『息をするように』インタビュー・後編

自分も他人も分かりやすい枠に閉じ込めたくない…伊藤万理華を少年役に抜擢した理由

自分も他人も分かりやすい枠に閉じ込めたくない…伊藤万理華を少年役に抜擢した理由

乃木坂46の元メンバーで俳優の伊藤万理華さんが主演を務める短編映画『息をするように』が9月18日に公開されました。シンガーソングライターのKarin.さんの曲に合わせて製作された本作。主演の伊藤さんは少年役に挑戦しています。

両親の離婚をきっかけに東京から田舎の学校に転校してきた主人公のアキ。自分には「何もない」と自身のアイデンティティに悩み、学校でも息を潜めるように生活を送ります。そんな中、転校先の学校の人気者・キイタとの出会いにより、明るい自分を取り戻していきます。しかし、キイタの「特別さ」と「何もない」自分との間にむなしさを感じたアキは、再び自分の殻に閉じこもろうとしますが、アキにもある秘密が……。作品の好評を受け、10月以降からの公開劇場も増え続けています。

後編では、監督の枝優花(えだ・ゆうか)さん(27)が本作に込めたメッセージをお聞きしました。

枝優花監督

枝優花監督

「アイドルっぽくない」伊藤万理華に惹かれた

——前編では、枝さんの作品作りのルーツについて伺いました。続いて、新作『息をするように』の製作のきっかけをお聞かせください。

枝優花さん(以下、枝):最初は、Karin.さん側から「この曲を使って何か作ってほしい」というオファーをいただいて始まりました。短編映画とMVを作るということになり、両方を一緒に考えていくのは初めての取り組みでした。主演が伊藤万理華さんということももともと決まっていたので、その中で自分がどんな役割を果たせるのかなと考えながらの挑戦でした。

——伊藤さんの主演はもともと決まっていたのですね。伊藤さんは少年役ということで新鮮な役柄でしたが、どんなふうに脚本を作っていきましたか。

枝:実はずっと伊藤さんを撮ってみたくて、オファーを受けたのも伊藤さんの存在は大きかったです。アイドルから離れた彼女がやっているSNSをのぞいた時に、私が勝手に描いていたイメージとずいぶん違ったんですよね。かわいい写真も載せないし、顔が見えないようなブレた画像を上げていたり、髪もものすごくショートカットにして。きっと無意識じゃなくて伊藤さんの意思表示なんだろうなって感じて、この人面白いなって思いました。伊藤さんとだったら、今まで自分が疑問に思っていたことも表現できるかもなと思って少年役にしました。

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明日、自分の新しい一面に気づくかもしれない

——自分が疑問に思っていたことというのは?

枝:私は、女性同士だったり男性同士の組み合わせの物語を作ることが多いので、「あの2人は恋愛関係なのか?」とよく聞かれるんです。きっとこの作品を見ても、アキは男性なのか、それとも男性の格好をした女性なのか、キイタに恋愛感情を抱いているのか、などと知りたがる人もいるかもしれません。何かを知りたがることはおかしいことではないです。でも、なぜそこに興味を持つのか、物語の内容よりも性的指向や性自認を1番聞きたくなってしまうのか。そういった疑問があり、この問いを見た方々がどう捉えるのか知りたかったです。

特に、今の時代はアイデンティティに名前をつけて、他の人のことも決めたがる風潮が強いと感じています。「私は異性愛者で、あの人は同性愛者だ」とか。そしてそれを表明してやっと周りに理解されて、「自分」が成立する。でも、そんなの明日になったら分からないと思って。もしかしたら明日、衝撃的な出会いがあって、自分の新しい一面に気づいたりするかもしれない。勝手に予測して、決められた枠に無理に自分や他人を押し込めて、安心するのはどうなんだろう? という気持ちも込めて、ああいう配役にしました。

——作中で印象的な「分からない」というキーワードともつながりますね。

枝:そうですね、分からなくてもいいと思うし、分からないから歩み寄ってみればいいのだと思います。決めつけたり、分からないことを許せないのは、自分の首を絞めることにもなるんじゃないかって。いつまでたっても、自分のことだって100%分かるのは難しいと思っています。

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いっぱい練習して「普通」の服を着るようになった

——アキが「自分は普通でいられるだろうか」と問う場面があります。とても印象的なシーンでしたが、あのシーンに込めたものがあれば教えてください。

枝:小学校に入った時に、「常識」に触れてびっくりしてしまったんですよね。ほんの些細(ささい)なことでも、みんなができることができないと浮いてしまう、と思って焦りました。だからいっぱい練習して「普通」という名の服を着るようになりました。そうすると周りになじめてホッとする。

最初はみんな裸の時期があって、その中で誰かに怒られたり、傷ついたり傷つけられたりしながら、自分を守るために服を着ていくのだと思います。きっと10代の頃って「普通」という名の服をどのように着こなすのか、この服はダサいのかかっこいいのかとか、葛藤する時期だと思います。

私自身も、脚本書いているときは極力、「普通」や常識を纏(まと)わないようにしていますが、現場の打ち合わせをするとなると、「普通」もできないとなんですよね。慌てて、まともな人を演じますが、世にある「普通」のパターンがあまりにも少ないんじゃないかなとも思います。だから、窮屈に感じたり、着ていられない人もいますよね。

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人には人の地獄がある

——もう1人の登場人物、キイタは人気者ですが、隠れた暗い一面もありますね。

枝:今の時代は特に、SNSの発達もあって、人の表面ばかりにスポットライトが当たりがちです。私もですが、投稿をする本人も自覚があるので、裏側は見せませんよね。そして、ついつい見ている側としては、表だけを信じてしまいがちだと思います。

でも、その人にはその人の地獄があると思うんですよね。みんなの前では明るくても家に帰ったらものすごく暗い状況があったり、そんな人も少なくはないと思います。うれしいこととか、楽しいことのほうが共感しやすくて、苦しいことや痛いことって共感は難しい。互いの痛みが分からない中でも、どうにか知ろうとしていく部分を描きたかったので、ああいう設定にしました。

——2018年に公開された、『少女邂逅』も思い出しました。

枝:そうですね、きっと私が作るものに共通したテーマだと思います。自分からはすごくすてきに見えるけれど、その人にとっては見えない苦しみがあったり、そんな部分を物語として描きたいなと思っています。

「隣の芝生」ではないですが、表面だけ見てうらやんでしまうことってよくあって、毎回反省するけれど、繰り返しちゃいますよね。だから、私が作品を作る際に気をつけていることにも重なりますが、分からないし知らないからこそ、決めつけずに歩み寄ることが必要だと思います。

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■映画情報
タイトル:『息をするように』
公開日:全国順次公開中
監督:枝優花
出演:伊藤万理華、小野寺晃良

(聞き手:白鳥菜都)

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