テレビの価値が高かった最初と最後の世代

スー：今、ラジオと文筆を10年くらいやってますけど、まだ「テレビ出ないんですか」って聞かれるわけです。

松居：話はいっぱい来てますよね。

スー：うん。みんなに、私は出たいもんだと思われてる。露出としてはテレビがゴールだから。「そのうちテレビの話も来ますよ」って人は言うんです。テレビってなんなんだろう。

松居：僕から上の世代はテレビで育ってますからね。

スー：松居さんと私は、この世代と言われるところの最初と最後なんですよね。この世代が明確に何を指すのかはわからないけど、テレビの価値が高くて、映画や音楽や本はサブカルチャーとして成立していた世代。幼少期にテレビ文化にどっぷり漬かりながら、こういう仕事を始めて自分はそこへ行きたいわけではないんだということにも気付き、今はインフルエンサー的な存在への理解が追いついていかないとという焦りもある。「感覚的にわからない」というものはありますか？

松居：テレビはたくさんの人に届くと思うけど、配信ドラマだとわからないんですよ。配信で育ってないし、子供の頃、配信から恩恵を受けてないから。

スー：それこそNetflixとかから話来るでしょう。

松居：来ますけど、わからないんですよ。

スー：予算高いんだからやってみたらいいのに。

松居：予算高くても、契約した人しか見られないから、なんか腑（ふ）に落ちないんですよね。

スー：そっかー。しかしテレビは偉大ですよ。ドラマが始まったら、10年以上会ってない人が連絡してくるんだから。私も会いたいと思ってる前提で会う約束を取り付けようとする人や、なんか上から目線のねぎらいをしてくる人とかもいたし。全部男性ですけど（笑）。

松居：同級生とかですか？

スー：とか、昔の友達とか。しばらく連絡とってない人でも、女性は普通に「お元気ですか？　ドラマおめでとう」っていう距離感なのに。

松居：その世代の男の人たちにはプライドと権力があるから。立場も手に入れて。

スー：若い頃だったらしないのか！

松居：しない気がします。

スー：ひえー。いつの間にか私が下になってるわけか。どのタイミングで人はそうなるんだろう。

松居：僕は、指導者的な仕事はしないようにしてて。ワークショップの話が来ても、教えることでお金をもらってしまうと、作るのがばかばかしくなっちゃう気がして。講釈垂れるほど言葉を持ってないというのもありますけど。

「邪魔おじさん」「現場がいいおばさん」になるのが怖い

スー：35歳って難しいお年頃ですよね。現場としてはギリギリ若手に入るけど中堅だし、あと５年もしたら「若手に譲れ」という年ですよね。

松居：僕自身、上下関係なく「譲れ」と喚いてますし。

スー：そうなったとき、どうするのか。偉くならないって大事だけど、同時に場所を空けないのは若手を邪魔することになる。

松居：このまんまじゃまずいですかね。

スー：だって、そういう「邪魔おじさん」上にいっぱいいるでしょう。私もいつまでも「現場がいいおばさん」になるんじゃないかっていう怖さが自分にもあって。限りのある枠をいつまでも取っていていいのかと。どうします？　

松居：映画祭みたいなところに行くと、「松居さんと今泉（力哉）さん撮りすぎです」って自分より若い監督に言われますね。

スー：わはは。私たちは良くも悪くも居残ってしまった。残っているということは、つまり座に座り続けているということですから。

松居：下から、その椅子に座りたいという人がいる。

スー：そうそう。依頼が来た時、これはもっと若手が書いたほうがいいでしょうって断ったりはします。

松居：僕もこういうのは前にやったから、やらないようにしようとか。同じことの水増しみたいになっちゃうよりは、新しいことをやりたいですね。

そうそう、母親が４月で一個番組が終わって、でも講演会とかいろいろ居場所はあるようですけど。息子として正しい立ち位置ってなんだろうって思うんですよ。

スー：お母さまは地元福岡で活躍する、コラムニストでありラジオパーソナリティのトコさんですよね。「偉いね、譲ったんだ」はどうでしょう。「お母さんすてきだね、次の人に譲って」と。ゆずり葉の精神。これから先、体力がなくなっても、知名度があれば講演会で全然いけますよ。お母さまがラジオパーソナリティやコラムニストを始めたきっかけはそもそも？

松居：それこそ、離婚した直後からですね。最初の本を出した時に「テレビ出ませんか」という話が来て。父親が絶対やめろと言うのを「私やりたい」って、家を出て行った。それが原因で離婚しました。

スー：離婚後のキャリアなんですね。母の自立、良い話です。