これからも弱音を吐いていきたい
スー:ところで、松居さんご自身のルサンチマンは晴れました? 慶應大学に入ったものの、毎日図書館の踊り場みたいなところでパンを立ち食いして日々をやり過ごした頃のルサンチマン。
松居:うーん。ここで晴れましたとすぐに答えられない。
スー:これほんと興味深い話で。誰に聞いてもたいていそうなんですけど、どこまで到達しても、あの時の傷は100%は癒えないと。
松居:自分より下で、自分より売れてる人が見つかると、気になっちゃうんですよ。
スー:わはは! それもすごいな。なんなの、直らないの?
松居:直らないですね。
スー:自己評価は上がりましたか?
松居:全く上がらないです。
スー:信じられない!!「どうせ俺なんか」がまだあるなんて。
松居:それが原動力でもありますし。
スー:いつまで原動力にしてるんだって話じゃないですか。
松居:なくなるまで、それが自分を支配してるんですよね。
スー:いやあ、それは40歳くらいできつくなってくると思いますよ。非モテでいくのはさらにきつくなるだろうし。だってもう、それ通じないですよ。私が今この状態で、「どうせ子供も産んでないし結婚もできてません」って言い出したら、お寒いことこの上ないのと同じですよ。
松居:そうか……。
スー:原動力として頼りにしていたルサンチマンでは、創作の種に火がつかなくなる日が来る。その時、どうやって自分に着火するか、ですよね。
私の場合、できるだけ自分に不満を持ちたくないから、一生懸命ものを書いてラジオで喋ってってやってきて、それが自己セラピー的に功を奏すれば奏するほど作るものがなくなっていくという。
松居:怒りとか悔しさとかは変わらずありますけどね。なんなら昔はもっと大人になりたくて作ろうとしてたんですよ。もっと届けたいとか。今はそういうのはなくなって。初期衝動をどれだけ思い出せるか、子供っぽい作り方を最近してて、それが結構居心地がいい。
スー:何に対して怒りを感じがちですか?
松居:一番腹が立つのは教祖になるのがうまい人に対してのイライラですね。
スー:サロンビジネス!
松居:映画監督とか舞台演出家は割とそうなりがちなんですよ。マインドコントロールに長けている人がどんどん見えてくる。あれは健全じゃないと思います。
スー:うそっぱちに腹が立つってことですか?
松居:弁が立つ人に腹が立つんですよね。スーさんは弁が立つけど本音だから大丈夫です。
スー:わかんないな。それと何が違うんだろう。
松居:自分の言葉ではなく、人の心をコントロールするための言葉ですかね。
スー:あーそうか。モテテクか。モテるためのテクニックであって本心ではないやつ。
松居:言い方変えたらそうかもしれない。男が弱音を吐きづらいって、前の対談で二村(ヒトシ)さんが言ってましたけど、僕は弱音をこれからも吐いていきたいと思っていて。それによってみんなが意思を持って一緒に仕事をするというのがいい状態で。みんなが考えないようになる創作現場は健全じゃないし、「この人が絶対」みたいになるのが嫌なんです。だから、わからないことにはわからないと言いたい。
スー:権力を手にすると周りが誰も意見しなくなって、ずれていきますからね。
松居:裸の王様みたいに。
スー:我々、すでに若干その気がありますからね。そもそも、どこかに行ってないがしろにされるってことももうあんまりないですし。
松居:減りましたね。
スー:そうすると、どんどんぞんざいな人間になっていくわけですよ。怖い怖い。
松居:高校、大学の時にぞんざいにされた記憶は昨日のことのように覚えていますけどね。
スー:はぁー! 強いね。
松居:だから絶対に天狗にはならない、というか、なれない。
スー:わかんないぞ、そんなの。今だって「松居大悟めっちゃ天狗だよ」って陰で言われてるかもしれないし。今までと同じようにしてても、天狗に見られることもあるから。私なんて口も悪いし態度もデカいし、下っ端の頃は勢いのある跳ねっ返りの強い若い女で重宝されたけど、今それやったら……、ね。私は変わってないのに。
あとさ、手にしたものがあるのはそれはそれで事実じゃん。だから「あの時のことは決して忘れてませんよ」とか言いながら、ワイン飲んでガウン着て暖炉の前で猫をなでてると、感じ悪いってことになりますよ。手に入れた状態の自分にどう腹をくくるかというのは、私にとっては次の課題。
※次回は5月19日(水)公開です。
【第1回】冴えてるか冴えてないかも自分で決めたい…映画『くれなずめ』で描いたもの
■映画情報
『くれなずめ』公開中
【監督・脚本】監督・脚本:松居大悟
【出演】成田 凌 若葉竜也 浜野謙太 藤原季節 目次立樹/飯豊まりえ 内田理央 小林喜日 都築拓紀(四千頭身)/城田 優 前田敦子/滝藤賢一 近藤芳正 岩松 了/高良健吾
【クレジット】 (C)2020「くれなずめ」製作委員会
【配給・宣伝】東京テアトル