじゃない?』。とちらも完全に新しい潮流のラブコメディですよね。

スー:『サムワン・グレート』(2019年)もそうですよね。あれはラブコメなのかっていう問いもあると思うし。

高橋:『アイ・フィール・プリティ!』のラストにも示唆されていますが、必ずしも恋愛の成就がゴールではないんですよね。シスターフッドやセルフラブが同列、もしくはそれ以上に優先されていたりする。ちょっと矛盾しているようですが、それが新しいラブコメディのかたちなのだと思います。

——最近よく言われている「若者の恋愛離れ」にも関係があるのでしょうか?

スー:それもあるでしょうね。ただ、「恋愛離れ」って言うけど、あんなに出会い系アプリが盛んなのに? 「どこに光が当たってるか?」だけなんじゃないかな。昔ほど、「恋愛しなくちゃいけない」という煽(あお)られ方をしなくなっただけで、「昔から恋愛に興味がない人はいたんじゃないの?」という気はしますけどね。

ラブコメにどっぷりつかりたい…おすすめの見方は?

——年末年始のお休みは終わってしまいましたが、休みの日やまとまった時間があるときにおすすめのラブコメはありますか?

スー:1本ずつ見るのではなくて、セットで見てほしいですね。例えば、『ロング・ショット』『ロマンティックじゃない?』『プリティ・ウーマン』の3本を一気見すると、透けて見えてくるものがある。あとは、『プラダを着た悪魔』と『恋とニュースのつくり方』は、同じスタッフが作っています。ほかには、監督を選んで見るとか。

好きな映画を1本見て、「楽しかったね」で終わるのもいいんですけど、ちょっと考えたり、「なるほど」っていう気づきが欲しいのであれば、今言ったような流れで見るのがおすすめかな。

高橋:まず『プリティ・ウーマン』を見たうえで、次にそのカウンターとして登場した『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』を。そして仕上げにラブコメをメタ視点で描いた『ロマンティックじゃない?』。現行のラブコメ入門としては最適の3本だと思います。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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