猫は忖度しない、だから「まる」がいい。養老孟司さんがコロナ禍で考えたこと

猫は忖度しない、だから「まる」がいい。養老孟司さんがコロナ禍で考えたこと

解剖学者の養老孟司(ようろう・たけし)さんによる『ヒトの壁』(新潮社)が2021年末に発売されました。

養老さんと言えば、2003年に刊行された『バカの壁』(新潮社)がその年の流行語に選ばれるほどのベストセラーに。『死の壁』『超バカの壁』などの“壁”シリーズは累計発行部数670万部を突破しました。

コロナ禍で誰もが意識せざるを得なかった「私たちはヒトである」という事実。自身の入院、愛猫・まるとの別れに直面した養老さんが思索したことは? 養老さんにお話を伺いました。

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「きれい」「役に立つ」は疲れる

——まだまだコロナは収まる気配はないですが、コロナ禍で変化したことはありますか?

養老孟司さん(以下、養老):よく聞かれるんですけど、あまりないんですよ。コロナよりも自分が入院したことと猫が死んだほうが自分にとっては大事件で。入院はね、嫌いなんですけどしょうがないからしました。ちょうど新型コロナウイルスに翻弄されはじめた2020年の6月末に、どうも体調が悪いので検査のために東大病院に行ったら心筋梗塞という診断で。即入院でした。

——病院がお嫌いといろいろなところで書かれていますが……。

養老:好きな人はいないでしょう(笑)。まあ文句があるとすれば病室がきれいすぎるんですよね。ピカピカの部屋にこんなひなびた老人が入っているというのは合わないじゃないですか。病院に限らず、僕は新築のホテルみたいな新しい建物が嫌いなんです。きれいすぎて疲れるでしょう。贅沢を言うと、自分と同じで古ぼけたような、年季の入った建物が居心地がいいですね。

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——世の中を見渡すときれいなものばかりですね。本でも「都会には人工物しかなくなってしまう」「意味のあるものだけに囲まれているのはむしろ不自然」と書かれていました。

養老:きれいなものや役に立つものばかりは疲れるんですよね。

——役に立つものは疲れにつながるんですか?

養老:それはそうですよ。自分に返ってきますから。「俺、何の役に立っているんだろう?」って。だから猫の「まる」がいいんです。なんの役にも立たないけど、ごろーんと寝ているから、安心するんです。

——まるちゃんが亡くなってから1年くらいでしょうか。

養老:まるを見ていて、こういうふうに暮らせないかなとずっと思っていました。大体猫は人に気を使わないでしょう? 猫は忖度(そんたく)しませんから。そして勝手に自分で居心地のいいところを探して、そこに行って寝ていますから。そういう意味では本当に邪魔にならない。この季節(12月)だと、まるはひなたに出ると暑いから、木漏れ日が適当に当たるぐらいのところに行ってじっとしていますね。猫にしては珍しく寒がらない猫だったんです。こちらは、猫は寒がりという頭がありましたけど、あいつは布団に入ってきたこともないです。上に乗って寝ていることはあったけれど、あれに乗られると重い。いちばん重いときは7キロくらいあったんだから(笑)。

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「人ならわかんないはずがないだろう」とどこかで思っている

——コロナ禍で人に会わなくなって人間関係の悩みは少しは減るのかなと思ったのですが、そうでもないのかなと個人的に思いました。

養老:坂口恭平*というのがいてね。彼がね、『躁鬱大学』(新潮社)という本の中で、人生の悩みは基本的に「他人が自分をどう思うか」に尽きると書いていた。僕の場合は幸い、そういうのはあまりないですね。正直にぶつかれば解決しないはずがないとどこかで思っている。およそ楽天的ですね。それでも解決しないのは相手が変だと思うようにすればいい。

*作家、建築家、音楽家。自らの携帯電話番号を公開して自殺願望を持つ人の相談に乗る「いのっちの電話」相談員を務めている。

——それは、養老さんが「世界」を信頼しているということですか?

養老:そうですね、根本的には人を信頼している。人ならわかんないはずがないだろう、と。でもまあ、日本という社会はストレスの強い社会ですね。そんなふうにずっと思ってきたから僕は本を書くんです。なんとか本を書くことで解消しようとするんだけれど、ただブツブツとこぼしているだけです。

——今回の本もそうですか?

養老:もうちょっとこぼせばよかったかな(笑)。やっぱり人の悪口が言えるぐらいまで考えないとすっきりしませんね。

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「虫」というまとめ方は乱暴

——最近、「多様性」という言葉をいろいろな場面で耳にしますが、養老さんは多様性についてどんなふうに考えますか?

養老:いつも言うんだけど、多様性は感覚の問題で、理屈の問題じゃない。僕は虫をやっていますから、ひとつの虫を見て「何の仲間だ」っていうぐらいわかりますけどなにしろ、その中にいろいろ種類があるんです。そういうことを普通気がつかないで「多様性」と言っているでしょう。だいたい「虫」というまとめ方がめちゃめちゃ乱暴です。なにせ、多く数える人は全世界で昆虫だけで3000万種いるって言っています。3000万種の多様な虫たちを一言に変換しちゃうのが現代人ですよね。感覚を忘れて抽象的な世界に生きていると言葉にしたら終わってしまう。多様性ってことは、その意味では、自己矛盾ですかね。いろんな生き物がいるよ、ということを一つの言葉にしているんだから。それに違和感のない人は、多様性を感じていない人だと思います。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)

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